2013 Fiscal Year Research-status Report
放射線照射により浸潤が誘導されたがん細胞におけるメタボローム解析
Project/Area Number |
25461934
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | National Institute of Radiological Sciences |
Principal Investigator |
今井 高志 独立行政法人放射線医学総合研究所, 重粒子医科学センター, プログラムリーダー (50183009)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | がん / 浸潤 / メタボローム解析 / PANC-1細胞 |
Research Abstract |
癌の治療効果を向上させるためには、転移抑制が重要な課題となっている。我々は、X線や炭素線照射によって浸潤能が上昇する細胞株を見いだし、そのメカニズムを解析して来た。これまで、放射線誘導浸潤能に関わる分子を同定し、それらの阻害剤によって浸潤が抑制されることを示してきたが、がん細胞は複数の経路を使って浸潤しているようであり、未だ放射線誘導浸潤能の完全抑制には至っていない。本課題では、新しく代謝産物の包括的な分析を行うメタボローム解析を導入し、放射線誘導浸潤がん細胞で活性化または抑制されている初期応答経路を包括的に解明することを目的とし研究を行っている。 平成25年度(課題初年度)は、炭素線照射によって浸潤が誘導されたPANC-1細胞を用い実験を行った。細胞の浸潤は全ての細胞が動くわけではなく、PANC-1細胞では、約0.3%の細胞がマトリックスを通過し浸潤できる。このことから、細胞株全体の代謝経路と、実際に浸潤した細胞の代謝経路を区別して解析を行う必要がある。この点をふまえ、まず、浸潤したPANC-1細胞をトランスウェルから回収する方法を確立した。次に、浸潤細胞群と培養皿から回収した通常培養細胞群について、キャピラリー電気泳動―飛行時間型質量分析(CF-TOF MS)を用いて各群で特徴的な代謝産物を同定した。その結果、浸潤細胞群では、通常培養細胞群と比べ、解糖系のATP産生に関わる中間代謝物質の産生量が上昇していることを見いだした。また、この現象は、炭素線照射後の浸潤細胞でも同様に見られた。炭素線照射によりPANC-1の浸潤細胞の数は約4倍に上昇する。浸潤細胞の代謝の特徴が解糖系によるエネルギー代謝にさらに傾斜することであるとすると、炭素線照射により、代謝シフトが誘導された可能性が示唆され、今後この仮説の検証を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度の研究計画は、①浸潤細胞の調整条件を決定する。②炭素線応答代謝経路の解析を行う。 ことである。 ①浸潤細胞の調整条件を決定する マトリゲルを通過してトランスウェルの裏側に浸潤したPANC-1細胞を、トリプシンよりも細胞毒性が少ないAccutase(Innovative Cell Tech.)で30分間処理することで、浸潤細胞を高い生存率のまま回収できることが分かった。 ②炭素線応答代謝経路の解析する 非照射のPANC-1細胞及び、炭素線2 Gyを照射したPANC-1細胞を用い、炭素線照射2日目に浸潤アッセイを行った。アッセイ開始から24時間後に、それぞれのトランスウェルから①の方法を用いて浸潤細胞群を調製した。また、浸潤細胞とは別に、通常条件にてPANC-1細胞を培養し、通常培養細胞群とした。浸潤細胞群および通常培養細胞群からメタボローム解析用のサンプルを作成し、CF-TOF MSアニオンモード、カチオンモードにより代謝産物を測定した。その結果、浸潤細胞に特徴的に解糖系の2種類の代謝産物が蓄積していることを初めて見出した。また、この蓄積は炭素線に依る浸潤誘導においても特徴的であった。 以上の成果から、今年度の研究は順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の解析により、浸潤細胞では、解糖系のATP産生に関わる中間代謝物質の産生量が特徴的に上昇することが見いだされた。このことから、浸潤細胞の代謝の特徴として、特に解糖系によるエネルギー代謝に傾斜していることが予想される。また、同様のデータは炭素線照射後の浸潤細胞でも得られた。今後は、浸潤細胞における解糖系によるエネルギー代謝に着目し、解糖系代謝経路で重要な酵素群の発現量に差があるか検討する。また、炭素線照射によりそれら酵素群の発現量は上昇するのか調べる。さらに、浸潤における解糖系の意義を調べるため、解糖系代謝の阻害剤を用いて浸潤能が抑制されるか検討する。さらに、炭素線照射により解糖系を有意とした細胞群がどうして増加するのか、代謝のシフトに関わる因子の関与について調べる。これらについて炭素線誘導されない細胞株での検討も行う。
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Research Products
(2 results)