2015 Fiscal Year Research-status Report
脳内神経ネットワークからみた吸入麻酔薬の作用機序と発達脳に与える影響に関する研究
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25462415
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Research Institution | Juntendo University |
Principal Investigator |
西村 欣也 順天堂大学, 医学部, 教授 (80164581)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 電気生理学 / Patch-Clamp法 / 吸入麻酔薬 / Ih電流 |
Outline of Annual Research Achievements |
1990年代よりNMDA(N-methyl-D-apartic acid)受容体遮断薬とGABA(gamma-aminobutyric acid)受容体作動薬がシナプス形成期の脳に対してアポトーシスを伴う神経変性を来し,その後の学習能力低下や行動異常を引き起こすという研究結果が数多く報告されている.これは麻酔科領域のみならず,子をもつ両親にとっても看過出来ぬ問題であり,今や国家レベルの公衆衛生学的コホート調査を用いて比較検討が行われるに至った.その上で脳神経細胞障害に全身麻酔という医療行為のみかどうかに統一見解はないもののいずれにしても全身麻酔薬が与える影響は無視できないものとなっている.そして未だ作用機序が解明されていない吸入麻酔薬であるが,私たちの研究室では大脳皮質・線条体を中心とした大脳皮質→基底核→視床ループにおける情報伝達回路に“乱れと興奮”の研究をもとに,新生児期の吸入麻酔薬暴露が脳内神経ネットワーク活動に与える影響を評価している. 元来,学習や記憶はシナプスにおける電気信号の伝達効率が変化することにより成立している.このシナプス電動効率は伝達物質の放出効率とシナプス後細胞の受容体を介する応答効率によって決定され,いずれのメカニズムにも多種多様の膜タンパク質と細胞内シグナル分子が関与している.ここで分子生物学と電気生理学の仕法を組み合わせることによって,発達期の脳への麻酔薬が伝達物資の脳内放出効率調節機構に与える影響をより明らかにして来た. 今回はWhole-cell Patch-clamp法を中心とした電気生理学的仕法を導入し,発達期の脳に対して吸入麻酔薬暴露が伝達物質の放出機構与える影響について検討した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
麻酔薬のもつ『興奮性の発現』に関する研究結果をはじめ,海馬をその病因とするてんかん症例や線条体を病因とするパーキンソン病でのTonic GABA発現頻度が高いことを考えると,吸入麻酔薬発現メカニズム解析にも関与することは十分考えられる.その上でこの領域においても吸入麻酔薬の暴露により,新生児期の麻酔暴露による学習・行動障害発現のみならず術後特異的にみられる高次脳機能障害(集中力の低下,記憶力低下など)発現に影響を与えることが解析されているのでシナプス領域外受容体に起因するTonic 電流の変動を調べた.その結果,吸入麻酔薬添加(2MAC)によりいずれの日齢でもTonicGABA電流は増大している.またGABA transporter Blocker の添加でSevoflurane の効果が増強される.したがって中因性GABAに反応してTonicGABA電流を増大させていると考えられた. また,δサブユニット作動薬などを用いた結果,吸入麻酔薬はこのδ受容体への影響が強く観察された.またこの増大効果はコリナージック細胞ではみられなかった.
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Strategy for Future Research Activity |
現在,Ih (hyperpolarization-activated cation current)電流と総称されている電流は当初,電位依存性のナトリウム電流やカルシウム電流とは異なり,細胞膜の過分極によって緩やかな時間経過で活性化し,活性化後の不活化も見られないなど,その電気生理学的な特徴が奇妙である (funny)としてIf (funny current)電流と呼ばれた.このIh電流の特徴として過分極による活性化に加え,細胞内のサイクリックヌクレオチドによって調節を受けることが知られ,その上で運動,内臓機能の調節,感覚の伝達といった神経系の機能の多くは,その細胞膜上に発現している種々のイオンチャネルやポンプを介したイオンの細胞内外の出入りにより発生した電気的信号が軸索を伝導し,情報や刺激として標的器官に伝達されることにより実現されている.イオンチャネルの開閉機構,コンダクタンス,電位依存性等の性質は様々な要因,条件によって調節を受けており、その調節機構はイオンチャネルの機能的役割と密接に関連している.一方,Ih電流の存在は末梢知覚神経である背根神経節細胞においても報告されているが,さらに線条体ではコリナージック神経でIh電流が見られることから.そこに注目して研究を進める.予測される生理機能はいずれも細胞の興奮性、膜電位 の特性に係るので,それに寄与するIh電流の活性化の電位依存性とその調節機構が重要となると考えられる.そこで吸入麻酔薬がこのIh電流に影響を与えるかを観察し,吸入麻酔薬の作用メカニズムに迫ることを目的している. 研究を進めていく上で必要に応じて研究費を執行したため 当初の見込み額と 執行額は異なったが,研究計画に変更はなく,前年度の研究費を含め,当初予定通りの計画を進めていく.
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Causes of Carryover |
研究を進めていく上で必要に応じて研究費を執行したため 当初の見込み額と 執行額は異なったが,研究計画に変更はなく,前年度の研究費を含め,当初予定通りの計画を進めていく.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
グラミシジン購入Ih電流への影響をみるための試薬購入、遺伝子改変マウスの購入に充てる予定である。
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Research Products
(1 results)