2015 Fiscal Year Annual Research Report
放射線照射により浸潤が誘導されたがん細胞におけるメタボローム解析
Project/Area Number |
25461934
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Research Institution | National Institute of Radiological Sciences |
Principal Investigator |
今井 高志 国立研究開発法人放射線医学総合研究所, 重粒子医科学センター, プログラムリーダー (50183009)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | がん / 放射線誘導 / 浸潤 / メタボローム / グルタチオン / 活性酸素 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題では、代謝産物の包括的な分析を行うメタボローム解析を導入し、放射線誘導浸潤癌細胞で活性化または抑制されている初期応答経路を解明することを目的としている。 昨年度までに、膵癌由来細胞株PANC-1の浸潤には、解糖系や一酸化窒素の産生に関わる代謝経路が重要であることを示した。今年度はさらに、浸潤細胞は対照となる全細胞群と比べ、酸化ストレスの指標である還元型グルタチオン(GSH)と酸化型グルタチオンGSSGの比、GSH/GSSGが有意に低下していることを見出した。また、この値は、炭素線照射を受けた浸潤細胞でさらに低下していた。これらの結果から、浸潤細胞では全細胞群と比べ、より高い酸化ストレスを受けていることが示唆された。活性酸素種(ROS)を消去する過程で酸化型となったGSSGは、さらにROSを消去するため還元型のGSHへ変換される必要がある。GSSGからGSHへの変換にはニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸、NADPHが必須であるが、酸化型NADPから還元型NADPHを産生する反応に関わる葉酸代謝経路の酵素、アルデヒドデヒドロゲナーゼ(ALDH1L2)の遺伝子発現量は、全細胞群と比べ浸潤細胞で有意に上昇しており、反対にNADPHからNADPを産生する酵素、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)の発現量は減少していた。また、この現象は悪性膠芽腫細胞株SF126の浸潤細胞でも同様に確認された。さらに、PANC-1の浸潤細胞は非照射群、炭素線照射群共に、全細胞群と比べ、過酸化水素に対し抵抗性であることも分かった。本課題のメタボローム解析から、浸潤細胞では解糖系や一酸化窒素産生に関わる代謝経路と抗酸化能に関わる代謝経路が重要であることが明らかとなった。これら代謝経路の阻害は炭素線誘導浸潤能の抑制に有用である可能性が示唆された。
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