2014 Fiscal Year Research-status Report
アジアにおける人獣共通感染症としてのウイルス性胃腸炎の分子疫学的研究
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25460791
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
沖津 祥子 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 客員研究員 (10082215)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ウイルス / 下痢症 / 人獣共通感染症 / 国際情報交換 / タイ |
Outline of Annual Research Achievements |
2009~2014年の5年間に日本国内5カ所の小児科外来を受診した小児の便検体から乳幼児のウイルス性胃腸炎起因ウイルスを検索し、流行したウイルス、その遺伝子型の変遷を調べた。11種類のウイルスを検出対象とした結果、調べた検体の72.1%で何らかのウイルスが検出され、これは以前に比べて格段に高頻度であった。ウイルス別ではノロウイルスの検出頻度が43%と高く、続いてA群ロタウイルス(17.2%)、さらにヒトパレコウイルス、エンテロウイルス、アデノウイルス、サポウイルス、アストロウイルス、アイチウイルスが続いた。13.4%に複数のウイルスが同時に検出された。ノロウイルスをさらに詳細に解析した。ノロウイルスのGII.4が主に流行(64.5%)し、その中でも変異型の変遷が見られた。すなわちDen_Haag_2006bが36.9%と主流であったが、新しい変異型New_Orleans_2009が台頭し2012年3月まで主流であった。その後Sydney_2012に置き換わり、これが現在まで主流となっている。このことからノロウイルスの新しい変異型がヒトの免疫反応を回避し、流行していると考えられる。 ピコルナウイルス科に属するヒトコサウイルスを日本の乳幼児ウイルス性胃腸炎便検体から初めて検出した。このウイルスは、これまで他のウイルスとの重感染が多く、病原性が疑問視されていたが、この患者では他のウイルスや細菌との重感染がなく、病原性があることが示唆された。さらにこのウイルスの全塩基配列を決定し、新しい遺伝子型であることを報告した。 タイの下痢および健康なブタ、日本の健康なブタから得たピコルナウイルス科のAichivirus C16株の 2B領域を調べたところ、すべてvariant株であった。これらの国ではvariant株が流行していること、variantであることと病原性とに関係がないこと報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ピコルナウイルス科のブタコブウイルス(Aichivirus C)の2B領域の解析を行い、論文発表を行った。また、培養不成功のこのウイルスの培養を試みたが、CPEは認められなかった。新鮮なウイルスの使用が重要と考えられ、検体が手に入れば再度試みる。 同じピコルナウイルス科のヒトコサウイルスは病原性が疑問視されているが、日本の乳幼児急性胃腸炎患者から初めて検出し、この患児では胃腸炎の原因であると考えられた。またウイルスの全塩基配列の報告を行った。このウイルスはA種に属しているが、その遺伝子型は今まで報告されていない新しい型であった。このように下痢症起因ウイルスは数多く報告されているが、このウイルスも日本で下痢症の原因となることがわかった。また、このウイルスはこれまでヒトからのみ報告されているが、人獣共通感染症の可能性を視野に、日本、タイのブタ便検体から検出を試み、得られた検体に関して解析を実行中である。 このように日本を含めたアジアのウイルス性胃腸炎起因ウイルスの疫学に関して、ヒト及び動物検体からその流行ウイルスの特徴の解析を実行中である。この研究内容は、継続的に行い、経年的な変遷を調べることが重要である。
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Strategy for Future Research Activity |
人獣共通感染症であるロタウイルス感染症は近年日本ではワクチンが導入されたため、その流行株への影響を調べることは緊急の課題である。またこのウイルスの流行は他の動物の感染にも影響すると考えられる。動物が感染することによって組換えや遺伝子再集合が起こり、新たなウイルスが生まれる。これはヒトの集団がすでに持っている免疫を回避して流行することにもつながり、そのサーベイランスは重要である。そこでロタウイルスおよび他の下痢症ウイルスを対象として、日本の乳幼児からウイルスの検出およびその遺伝子型の2014~2015年における感染者数の動向や遺伝子型の変遷を調べる。 ロタウイルス以外のこの研究での対象ウイルスの多くは、家畜やヒト以外の動物における情報は少ない。類人猿での感染についてもロタウイルスの抗体価測定以外では報告がないが、その一方で下痢が多いことは知られている。マレーシア・サバ州での野生オランウータンおよび、リハビリテーションセンターでオランウータンの糞便を採取しその便中のウイルスをこれまでヒトの便で培った技術(Multiplex PCRを利用した11種類のウイルスの同時検出法)を用いて調べる。また、現地で迅速に診断できるイムノクロマトキットを用いて、ウイルスを検出し、これまでヒトで使用されてきたキットが使用可能であるか調べる。リハビリテーションセンターでは下痢が多いことから、キットを使用することで感染制御ができないか試みる。マレーシア・サバ州での研究の許可は共同研究者によって得ている。この研究はウイルスの進化を知り、ウイルスの宿主特異性を調べるために重要と考えている。 新しくタイの仔ブタ下痢検体を入手予定で、ブタとヒトに共通感染する下痢ウイルス、最近検出されたウイルスの検出を行い、近年の流行ウイルスとの遺伝子の相違などを調べる。
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Causes of Carryover |
2014年度はアイチウイルスC(ブタコブウイルス)の培養を行う予定で、共同研究者から細胞を供与され、ウイルス培養の準備などを行ったが、ウイルス培養は不可であった。このウイルスの培養が難しいこととともに、使用した検体が新鮮でなかったことも大きいと考えている。そのために培養に必要な試薬、消耗品などを使用しなかった。2014年度の研究ではブタ検体からコサウイルスの検出を行い、新たなプライマーの作製やそれを用いたPCR反応で作製できた増幅産物の配列決定を行った。また、国内外での学会発表、論文の英文修正などに研究費を使用した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度新鮮なブタ便検体が手に入る場合はブタコブウイルスの培養を試み、このために研究費を使用する。 さらに今年度は日本の乳幼児の下痢症ウイルスの疫学調査および、新たな計画としてマレーシア・サバ州でのオランウータンからの検体採取とウイルス疫学調査を計画している。このため分子疫学のための試薬、消耗品の購入、新しいプライマー作製やそれを用いたPCR反応の増幅産物の配列決定、およびマレーシアでの検体採取のための現地研究協力者への謝金、迅速診断キット購入などを計画している。さらに国内外の学会参加旅費、論文投稿費、英文校正などに使用予定である。
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Research Products
(32 results)
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[Journal Article] Sensitive and rapid detection of Campylobacter species from stools of diarrheal children in Japan by LAMP method2014
Author(s)
Ushijima H, Nishimura S, Thongprachum A, Shimizu-Onda Y, Tran DN, Pham NTK, Takanashi S, Dey SK, Okitsu S, Yamazaki W, Mizuguchi M, Hayakawa S
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Journal Title
Jap J Infect Dis
Volume: 67
Pages: 374-378
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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[Journal Article] Detection and molecular characterization of human cosavirus in a pediatric patient with acute gastroenteritis, Japan2014
Author(s)
Okitsu S, Khamrin P, Thongprachum A, Nishimura S, Kalesaran AFC, Takanashi S, Shimizu H, Hayakawa S, Mizuguchi M, Ushijima H
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Journal Title
Infect Genet Evol
Volume: 28
Pages: 125-129
DOI
Peer Reviewed / Acknowledgement Compliant
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[Presentation] Circulating rotavirus in hospitalized pediatric patients, with the predominance of G1P[8]DS-1-like human rotavirus in Manado, Indonesia2014
Author(s)
Kalesaran AFC, Thongprachum A, Pangemanan DHC, Takanashi S, Okitsu S, Hayakawa S, Warouw SM, Mizuguchi M, Ushijima H
Organizer
International Meeting on Emerging Diseases and Suiveillance
Place of Presentation
Hilton Vienna (オーストリア、ウイーン市)
Year and Date
2014-10-31 – 2014-11-03
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[Presentation] Molecular epidemiology and genetic analyses of norovirus in Japan, 2006-20142014
Author(s)
Thongprachum A, Chan-it W, Takanashi S, Okitsu S, Kobayashi M, Nishimura S, Kikuta H, Yamamoto A, Sugita K, Baba T, Mizuguchi M, Hayakawa S, Ushijima H
Organizer
第46回日本小児感染症学会学術集会
Place of Presentation
京王プラザホテル(東京都新宿区)
Year and Date
2014-10-18 – 2014-10-19
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[Presentation] Detection and genetic characterization of human cosavirus in a pediatric patient with diarrhea, Japan2014
Author(s)
Okitsu S, Khamrin P, Thongprachum A, Nishimura S, Takanashi S, Shimizu H, Hayakawa S, Ushijima H
Organizer
XVIth International Congress of Virology
Place of Presentation
Palais de congrès de Montréal, Montréal, Canada
Year and Date
2014-07-27 – 2014-08-01
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