2013 Fiscal Year Research-status Report
石綿曝露指標としての肺内石綿小体及び肺内無機繊維の関連に関する検討
Project/Area Number |
25460821
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Aichi Medical University |
Principal Investigator |
柴田 英治 愛知医科大学, 医学部, 教授 (90206128)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
榊原 洋子 愛知教育大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (90242891)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 石綿 / 石綿小体 / 角閃石 / クリソタイル / 鉄タンパク / 剖検肺 / 中皮腫 |
Research Abstract |
我々は電子顕微鏡を用いた石綿繊維分析結果と現在わが国で広く行われている肺内石綿小体の分析結果を比較検討してきた。多くは非石綿関連疾患で死亡した症例であったが、すでに分析が終わっている57例に加え、職業的石綿ばく露が明らかな中皮腫例31例、石綿関連肺がん例2例を新たに分析して検討に加えた。この結果、両評価法の比較検討を行った症例は、分析済みの非石綿関連疾患22例、事故死剖検例39例を合わせ、計94例となった。含鉄小体と肺内繊維濃度との相関を、 繊維の長さを問わない全体と、繊維の長さを認定基準の1μm以上・未満で群分けして検討した。含鉄小体濃度は角閃石系石綿とは1μm以上でも未満でも、また全体でも有意な相関を認めた。また、1μm以上の非石綿繊維とも有意な相関を認めたが、クリソタイル濃度とは長さの群分けでも全体でも高い相関係数が得られなかった。石綿小体を観察する際には、石綿小体とともに鉄タンパクで被覆されない繊維が観察できるが、これらの非被覆繊維濃度と各種繊維濃度との相関について同様に検討すると、1μm以上のクリソタイル、角閃石系石綿、非石綿繊維と全繊維では角閃石、石綿繊維、無機繊維と有意な相関が得られた。 一方、石綿小体の被覆を剥離するための条件について検討を行った。これに8%シュウ酸、2mol/lクエン酸及び対照として精製水の3種類について、さらに温度条件として室温、60℃、75℃の3条件で2時間インキュベートしたのち、フィルターを作成して鏡検した。現在各条件での被覆剥離の状態を確認しているところであるが、最も剥離が進むと考えられた8%シュウ酸、75℃インキュベートの条件で85%の被覆繊維が剥離できることが明らかになっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画では昨年度、新たに50例の肺内各種石綿繊維濃度と肺内石綿小体濃度、及び非被覆繊維濃度の相関などの検討を行う予定であった。昨年度は新たな解析例は37例であり、目標にはやや及びないものの、ある程度の検討例数を増やすことができた。その結果、従来の両方法の関連で得られた所見に沿う所見が得られた。これに加え、一般には計測されることのない非被覆繊維を計測することにより、クリソタイル曝露をある程度評価することが可能であることが示唆された。従来、クリソタイルは時間経過とともに肺内から消失するため、評価に困難を伴うことが知られているが、新たに位相差光学顕微鏡により、比較的容易にクリソタイル曝露の評価が可能になることが期待できることがわかった。 もう一つの目標であった石綿小体を被覆している鉄タンパク剥離条件の検討では8%シュウ酸で、75℃の条件の下、2時間のインキュベーションで80~90%の被覆繊維の剥離ができることを示唆する結果が得られている。このことで今後被覆剥離後の繊維の分析により、石綿繊維種の同定に道が開けた。昨年度はまだごく大まかな条件の検討であったが、より詳細な検討により、正確かつ簡便な検討を始める基礎的条件が得られた。 もう一つの目標に新たな症例の収集があった。昨年度は多数の症例が得られたわけではないが、病理医から剖検肺として17例、各例について左右五葉の標本の提供を受けた。これにより、各症例の肺内石綿繊維、或いは肺内石綿小体濃度の代表値を検討することが可能になった。 上記から、おおむね計画に沿った成果が得られていると評価できるとともに、新たな研究課題も生まれ、今後の計画に盛り込むことができると考えられた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度に検討した石綿小体蛋白被覆剥離条件の検討をさらに進め、短時間で簡易に、より大きな割合で剥離ができる条件を明らかにする。特に昨年度の検討ではインキュベーションの時間を2時間として検討したが、今後、この時間を短縮できるかについても検討を重ねる。温度条件についてもより低温でのインキュベーションの可能性について検討を行う。 さらにこの方法で被覆剥離した石綿繊維の同定を分析電子顕微鏡を用いて行う。また、非被覆繊維についても繊維種類の同定を進める。これにより、被覆された石綿小体及び非被覆繊維、それぞれを形成する石綿繊維種類の特徴が明らかになることが期待される。また、引き続き、繊維長をはじめとするサイズとの関連も検討し、石綿繊維の長さ、石綿繊維の種類と石綿小体形成との間にみられる関連について検討する。ただし、これらの検討ができる例数は限られると考えられるので、時間の制約がある場合は石綿小体を形成する石綿繊維の同定を優先させる。 一方、昨年度両側の五肺葉の標本が入手できた17例については全肺葉の肺内種類別・サイズ別石綿濃度、肺内石綿小体・非被覆繊維濃度の分析を行い、肺葉間の測定値のバラツキ、適切な代表値の取り方について検討を行う。 また、昨年度収集した剖検肺に加え、引き続き、臨床医、病理医などの協力を得て剖検肺の入手に努める。特に今後増加が予想される石綿関連肺がん例については重点的な収集が必要である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
剖検肺標本中の石綿繊維を分析電子顕微鏡によって分析する際に必要な前処理には低温灰化装置が必要であるが、これが平成24年度までは研究協力者の久永直見が所属していた愛知教育大学に設置してあった。しかし、久永の定年退職に伴い、これを研究代表者、柴田が所属する愛知医科大学に移設した。移設後装置の調整に手間取り、本格的な試料の前処理が進まなかったことが次年度使用額が生じた主な理由である。また、石綿小体の被覆剥離条件の検討も年度中間から諸条件の検討が進んだが、当初の計画から考えると若干の遅れが出ていることも次年度使用額が生じたもう1つの理由である。 上記の低温灰化装置の稼働を本格化させ、新たに入手した肺標本の前処理を進めること、また石綿小体の剥離条件の詳細な検討を進めることにより、消耗品の購入が進み、次年度使用額を含め、予定使用額を執行するとともに、計画通りの成果を挙げられるように研究遂行に努める所存である。
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Research Products
(8 results)