2013 Fiscal Year Research-status Report
癌原性口腔細菌によるヒト上皮AID発現誘導とp53遺伝子変異の解析
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25462871
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Research Institution | Iwate Medical University |
Principal Investigator |
佐々木 実 岩手医科大学, 歯学部, 准教授 (40187133)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 口腔癌 / 感染 / 細菌 / S. anginosus / AID |
Research Abstract |
B細胞の遺伝子に変異を誘導する酵素AIDは通常B細胞でしか働かないといわれているが,近年,Helicobacter pylori 感染マウスの胃粘膜上皮細胞等で過剰発現していることが明らかとなり,感染による発癌にAIDの異所性発現が関与していることが示唆されている.今年度,本研究においては,S. anginosusの口腔癌発症機序の解明を目的として,癌組織への本菌の感染,AID発現,さらに株化上皮細胞へのS. anginosus菌体および菌由来生理活性物質によるAID発現誘導,および細胞内シグナル伝達系について検討した.その結果, 1. 口腔癌組織におけるAID遺伝子発現については,癌組織からRNAを抽出し,逆転写反応, およびサイバーグリーンを用いたリアルタイムPCRを実施してAID遺伝子の発現を定量化した.正常組織にくらべ口腔癌組織でAID遺伝子の発現が高い傾向が認められた.さらに,癌組織から50%の頻度でS. anginosusゲノムDNAが検出された.また,ヒト咽頭上皮細胞株(HEp-2),ヒト舌癌由来株化上皮細胞(DOK)を用いてS. anginosus菌体,あるいは生理活性物質である本菌由来抗原SAAで刺激した際の細胞内のAID遺伝子の発現量を検討した.対照に比べ菌体およびSAA刺激により,細胞内のAID遺伝子の発現誘導が認められた. 2. 培養細胞を用いた細胞内シグナル伝達系の解析では,マクロファージ様細胞株(RAW細胞),ヒト咽頭上皮細胞株(HEp-2),ヒト舌癌由来株化上皮細胞(DOK)を用いて,S. anginosus菌体あるいはSAAで刺激した際の細胞内シグナル伝達系について検討した.NF-κBの活性化(IκBαの分解)をSDS-PAGE後にウエスタンブロッティングで解析したところ,RAW細胞では菌体およびSAA刺激でNF-κBの活性化が認められた. これらの成績から,口腔癌においてもAID遺伝子の異所性発現が亢進し,S. anginosusは口腔粘膜上皮細胞を含む,種々の上皮細胞に対してAID遺伝子発現を誘導する可能性が示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
25年度は,口腔癌組織におけるS. anginosus感染の有無,AID遺伝子発現およびp53遺伝子変異の検出と,培養細胞を用いたS. anginosus抗原刺激によるAID遺伝子発現と細胞内シグナル伝達系の解析をする予定であった. 口腔癌組織からのS. anginosusゲノムDNA検出については,DNA抽出キットを用いて調整したDNAサンプルについて菌種特異的プライマーを用いて本菌の存在を確認した.さらに,RNeasy kitを用いてRNAを抽出後,逆転写,リアルタイムPCRを実施しAID遺伝子の発現量を定量化することができた.口腔癌組織12例においてS. anginosus感染とAID発現に関連性が見られた.また,培養上皮細胞におけるS. anginosus菌体および菌由来抗原(SAA)によるAID遺伝子の発現についても検討した.SAAあるいはS. anginosus菌体刺激により,AID遺伝子の発現量の増加,亢進が認められた.一方,p53遺伝子変異の検出は組織標本の例数が少なかったことから,来年度への継続検討課題とした. 培養細胞を用いた細胞内シグナル伝達系の解析では,マウスマクロファージ様細胞株(RWA),ヒト咽頭上皮細胞株(HEp-2)と舌癌由来株化上皮細胞(DOK)を用いて,S. anginosus菌体あるいはSAAで刺激した際の細胞内シグナル伝達系について,NF-κBの活性化をSDS-PAGE後にECLウエスタンブロッティングで解析する系を確立した. RAW細胞において菌体あるいはSAAで刺激した細胞内シグナル伝達系の活性化が認められた.その他の細胞ではシグナルが弱く明確な活性化は認められなかった. 従って,現在までの到達度としては,ほぼ当初の計画通りに進んでおり,おおむね順調に進展しているといえる.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでのところ,おおむね順調に進展しているので,本研究課題の今後の推進方策として,26年度は,前年度からの継続課題として,癌組織からのAID遺伝子発現およびp53遺伝子変異の検出について検体数をさらに増やし検討する.また,培養株化細胞に加え,初代培養口腔上皮細胞についても S. anginosus菌体および菌由来抗原(SAA)によるAID遺伝子の発現について定量PCRで,また,AIDタンパク質の発現をウエスタンブロッティングで解析する.さらに,細胞内シグナル伝達系の解析をこれまでの経路に加え,JAK/STAT系もウエスタンブロッティングで行うとともに,NF-kBについては化学発光を利用したルミノールアッセイにより高感度での解析を試みる.また,当初の実験計画通り,S. anginosus菌由来抗原であるSAAの遺伝子のクローニングに向けた解析を遂行する予定である.すなわち,SAAを二次元電気泳動後,目的スポットのアミノ酸配列をLS/MSにより決定し,S. anginosus ゲノムDNAの情報をもとに同定する.さらに,SAA遺伝子をクローニングし,SAA遺伝子欠損株,組換えタンパク質の作製を試みる.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
物品として定価申請したフリーザーは値引きにより約18万円節約できた.リアルタイムPCRで使用する反応液とチューブ,キャップ,さらにプライマーアレイなどのキット類を大学予算である講座研究費で購入したものを使用することにより当初の計画より約25万円節約できた.また,サイトカインや酵素試薬はキャンペーン実施中に購入することで約10万円,計約53万円の節約となった. 次年度研究実施計画のうち,S. anginosus菌由来抗原であるSAAの遺伝子クローニングに向けた解析において,SAAのアミノ酸配列を2次元電気泳動後LC/MSによる解析を行う.その配列に基づきS. anginosus ゲノムDNAの情報をもとにSAA遺伝子を同定,クローニングする.このクローニング過程およびその後の欠損株,組換えタンパク質の作製過程にキット類,酵素試薬,生化学試薬,ベクター代として400,000円,シークエンサー解析用消耗品,その他消耗品代として約130,000円を使用する.
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