2014 Fiscal Year Research-status Report
ヒト肺癌発生におけるROR1受容体とRTKのクロストーク制御及び活性化機序の解明
Project/Area Number |
25461187
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
山口 知也 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (70452191)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 肺腺癌 / TTF-1 / 受容体型チロシンキナーゼ / ROR1 / EGFR / RTKの活性化 / RTKのクロストーク |
Outline of Annual Research Achievements |
末梢肺の発生に必須なTTF-1遺伝子の発現持続は、末梢肺由来の肺腺がん細胞の生存に必須であるが、TTF-1が伝える生存シグナルは、永らく不明のままであった。我々は最近、TTF-1によって転写活性化される受容体型チロシンキナーゼROR1がその生存シグナルを担っていることを突き止めた。また興味深いことに、ROR1は上皮成長因子受容体であるEGFRと相互作用することによりEGFRシグナルの維持に関わっていることが明らかになった。本研究課題の目的は、ROR1とEGFRのような他の受容体型チロシンキナーゼ(RTK)との新たなクロストーク制御機構を明らかにし、がんにおいて非常に注目を集めつつあるROR1が制御する新たなシグナル伝達機構の解明を行うことにある。 平成26年度は、当初の研究実施計画に沿って、順調に進展した。RTKのリン酸化を検出するためのメンブレンアレイを用いた解析により、肺腺がん細胞株においてROR1の発現抑制は、様々なRTKの定常的なリン酸化(RTKの活性化)の低下を惹起することや、リガンド添加によって刺激されたRTKのリン酸化亢進も顕著に阻害することを見出した。また、このようなROR1による他のRTKの活性化の維持には、ROR1自身のキナーゼ活性は必要ではないことを明らかとした。さらに、他のRTKの活性化を介したバイパスシグナリングを耐性機構として、ゲフィチニブなどのEGFR-TKIに対する抵抗性を獲得した肺腺がん細胞株においても、ROR1の発現抑制によって効果的に細胞増殖を阻害できることが判明した。また、このROR1の発現抑制による細胞増殖の抑制は、他のRTKを介したバイパスシグナリングによってEGFR-TKIに対する耐性を獲得した、肺腺がん以外の皮膚がんや下咽頭がん等のがん細胞株に対しても、効果的な細胞増殖の抑制を示すことを明らかとした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究を推進することによって、以下の結果を得た。肺腺がん細胞株におけるROR1の発現抑制は、他のRTKの定常的な活性化の低下をもたらした。また、リガンド依存的なRTKの活性化も、ROR1の発現持続を必要することが明らかとなった。すなわち、それ自体がRTKの一つであるROR1が、EGFRを含むMET, IGF-IRなどの他のRTKを介したシグナリングの維持に必要とされる極めて重要な細胞膜受容体であることを示す、極めて独自性の高い知見を得ることができた。興味深いことに、ROR1のキナーゼ活性を欠く変異体型ROR1によっても、他のRTKを介したシグナリングの維持はレスキュー可能であり、ROR1が持つキナーゼ活性非依存的な機能であることを突き止めた。さらに、他のRTKの活性化によるバイパスシグナリングに起因するEGFR-TKI抵抗性を持つ、様々ながん腫の細胞株においても、ROR1の発現抑制によって効果的に細胞増殖を抑制可能であることも明らかとなった。 以上の如くの本研究において得られた成果によって、ROR1が、革新的な新規がん治療法の創薬開発のための、極めて魅力的な分子標的たり得ることが、明確に示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
RTKの活性化は、外界からの刺激に応じて、その情報を変換し細胞内にシグナルを伝えるための重要な反応であり、がん細胞の生存や増殖等において重要な役割を担っている。我々の知見は、ROR1の発現抑制によって、様々なRTKの活性化を顕著に低下させることが可能であり、バイパスシグナリングによるEGFR-TKI阻害剤に対する抵抗性獲得細胞においても、有意な増殖抑制が可能なことを示している。したがって、これまでの研究の進捗によって、ROR1の成人正常組織における極めて低いがん胎児性抗原様の発現とも相まって、ROR1が、肺腺がんを始めとするさまざまながん腫において、多くのRTKの活性化を一網打尽に阻害することができる、極めて魅力的な分子標的であることを示唆している。最終年度である平成27年度は、当初の研究実施計画通りに、ROR1によるRTKの活性化維持の分子機構の詳細に対して、様々な生化学的・細胞生物学的手法を駆使したさらなる解析によって迫る予定である。それによって、将来的なROR1を分子標的とした革新的な治療薬の創薬開発へとつながるような、基盤となる情報を得て行きたいと考えている。
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