2015 Fiscal Year Research-status Report
患者安全指標を用いた周術期ケアの質評価に関する研究
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25460853
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Research Institution | Toho University |
Principal Investigator |
長谷川 友紀 東邦大学, 医学部, 教授 (10198723)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松本 邦愛 東邦大学, 医学部, 講師 (50288023)
藤田 茂 東邦大学, 医学部, 講師 (50366499)
北澤 健文 東邦大学, 医学部, 助教 (30453848)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 臨床指標 / 患者安全 |
Outline of Annual Research Achievements |
医療の質と安全の確保は先進各国において重要な政策課題である。各国では、医療の質を客観的に把握、評価する臨床指標の開発をすすめるとともに、退院患者情報等から臨床指標値を求め、得られた指標値の公開や多施設間ベンチマーク等を通じて、医療の透明化と質の向上を図ろうとする試みも行われている。 米国AHRQ(Agency for Healthcare and Quality)は、1990年代前半から医療の質に関する臨床指標の開発とデータ収集事業を開始し、AHRQ Quality Indicators(QIs)として臨床指標を体系化している。そのうち医療安全領域の指標群は、PSI(Patient Safety Indicators)として整理されている。PSIは、主に潜在的に予防可能な合併症に着目し、入院後に発症した病態に関する情報等をもとに指標値が算出される。研究代表者は、我が国のDPC/PDPSデータに含まれる退院患者情報のうち、患者属性や入院後発症病態等に関する情報を用いることで、PSIが算出できることを先行研究で明らかにしている。 本研究では、①米国AHRQ等により開発された医療安全指標のレビューに基づき、公益社団法人全日本病院協会(全日病)による医療の質評価事業(Medi-Target事業)のDPC/PDPSデータを用いたPSIの算出、②周術期ケアに関連するPSIと、手術件数、患者重症度、手術難易度、その他の病院属性との関連の分析、③国内外における周術期ケアの質評価の現況と課題を明らかにし、今後の方向性を検討する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
PSIの算出には2009年1月から2011年12月に退院した患者の連結不可能匿名化されたDPC/PDPSデータを用いた。周術期ケアに関連するPSIとして、PSI#4(術後の治療可能な重症合併症による死亡率)、PSI#9(術後の出血、血腫発生率)、PSI#13(術後の敗血症発生率)を取り上げた。分析対象は191施設、1,955,100名であった。 2013年度研究では、月当たり手術件数とPSIとの関係を明らかにした。PSI#4は月当たり手術件数と有意な負の相関がみられた。一方、PSI#9とPSI#13では、月当たり手術件数と有意な正の相関がそれぞれみられた。 2014年度研究では、医療安全に関連する病院属性とPSIとの関係を分析した。医療安全対策加算の算定状況に基づいて病院を2群に分け、群間で各PSI指標値を比較した結果、PSI#4とPSI#13では、各年とも統計学的有意差はなかった。PSI#9は、2009年は医療安全対策加算を算定している群で有意に低値であったが、2010年は医療安全対策加算を算定している群で有意に高値であるなど、一定の傾向は認められなかった。 2015年度研究では、手術件数と各指標値の2009~2011年における動向との関連を分析した。手術件数は月当たり手術件数の33パーセンタイル値と66パーセンタイル値により区分し、手術件数の多い群から順にHigh-Volume群、Middle-Volume群、Low-Volume群とした。また、各指標値の動向は、各年の指標値から求めた回帰直線の傾きの正負に基づいて上昇と低下に区分した。PSI#4とPSI#9では手術件数と指標値の動向に有意な関連がみられ、Low-Volume群では、PSI#4が上昇している割合が他群に比して多く、PSI#9が低下している割合が他群に比して多かった。
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Strategy for Future Research Activity |
DPC/PDPSデータ分析では、新たに退院した患者の情報を追加し、分析データベースの整備を継続する。また、AHRQが公開している最新版のPSI算出に関する技術仕様書を用いて、本研究で用いているPSI算出ロジックの精緻化を図る。そのうえで、手術件数のほか、患者重症度、手術難易度、その他の病院属性等と周術期ケアに関連するPSIとの関連を解析する。 文献調査では、引き続きオーストラリア、英国、米国を中心に、海外における周術期ケアの質評価の歴史と現況、情報公開に関する文献調査を行う。また、国内における臨床指標の算出とその活用に関する文献調査も継続する。 事例調査のうち国内調査では、周術期ケアの質評価を積極的に実施している病院を対象とした調査を行い、情報収集体制や院内での評価結果活用の実態とその効果を明らかにする。海外調査では、PSIをはじめとする臨床指標を用いて周術期ケアの質評価を実施している数施設を対象としたヒアリング調査を行い、院内の体制や質評価実施の効果を明らかにする。
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Causes of Carryover |
データベース整備に伴う費用、事例調査に伴う費用等が見込みより低額であったため残額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
データ処理に使用する情報処理機器とその周辺機器、統計解析ソフトウェアの購入等を平成28年度に予定している。また、事例調査実施に伴う費用の他、研究成果の発表を国内外の学会において行う際の費用に使用する。また、論文投稿に伴う費用にも使用する予定である。
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