2013 Fiscal Year Research-status Report
EMASTを誘発するがん微小環境に着目した大腸癌悪性化機構の解明
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25462071
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Research Institution | Toho University |
Principal Investigator |
有田 通恒 東邦大学, 医学部, 助教 (80307719)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | EMAST / 散発性大腸癌 / 低酸素 / がん微小環境 |
Research Abstract |
初年度は大腸癌悪性化に及ぼす因子探索のための基礎検討として,in vitro EMAST発生環境の構築を行った. 腫瘍の浸潤性獲得や原発巣からの離脱への関与が知られる重要ながん微小環境である低酸素に着目し,ヒト大腸癌細胞株SW620を0.1%の酸素濃度と通常酸素濃度とで培養し,EMASTを発生しうるかを検討した.低酸素下でのDNAミスマッチ修復 (MMR) 遺伝子のタンパクレベルの発現量の変化を一定期間ごとに7日まで調べたところ,MSH3は経時的に減少したのに対し,MLH1やMSH2は3日目以降ほぼ同程度のタンパク量を維持した.これらMMRタンパクの低酸素3日目に対する7日目のタンパク量はそれぞれ42, 73, 94%であった.長時間の低酸素培養はMSH3に偏ったタンパク量の低下を引き起こしたことから,本条件下ではMMR機能の均衡が崩れEMAST発生が誘発される可能性が高いと考えられた.そこで,SW620を低酸素もしくは通常酸素濃度で7日間培養した後,限界希釈法により得られたクローン (低酸素, 37クローン; 通常酸素, 27クローン) について4塩基リピートのマイクロサテライトマーカー(MYCL1, L17686, UT5320, D9S242, D20S82)を中心に変異の有無を調べた.その結果,低酸素クローンのうち5クローンがいずれかの4塩基リピートに変異を示したのに対し,1塩基リピート(BAT26)の変異は示さなかったことから,EMASTと判定された.残りのクローンにも1塩基リピートの変異は認められなかったことから,今回の検討した低酸素条件ではEMAST以外のMSIは誘導されないと考えられた.また,通常酸素クローンではすべてのマーカーに変異は認められなかった.これらの結果を踏まえて,7日間の低酸素培養をSW620を用いたin vitro EMAST発生条件とした.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
EMASTの原因遺伝子はMMR遺伝子の1つMSH3である.EMASTの定義とこれまで明らかとなっているMMR機構の分子機序から,他のMMR遺伝子のうちMSH2やMLH1は機能しており,MSH3のみで機能が低下することがEMAST発生に必須と考えられる.しかし,再発や肝転移を認めた散発性大腸癌症例でMSH3遺伝子変異が見いだせないことは,これら症例では変異以外の機構によりMSH3機能が低下していることを推測させた.本課題の研究計画はこの仮定に基づいており,生体内で生じていると考えられる未特定のMSH3発現抑制環境を実験室レベルで再現できることが遂行に不可欠である.初年度にin vitro EMAST発生環境を確立できただけでなく,その手法が比較的単純であったことは今後の研究計画の遂行を容易にすると期待できる.
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Strategy for Future Research Activity |
研究経過は順調に推移しているため,当初の計画に従って研究を推進する.EMAST発生条件で働く増殖関連因子や悪性度に寄与する因子を検索するために,まず,DNAマイクロアレイ解析による遺伝子発現の解析から着手する.25年度に特定した条件での遺伝子の発現量の変化を網羅的に調べ,増殖や接着,遊走,浸潤など腫瘍の悪性度に関与する因子群を探索する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初の研究経費計画に比べて一部効率的に使用できたため残額が発生した. 本課題は次年度も助成対象期間であるため繰越しとする. 今後の推進方策で最初の研究項目に掲げている「DNAマイクロアレイ解析」は結果次第では複数回行うことが予想される.従って,繰越額全額はマイクロアレイ解析やその検体準備を含む「物品費」に併せて使用する予定である.一方,解析が順調に遂行できた際は,その研究成果を公表するための論文投稿料が該当する「その他の費目」としての使用を計画している.
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