2013 Fiscal Year Research-status Report
RNA結合蛋白を介した上皮間葉転換制御による抗癌剤耐性克服療法の開発
Project/Area Number |
25460921
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
小林 隆彦 北海道大学, 医学(系)研究科(研究院), 客員研究員 (80333607)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小松 嘉人 北海道大学, 大学病院, 准教授 (60333598)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 抗癌剤耐性 |
Research Abstract |
消化器癌は造血器腫瘍や生殖器癌に比較して化学療法の奏効率は低く、多剤併用による強力な化学療法を行っても、進行癌においては未だに予後不良である。癌化学療法の問題点の一つに、治療により薬剤耐性細胞が出現し、再増殖を来すことがあげられる。そのため抗癌剤への感受性や耐性に関する分子機構の解明は、非常に重要な課題である。近年、上皮細胞が間葉系細胞に形態変化する現象である上皮間葉転換(Epithelial-Mesenchymal Transition:EMT) が、癌細胞の浸潤能亢進、抗癌剤耐性獲得などに関連していることが報告されているが、その機序は未だに不明な点が多い。 遺伝情報の発現は、DNAから蛋白質までの様々な段階で複雑に制御されている。RNA結合蛋白質は、mRNAのスプライシング、核外輸送、細胞質内局在、安定性及び翻訳効率の調節などの転写後遺伝子発現調節において重要な働きをしている。申請者らはRNA結合蛋白RBM5が、癌抑制遺伝子p53の転写活性を亢進させることを報告した。さらに各種の癌細胞、癌組織においてRBM5の発現が低下していることを見出した。また、RBM5は癌細胞に対して、5-FUなどの各種抗癌剤の感受性を高めることも見出した。 現在、RBM5の発現量により変動するRBM5下流遺伝子群の解析およびRBM5結合遺伝子を網羅的に解析し、その中から抗癌剤耐性に関与すると思われる遺伝子を抽出し、癌細胞内での機能解を行っている。今後は、これまでの研究を発展させ、抗癌剤投与中の癌細胞において、RBM5に直接結合する新規のEMT制御遺伝子を探索し、抗癌剤感受性あるいは耐性に与える影響を検討し、EMTを制御することにより抗癌剤耐性克服する治療法への応用を目指していく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
RBM5に結合するmRNAをRNA-結合タンパク質免疫沈降法を実施し、胃癌細胞からRBM5に特異的に結合するmRNAを回収している。しかし ながらRBM5に結合しているRNAは微量であり、さらにはmRNAそのものが非常に不安定であり、定量・定性の検討が予想以上に困難であり、再現性の 検討を慎重に行っている。 またマイクロアレイによって拾い上げた幾つかの候補遺伝子が、胃癌細胞株に特異的なものか、他の消化器癌細胞にも機能している普遍的なのかの見極めは簡単ではない。また一方で、これらの候補遺伝子がRBM5に特異的に作用しているのかも慎重に検討している。マイクロアレイの解析過程において候補遺伝子を抽出する際に、データマイニングのアルゴリズムの厳格さに問題があると考えられた。 癌細胞において、EMTが抗癌剤による抗腫瘍効果に与える影響は、抗癌剤により様々であり、いくつかの抗癌剤に絞り込む必要性があることが判明した。また癌細胞の種類によっても影響度は様々であるため、各種癌細胞に普遍的な抗癌剤耐性機序に関わる分子の拾い上げは、予想以上に複雑であった。 またEMTそのものが、複雑な機序で制御されており、EMT誘導因子、阻害因子の影響も単純ではないため、結果の解釈に時間を要している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は抗癌剤の中から消化器癌に頻用される、代表的な抗癌剤として5-FUおよびCDDPに絞り込み、さらに癌腫を胃癌細胞内における抗癌剤耐性機序の検討に絞って、解析を行ってい く予定である。 EMT誘導因子としてTGF-βを投与し、EMT阻害因子としてはTGF-β抗体あるいはTGF-β 受容体阻害剤であるSB431542を投与を行い、EMTが抗癌剤耐性に与える効果を検討していく予定である。その上で、EMT誘導因子とEMT阻害因子を投与した際に、相反した挙動を示す遺伝子に注目して検討を行いたい。 初年度の結果を踏まえた研究手技上の改善策としては、RNA抽出、RNA-結合タンパク質免疫沈降法の操作段階においては、常にRNase阻害剤を存在させ、RNAの分解を極力低下させる努力を行っていく。またRNA結合蛋白RBM5に結合する新規のEMT制御遺伝子の探索においては、IgG抗体をRBM5固相化カラムで精製し、RBM5に非特異的に結合する分子の影響を低下させていく工夫を行う。 マイクロアレイのデータマイニングにおいては、遺伝子抽出に用いるアルゴリズムを再検討し、より厳格に遺伝子を絞り込んで、有力分子を抽出していく必要があると考えている。さらに複数回のマイクロアレイに共通する変動遺伝子の抽出を試みる予定である。 抗癌剤については、投与時間依存性、投与量依存性を示す変動遺伝子を拾い上げていく検討を行う工夫を試みていきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度には動物実験まで達成できなかったので、マウス購入費用は次年度以降に用いる予定である。 また遺伝子解析のためのサーバー購入も、他の実験試薬等に用いた経費がかさんだため、次年度以降に行うように計画を修正した。 次年度は、新規のRBM5結合性EMT制御遺伝子の癌培養細胞株における機能解析を行う。具体的には、1) 候補遺伝子の発現ベクターを作成し、癌細胞において強制発現させ、EMT誘導能に与える効果を検討を行う、2) 候補遺伝子の siRNA を作成し、癌細胞においてノックダウンさせ、上記と同様の検討を行う、3) 候補遺伝子の強制発現あるいはノックダウンが、癌細胞の抗癌剤耐性に与える影響を細胞周期 (FACS 法)、細 胞増殖 (MTT 法)、アポトーシス誘導 (TUNEL 法)などにより検討を行う、4) RBM5 の発現量の変化が候補遺伝子の発現量およびEMTに与える影響を検討する、などの実験を予定している。 これらに必要な遺伝子工学的実験、細胞生物学的実験に用いる試薬類や細胞培養のための培地、試薬の購入に用いる予定である。
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[Journal Article] Large Solid-pseudopapillary Neoplasm of the Pancreas with Aberrant Protein Expression and Mutation of β-Catenin.2013
Author(s)
Kobayashi T., Ozasa M., Miyashita K., Saga A., Miwa K., Saito M., Morioka M., Takeuchi M., Takenouchi N., Yabiku T., Kanno H., Yuzawa S., Tanino M., Tanaka S., Kawakami H., Asaka M., Sakamoto N.
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Journal Title
Intern Med
Volume: 52
Pages: 2051-2056
DOI
Peer Reviewed
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