2014 Fiscal Year Research-status Report
歯周病とメタボリックシンドロームの発症・増悪との関連性を解明する総合的研究
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25462942
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Research Institution | The Lion Foundation for Dental Health |
Principal Investigator |
森田 十誉子 公益財団法人ライオン歯科衛生研究所(研究部研究開発室), その他部局等, 研究員 (00597247)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
石井 孝典 公益財団法人ライオン歯科衛生研究所(研究部研究開発室), その他部局等, その他 (40597291)
川戸 貴行 日本大学, 歯学部, 准教授 (50386075)
前野 正夫 日本大学, 歯学部, 教授 (60147618)
山崎 洋治 公益財団法人ライオン歯科衛生研究所(研究部研究開発室), その他部局等, 研究員 (60597235)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | メタボリックシンドローム / 歯周病 / 歯周病菌 / 脂肪細胞 / 炎症性サイトカイン / C反応性タンパク / MMP-1 / MMP-13 |
Outline of Annual Research Achievements |
歯周病とメタボリックシンドローム発症・増悪との因果関係を調べる疫学研究、動物モデル研究および細胞生物学研究を実施し、以下に示す結果を得た。 ①疫学研究:定期健康診断で、メタボリックシンドロームまたはその予備群に該当し、かつ慢性歯周炎に罹患した成人31名に、歯科保健の介入試験を実施した。セルフケア支援(歯間ブラシの使用に重点をおいた歯周病予防プログラム)を受けた介入群(21名)では、年齢、性別、肥満、歯周病の状態が近似する対照群(21名)に比べて、肥満および血圧が改善する傾向が認められた。さらに、歯周病と脂肪肝との関連性を横断研究(対象者数1,510名)で調べた結果、腹部超音波検査による脂肪肝の陽性判定において、歯周ポケット保有者は非保有者に比較して有意に高いオッズ比を示し、両疾患の関連性が認められた。 ②動物モデル研究: Wistarラットを歯周病群(糸結紮群)と対照群に分けて、高脂肪食負荷条件下で飼育し、10、30および60日後に血清、内臓脂肪および肝臓を回収し、凍結保存した。結紮部位の歯槽骨頂とエナメル-セメント境との距離は、対照群に比べて歯周病群で長く、糸結紮による歯周病の発症が確認されたが、体重、内臓脂肪および肝臓の重量に有意差は認められなかった。一方、糸結紮30日目の中性脂肪量と総コレステロール量、および10日目の血糖値は、対照群に比べて歯周病群において有意に高く、歯周病の影響が示唆された。 ③細胞生物学研究:脂肪細胞へ分化した3T3-L1細胞を、Fc受容体抗体の存在下および非存在下で、炎症性因子であるC反応性タンパク(CRP)で刺激し、matrix metalloproteinases (MMP)-1と-13の遺伝子発現を調べた。その結果、Fc受容体抗体はCRP誘導性のMMP-1および-13発現増加を阻害した。本結果から、CRPは、Fc受容体を介して脂肪細胞のMMP-1および-13発現を誘導し、脂肪組織中の細胞外基質タンパク代謝に影響する可能性が考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
疫学研究における介入試験は終了した。データの解析においては、メタボリックシンドローム指標の1年間の変化に及ぼす歯科保健の介入効果を評価するために、非介入者の中から年齢、性別、肥満、歯周病の状態をそろえた対照群を選定し、介入群と対照群を比較した。その結果、歯間ブラシの使用に重点をおいた歯周病予防プログラムを実践したセルフケア支援の介入群では、非介入群に比較して肥満および血圧に改善がみられることを明らかにした。また、健康診断での腹部超音波検査による脂肪肝の判定結果をデータ化して、歯周病と脂肪肝との関連性について横断研究で両者に関連性があることを明らかにし、学会発表を行った。更に、歯周病と肝機能マーカーとの関連性に関する研究成果は、海外学術誌(IF 2012: 1.358)に投稿し掲載された。 動物実験では、糸結紮による歯周病発症の手技が確立できたことに加えて、体重、組織の重量および血清生化学的検査値の分析が完了した。さらに、回収した試料は、いつでも分析可能な状態での凍結保存が完了し、研究3年目における分析の準備が整っている。 細胞生物学研究では、前年度に認められたCRP 刺激によるMMP発現増加のメカニズムを調べるために、免疫系細胞においてCRPの受容体として機能することが報告されているFc受容体に着目した実験を実施し、新たな知見を得ることが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
疫学研究としては、2003から2012年の医科・歯科健診および質問紙調査データを用いて、横断研究およびコホート研究として、歯周病予防に効果的であると考えられている口腔清掃習慣(歯磨き回数、歯間清掃用具の使用等)とメタボリックシンドロームの発症との関連性を解析する。これらの研究成果と介入研究から得られた結果とあわせて、歯周病がメタボリックシンドロームの発症のリスクになることを明確にする。 動物実験では、研究2年目の飼育実験で得られた試料の分析を進める。また、歯周病の発症によって影響を受ける遺伝子発現を網羅的に調べるためのマイクロアレイ分析を実施する。そのため、研究最終年度では、採取試料からのRNA回収のための動物実験を実施する。 細胞生物学研究では、MMP-1および-13以外に認められている、CRP誘導性のタンパク分解酵素の発現増加に及ぼすFc受容体の影響の分析を進める。また、CRP誘導性のタンパク分解酵素発現誘導に関与する細胞内シグナル伝達経路の検索を目的として、mitogen-activated protein kinase (MPAK)シグナル伝達因子である p38 MAPK,extracellular signal-regulated kinase 1/2,およびstress-activated protein kinases/c-jun N-terminal kinasesのリン酸化阻害剤の存在下または非存在下で脂細胞を刺激し,各種タンパク分解酵素の発現を検討する。また,各種炎症性サイトカインなど、CRP以外の炎症性因子が脂肪細胞のタンパク分解酵素の発現に及ぼす影響についても検討する。 疫学研究、動物モデル研究、細胞生物学研究の結果を総合的に考察し、歯周病がメタボリックシンドロームの発症・増悪に及ぼすメカニズムを解明する。
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Causes of Carryover |
研究2年目では、疫学研究の成果を国際歯科研究学会で発表する予定であった。しかし、発表内容を検討した結果、これまでに得られた長期コホート研究の結果に加えて、研究3年目に予定している口腔清掃習慣(歯磨き回数、歯間清掃用具の使用等)とメタボリックシンドロームの発症との関連性の分析結果も合わせて発表することにした。そこで、国際学会発表での発表を、平成26年度から平成27年度に変更した。また、細胞生物学研究では、脂肪細胞前駆細胞から成熟脂肪細胞への分化誘導が安定化したため、培地、培養プレートおよび試薬の消費量が研究計画当初よりも少量となった。これらの理由で次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
疫学研究、動物モデル研究、細胞生物学研究を推進し、3ヵ年の実績として纏める。そのための費用として、交付内定額と残額をあわせた約200万円のうち、口腔清掃習慣とメタボリックシンドローム発症との関連性に関する研究成果の米国歯科学会における発表費用(70万)、論文の2件の投稿費用(40万)および動物モデル本試験、細胞生物学研究の物品費(70万)、その他(20万)を予定している。
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Research Products
(5 results)