2013 Fiscal Year Research-status Report
異なる全身麻酔薬による免疫細胞アポトーシス誘導の強弱はなぜ生じるのか
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25462395
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
黒澤 伸 東北大学, 医学(系)研究科(研究院), 大学院非常勤講師 (60272043)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 揮発性吸入麻酔薬 / 胸腺細胞 / ミトコンドリア内膜電位 / ガスクロマトグラフィー |
Research Abstract |
1)揮発性吸入麻酔薬の細胞培養液への溶存確認実験;吸入麻酔薬が培養液に溶存していることをガスクロマトグラフィーにより確認した。培養プレートに細胞培養液RPMIを分配し、密閉型アクリル樹脂製箱に乾燥しないように静置し、摂氏37度、5%CO2の定常状態を確認後、イソフルランまたはセボフルランがそれぞれ0MAC、1MAC,3MACの定常状態となるように設定した後、アクリル樹脂製箱を密閉,その状態で12時間、細胞培養液を吸入麻酔薬に曝露し、ガスクロマトグラフィー法により溶存した麻酔薬濃度を測定した。密閉型アクリル樹脂製箱内の吸入麻酔薬濃度測定は呼気ガスモニター(VAMOS Plus、ドレーゲル社)を用いておこなった。実験はイソフルランまたはセボフルランそれぞれ独立して3回おこなった。 2)揮発性吸入麻酔薬曝露によって変化する胸腺細胞のミトコンドリア内膜電位の測定実験;吸入麻酔薬が胸腺細胞のミトコンドリア内膜電位に影響を与えるかを観察した。4~8週齢のBalb/cマウスから胸腺を摘出、10%FBS入りRPMI培養液中に胸腺細胞の浮遊細胞とし、24穴培養プレートに1穴あたり百万個/mlの割合で分配し、密閉型アクリル樹脂製箱に乾燥しないように静置し、摂氏37度、5%CO2の定常状態を確認後、イソフルランまたはセボフルランが呼気ガスモニターを用いてそれぞれ0MAC、1MAC, 3MACの定常状態となるように設定した後、アクリル樹脂製箱を密閉した。その状態で5分間、0.5時間、4時間、胸腺細胞を揮発性吸入麻酔薬に曝露し、それぞれの培養時間における、ミトコンドリア内膜電位が低下した胸腺細胞をJC-1を利用したフローサイトメトリー法により定量し、胸腺細胞のミトコンドリア内膜電位の経時的変化を比較、検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1)揮発性吸入麻酔薬は生体では肺において血液に溶存することによってその作用を発揮する。したがって揮発性吸入麻酔薬が免疫細胞に与える影響を観察する研究の前提として、細胞培養液に揮発性吸入麻酔薬が溶存することを証明することが必須である。今回の実験でイソフルラン、セボフルランともに細胞培養液中に、容量依存性に溶解することが証明された。 2)イソフルランおよびセボフルランともに短時間(5分間、30分間)の曝露実験では胸腺細胞のミトコンドリア内膜電位にほとんど影響を与えないようであるが、4時間曝露ではイソフルランおよびセボフルランとも胸腺細胞のミトコンドリア内膜電位を低下させた。さらにイソフルランとセボフルランを比較すると1MAC、4時間曝露ではイソフルラン群においてよりミトコンドリア内膜電位が低下した胸腺細胞がセボフルラン群に比べ多かった。このことは揮発性吸入麻酔薬の種類によって免疫細胞のアポトーシス誘導の強弱が生じることを示唆している。 この研究の趣旨は麻酔薬による免疫細胞アポトーシス誘導の強弱が麻酔薬の種類によって異なる原因を解析するものである。細胞のミトコンドリア内膜電位の低下は細胞アポトーシス誘導の原因であるので、イソフルランおよびセボフルランの曝露によりミトコンドリア内膜電位が低下したことは揮発性吸入麻酔薬によって胸腺細胞にアポトーシスが誘導されることを意味し、さらにセボフルランに比較してイソフルランがより多くの胸腺細胞においてそのミトコンドリア内膜電位を低下させることは同じ揮発性麻酔薬でも細胞アポトーシス誘導性に差があることを示唆している。
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Strategy for Future Research Activity |
1)揮発性吸入麻酔薬暴露後の胸腺細胞内ATP量変化の測定実験;ミトコンドリア膜電位が低下することによって細胞にアポトーシスが誘導されるとミトコンドリア電子伝達系の傷害により細胞内アデノシン三リン酸(ATP)量は低下する(Drug Metabolism Reviews 2007;39:443-455)。麻酔薬によるミトコンドリア膜電位低下によるアポトーシス誘導の結果細胞のエネルギー産生量が低下したことを証明するため麻酔薬曝露後の胸腺細胞内ATP量を測定する。胸腺細胞内ATP量は麻酔薬曝露後のミトコンドリア内膜電位変化が生じてから遅れて変化すると予想されるため麻酔薬への細胞曝露時間は4時間および8時間とする。ATP量はATPアッセイキット(フナコシ社)を使用し、測定はMicroplate Luminometer (Berthold社)を用いる。平成25年度の実験と同様に胸腺細胞を培養液に浮遊後、イソフルラン、セボフルランに胸腺細胞を曝露し、細胞内ATPのルシフェラーゼ蛍光作用を利用してATP量を測定しそれぞれの麻酔薬間において比較、検討する。 2) 揮発性吸入麻酔薬曝露による胸腺細胞内ERK1/2活性;同様に胸腺細胞を培養液に浮遊後、0MAC、1MAC、3MACのイソフルラン、セボフルランに胸腺細胞を30分間、1時間および3時間曝露し、細胞増殖と抗アポトーシスに関与するMAPKであるERK1/2の定性と経時的変化を観察する。ERK1/2の定性と経時的変化はERK1/2に特異的抗体を用いたBD Phosflow Technology(BD社)を利用したフローサイトメトリー法によっておこなう。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1)当初、申請時は麻酔器気化器D-Vaporを890,000円にて購入する予定であったが、654,150円の実支出額となった。 2)研究代表者本人の人事異動が米国麻酔学会開催時期と重なり、申請時に出席予定であった米国麻酔学会へ出席しなかった。 揮発性吸入麻酔薬曝露による胸腺細胞内ERK1/2活性を測定するためにERK1/2に特異的抗体を用いたBD Phosflow Technology(BD社)を利用したフローサイトメトリー法によっておこなう。そのためにフローサイトメトリーのデータ専用解析ソフト(Flow Jo)を購入する予定である。また、麻酔薬によるミトコンドリア膜電位低下によるアポトーシス誘導の結果、細胞のエネルギー産生量が低下したことを証明するため麻酔薬曝露後の胸腺細胞内ATP量を測定する計画であるが、細胞内ATPのルシフェラーゼ蛍光作用を利用してATP量を測定することから専用のデータ解析用のコンピューターを購入する必要があるため、未使用金と平成26年度分を合わせてこれらのデータ解析に使用する計画である。
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Research Products
(4 results)