2014 Fiscal Year Research-status Report
ボツリヌス毒素の脊髄後角における鎮痛作用機序の解明
Project/Area Number |
25460733
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Research Institution | Kumamoto Health Science University |
Principal Investigator |
吉村 恵 熊本保健科学大学, 生命科学研究科, 教授 (10140641)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
申 敏哲 熊本保健科学大学, 保健科学部, 准教授 (70596452)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ボツリヌス毒素 / 痛み / 脊髄後角 / 鎮痛 / 伝達物質放出 / C線維 / 慢性疼痛 / 膠様質細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
ボツリヌス毒素は神経筋接合部に働き、神経終末からのアセチルコリンの分泌を抑制することによって筋の弛緩や麻痺を惹起する。ところが最近、慢性疼痛の発生部位に投与することによって慢性の痛みが抑制されることが臨床的に多く報告されている。しかしながらその作用機序および作用部位については未だ明らかではない。そこで、慢性疼痛モデルラットを作製し、次いでボツリヌス毒素を足底に投与したラットから1日目と7日目、および1ヶ月目に脊髄スライスに後根を付した標本を作製し、後根誘起のシナプス応答の変化を脊髄後角の膠様質細胞からパッチクランプ記録法によって調べた。膠様質細胞では後根刺激によってA-deltaおよびC線維誘起のシナプス応答が記録されるが、正常ラット脊髄ではその振幅には有意差が見られなかった。しかしながら、ボツリヌス毒素を投与したラットではC線維誘起のEPSCの振幅が減少する傾向が見られた。ラット足底に炎症物質を投与した実験から、足底からの膠様質への入力は内側に限局することが分かっているため、膠様質からの記録を内側と外側で行い、相違があるか否かを調べた。その結果、内側の膠様質細胞ではC線維による応答の振幅の減少が顕著であったが、外側のそれには大きな変化が見られなかった。このことはボツリヌス毒素が足底部の神経終末から吸収され順行性に脊髄後角まで運ばれたことを意味していると考えられる。また、ボツリヌス毒素投与7日目以降のラットでは振幅に変化が見られたが、一日目のラットでは変化が見られなかった。以上のことから末梢の皮下に投与されたボツリヌス毒素はC線維終末から吸収され、順行性に脊髄後角に運ばれ痛みの伝達に何らかの作用を及ぼしているものと考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
怪我のため入院を余儀なくされ、実験を行う時間が大幅に短縮した。また、ボツリヌス毒素の使用に対して大学の各種委員会への提出書類の不備などにより、許可を得るために多大な時間を要し、実験の開始が遅れた。
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Strategy for Future Research Activity |
ボツリヌス毒素が痛覚情報伝達に対して何らかの作用を持つことが示されたため、今後はボツリヌス毒素を注入した部位が、脊髄後角膠様質のいかなる部位に投射しているかを、c-fosなどを用いて明らかにしていき、投射部位からの記録と非投射部位からの記録に差違があるか否かを調べる。 次いで、ボツリヌス毒素の作用がいかなる時間経過で顕著となるかを、投与からの時間を分けたラットを用いて検証する。さらに、今までの実験では変化を受けているシナプス応答がC線維からのものに限られることから、その選択性がいかなる機序によって起こるかを明らかにしていく。これには末梢での毒素の吸収に差違がが有るためか、または脊髄内での終末によって差違が出たためかを調べる。次いで、軸索輸送のみならず体液、または血液を介した毒素の移行が有るか否かを調べる。そのため軸索移送をブロックすると考えられるコルヒチンを軸索に持続的に投与して、いかなる相違が出るかを明らかにする。しかしながら今までの結果では、ボツリヌス毒素の作用がC線維に特異的であることから、体液または血液を介した中枢神経への毒素の移動は考えにくいと考えられる。
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Causes of Carryover |
事故によって脊髄を損傷し、その治療とリハビリのため実験を行う時間がとれなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
購入予定であったデータ取得装置とデータ解析ソフトを最新のものと取り替え、より効率的なデータの取得と多彩な解析を行う予定である。
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