2014 Fiscal Year Research-status Report
次世代シークエンサーを用いた死後microRNAの網羅的検索とその法医学的応用
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25460860
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Research Institution | Kansai Medical University |
Principal Investigator |
橋谷田 真樹 関西医科大学, 医学部, 講師 (40374938)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | microRNA / ラット / 死後経過時間 / TaqMan法 |
Outline of Annual Research Achievements |
ノンコーディングRNAであるmicroRNA(miRNA)は,約20塩基の一本鎖RNAであるが,遺伝子発現を制御できる機能を持ち,高次生命現象や病態への関与が注目されている.これまでの我々の研究でmiRNAは死後もある程度残存することが確認されており,法医実務に有効なバイオマーカーとなり得る可能性をもつ.本年度は,ラット血液を用いて死後経過時間推定マーカーの確立を目的とした実験を行った. 生後9週のSDラットを過麻酔にて安楽死させた後,死亡から血液採取までの時間により,死亡直後,6,12,24,36, 48時間後の6群に分けそれぞれ3匹,計18匹から血液を採取し,試料とした.市販のキットを用いてtotal RNAを抽出し,TaqMan法にてmiRNAの発現量(残存量)の比較解析を行った.解析したターゲットは通常内部標準として用いられている,U6 snRNA, U87, Y1, 4.5S RNA(AY228147),4.5S RNA(AY228151)の5種,およびmiR-16,miR-451の2種のmiRNAである. 死後のmiRNA発現解析は,何をターゲットとし,何をコントロールとして補正するかが非常に重要なポイントとなる.今回は血液を試料としていることから,血中での発現量が安定しているmiR-451をコントロールとし,5種の内在性コントロールを今回はターゲット候補として解析を行った.その結果,4.5SRNA(AY228147)(R2=0.944)が最も成績がよく,次いでY1(R2=0.934)であった.これらはそれぞれ91塩基,および74塩基の長さを持つ,ラット特有の低分子量細胞質RNAである.臓器と血液ではその残存量,すなわち分解速度に大きな差があり,血液の方が分解されにくいことが,同じU6 snRNAをターゲットとした今年度の実験で判明した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ラット死後のmicroRNA(miRNA)の挙動はまだまだデータ不足であると言える.しかしながら,これまでのラットを用いた実験から, miRNAの死後経過時間推定のマーカーとしての可能性が見出されている. 昨年は心臓,および肝臓を使用して,そして今年度は血液を試料として有効なコントロールおよびターゲットの確立に成功している.心臓,および肝臓を試料とした場合は,ターゲットをU6 snRNAとし,それぞれmiR-16,およびmiR-21をコントロールとすべきであることが判明した.また,血液を試料とした場合には,4.5SRNA(AY228147)をターゲットとし,miR-451を用いて補正することでより正確な死後経過時間の推定が可能となる結果が得られた.このコントロール,およびターゲットとは,解析方法として採用したTaqMan法には必須のものである.通常は発現量を求めたい遺伝子をターゲットとし,どの細胞においても常に発現量が大きい遺伝子を内在性コントロールと用いて補正することで正確な発現量の比較等が行えるのである.しかし,この点が死後の試料を用いたときには大きく異なっている.つまり,個体が死亡すると徐々に生体分子の分解が起こり,通常のコントロール領域もその意味を失ってしまう.そこで逆に,死後もある程度の時間は安定して残存しているmiRNAをコントロールとし,通常コントロールとして用いていた遺伝子群をターゲットとした方が,死後経過時間との相関が顕著によい結果となった.この点を新たに見出せたことがこれまでの成果であると言える.さらに,心臓,肝臓でターゲットとなったU6 snRNAであるが,血液ではよい結果が得られなかった.これは臓器中と血液中での残存量の違いに加え,その存在状態に違いがあることから,分解される進み方に違いが出るのだと思われる.以上がこれまでの研究成果である.
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Strategy for Future Research Activity |
死後経過時間推定マーカーとしての研究はこれでひと段落とし,平成27年度は本来の目的である,死後でも生前のストレスレベルが推定可能なストレスマーカーとしてのmiRNAの探索を行う予定である.方法としては,ラットに物理的なストレスを与え,安楽死後の臓器・血液から次世代シークエンサーを用いてmiRNA解析を行う.これは,飲酒後に暴れたため身体拘束・抑制後ごく短い時間のうちに突然死をきたすという事例をモデル化しようとするものであり,似たようなケースは稀ではあるが数例報告されている.このようなケースの場合,剖検でも窒息の所見が見られず,特に致死的な傷病変が見出せない事が多く,その際にしばしば用いられるのが「興奮性せん妄」つまり拘束・抑圧ストレスが交感神経系や視床下部―下垂体-副腎系といたストレス反応系に異常を引き起こし,血圧上昇や不整脈等を介して突然死に至るというものである.このストレス反応系の異常を,死後も測定が可能なmiRNAを測定することにより,生前のストレスレベルを定量化するのが最終的な目的となる. 具体的なラットに対するストレスのかけ方は,生後10週のSDラットに,21%エタノールを3.8g/kg投与し,30分間放置する.その後35cm/sの速さのトレッドミルで90分間運動させ,その後2kgの水袋で動けないように90分間抑制するというものである.これに対し何もしないコントロール群も作成し,比較を行う.試料は過剰麻酔で安楽死させた後,臓器・血液を採取し,total RNAを抽出する.解析は次世代シークエンサーであるIon PGM Sysytemを用いてmiRNAの種類,およびその量を網羅的に探索する.ストレスマーカーの候補となるmiRNAを確立した後,より安価で労力の少ないTaqMan法にてストレスマーカーmiRNAを検出する解析過程を構築する.
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Causes of Carryover |
本研究申請時には東北大学に所属していたが,平成26年1月1日から関西医科大学に異動となった.そのため年間の実験計画に変更が必要となり,研究費の使用が滞ったのである.つまり,東北大学が所持していた次世代シークエンサーを使用して実験を行う予定であったが,異動により使用することができなくなったため予算が消化できず繰越となり,次年度使用額が生じたわけである.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度も東北大学大学院医学系研究科の非常勤講師としての身分が確定したことから,東北大学法医学分野と共同研究という形でmicroRNAの研究を継続することとなった.従って27年度は東北大学医学系研究科が所持する共通機器としての次世代シークエンサー,Ion PGM System等を使用し,研究計画に沿った形で実験を進める予定である.よって研究費は次世代シークエンサー解析に必要な試薬類,チップ等に使用する予定である.もし,東北大の機器が使用できない場合でも,外注検査することによりデータの収集は可能であることから,そのための費用として使用することも考えられる.
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