Outline of Annual Research Achievements |
全身の細胞のエンドサイトーシスの主役を務める蛋白質であるClathrin heavy chain(以下CHC)は, これまでの我々の研究で, 多くの種類の癌の組織中で強く発現しており, 特に原発性肝細胞癌(HCC)や食道上皮内腫瘍において, 病理組織診断における腫瘍の良・悪性の鑑別に有用であることが判明している。そして, 他の上部消化管腫瘍の病理組織診断においても組織診断マーカーとして有用である可能性がある。 我々は, 上部消化管の悪性腫瘍の切除標本について, CHCおよび既存の組織診断マーカーであるp53蛋白およびKi67蛋白の免疫組織化学染色を行った。その結果, CHCは喉頭癌, 舌癌, 咽頭癌, 歯肉癌で, それぞれ83, 60, 89, 71%で陽性以上の発現を認め, この検出率はp53やKi67よりも高い成績であった。さらに, tissue micro arrayを購入して多数症例で検討した結果, CHCの陽性を悪性と診断した時の感度・特異度は咽頭癌で75%・77%, 舌癌で93%・63%, 口腔癌で61%・52%であり, CHCの強陽性を悪性とした時の感度・特異度は、それぞれ44%・100%, 56%・94%, 30%・90%と特異度が上昇した。したがってCHC染色は, HE染色での病理組織診断が困難な症例における, 正確な病理診断に貢献できる可能性が示唆された。 一方血清中の抗CHC抗体量は, HCC患者で明らかな高値傾向を示し, あらたな腫瘍マーカーとなる可能性が示唆されていた。しかしELISA構築のためのCHC蛋白が供給停止となったため, 新たな抗原を用いたELISA法を開発する必要が生じた。CHCは分子量190kDaと長大で全蛋白を合成するのは不可能である。そこで, CHCの2次構造の予測, 親水領域の同定による表面露出の推定, 極性などから, 生体内での自己抗体生成における抗原推定部分を想定し, このような推定部分12箇所について, 15-17Daのペプチドを合成した。今後は本ペプチドを混合した場合のELISA法を開発し, 腫瘍マーカー検査法としての性能を評価する必要がある。
|