2015 Fiscal Year Research-status Report
急性冠症候群の系統的実態把握ならびに救急搬送・診療ストラテジーの確立に関する研究
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25460750
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
川村 孝 京都大学, 保健管理センター, 教授 (10252230)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
石見 拓 京都大学, 保健管理センター, 教授 (60437291)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 予防医学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、急性冠症候群患者の治療成績改善のため、病院前の救急搬送体制及び、病院到着後の治療に関するデータを前向きに登録・分析し、『救急搬送される急性冠症候群の実態を把握し、適切な救急医療体制ならびに治療ストラテジーを検討すること』を目的とする。 研究3年目となる平成27年度は、平成23年度に運用を開始した登録システムでのデータ収集の継続と、データのクリーニングを実施しつつ、大阪府泉州二次医療圏において集積された、病院前の救急搬送に関するデータと、病院到着後の治療データとを連結させ解析を行った。18歳以上で救急搬送され、入院に至った症例は19,864例であり、そのうち医師による確定診断で急性冠症候群:不安定狭心症、急性心筋梗塞と診断された症例は、368例であった。救急隊が正しく疾患を疑った症例と、疑わなかった症例とで、1ヶ月後の死亡頻度を比較した結果、急性心筋梗塞の患者において、救急隊が正しく疾患を疑った症例の方が1ヶ月後の死亡が少なかった(2.9% vs 16.0%, P<0.001)。また、救急隊が正しく疾患を疑った症例の方がPCI対応施設への搬送割合(97.1% vs 91.5%, P=0.049)及び、PCIの実施割合(79.7% vs 62.3%, P=0.002)が高かった。急性心筋梗塞患者において、救急隊による正確な疾患疑いが適切な搬送先選定及び治療に繋がり、患者転帰の改善に寄与している可能性があり、これらのデータは急性冠症候群の治療ストラテジーとして「救急隊の評価能力の向上」も重要であることが示唆している。 平成28年度は、上記データに更に症例を追加して、より精度の高い解析を実施する予定である。また、Web登録システムを用いて集積したデータについても解析を行い、より詳細な分析を実施した後、研究成果の発信方法として英語原著論文、国内、国際学会での発表などを予定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究3年度目となる平成27年度は、データ収集を継続するとともに、データのクリーニングを実施している。また、研究代表者と京都大学・大阪大学の研究分担者が中心となって、大阪府泉州二次医療圏において集積された、病院前の救急搬送に関するデータと、病院到着後の治療データとを連結させて、解析を行った。検証した仮説は「急性冠症候群:不安定狭心症、急性心筋梗塞において、救急隊が正しく疾患を疑うことが、患者転機を改善するか?」というものである。 今回の解析対象は、平成23年8月から平成25年9月までの間に、18歳以上で救急搬送され、入院に至った症例19,864例で、そのうち、急性冠症候群:不安定狭心症、急性心筋梗塞と診断された症例は、368例であった。十分な検討には更なる症例の集積が求められるが、研究3年目としては、2万例近い入院症例並びに400例近い急性冠症候群の症例集積と解析ができたことはおおむね予定通りである。 また、本研究においては、病院前の消防機関によるデータと入院後の医療機関のデータの連結が重要な課題であったが、今回の解析で両者の連結が計画通りに行えることが確認できたことも大きな成果である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度も前年と同様に、研究分担者、大阪府や消防組織等などの行政組織、症例登録に関係する病院機関との打ち合わせを定期的に実施し、研究遂行にあたっての問題点を改善していく。研究事務局には引き続きデータマネージャーを確保し、データの質を維持するとともに研究参加施設の現場負担を極力減らし、登録症例数を確保する。最終年度となる平成28年度は、システム運用開始後に生じたレジストリに関わる課題を整理・改善するとともに、現在までの達成度にて報告したデータに、更に症例を追加して、より精度の高い解析を実施する予定である。また、Web登録システムを用いて集積したデータについても解析を行い、研究成果を発信する予定である。研究成果の発信方法としては、英語原著論文、国内、国際学会での発表などを予定している。 本研究では、急性冠症候群の病院到着後の治療体制、治療内容の実態把握、予後予測因子などの検討を目的としており、地域をできるだけ網羅して急性冠症候群に対する搬送先状況、病院到着後の治療の実態を明らかにすることを目指している。そのために、研究事務局が地域の病院ならびに消防行政と密に連絡を取り合い、協力し合うことで現場の負担を極力減らし、登録並びにフォローアップ率の向上を目指す。さらには、本研究で得たノウハウを共有し、登録を拡大するために、関係学会等に呼びかけて対象施設の大阪府全体ならびに府外への拡大への提案も、継続して試みる。
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Causes of Carryover |
研究はおおむね順調に推移しており、最終年度となる平成28年度には、集積されるデータを解析し、国際学会での発表、論文作成など成果の公表に力を注ぐ予定である。そのため、平成27年度は極力、会議費、旅費や消耗品等を節約し、次年度に繰り越し金を発生させ、国際学会での発表のための海外出張旅費、英文校閲費を確保した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究分担者・協力者間の定期的な会議並びに実務者によるWG会議(それぞれ年間4回程度を予定)を行う為の交通費、会議費、レジストリ研究の運営に関る物品費を計上した。平成28年度も引き続き、効果的かつ維持・運営のしやすい症例登録システムおよび体制を構築し維持する必要がある。これは質の高い研究データを得る為に不可欠であり、本研究の遂行上もっとも重要な、データの登録・マネジメント補助を行う為のデータマネージャーに対する謝金に要する経費を計上した。データ登録システムの構築・維持および管理にあたっては開発ノウハウを有する企業に委託を行う必要がある。個人情報を保護した上で他施設から集積される情報を管理する為に外部のサーバを利用したデータ管理が必要であり、この経費も計上した。これに加えて集積されるデータを解析し、成果をまとめて国際学会で発表する為の海外出張旅費、英語原著論文作成のための英文校閲費を確保した。
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