2013 Fiscal Year Research-status Report
熱ショックタンパク質誘導剤を用いた生物学的覆髄法の確立
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25462979
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Research Institution | Kyushu Dental College |
Principal Investigator |
諸冨 孝彦 九州歯科大学, 歯学部, 准教授 (10347677)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 象牙質ー歯髄複合体 / 耐性 / 熱ショックタンパク / 生体活性ガラス / 象牙芽細胞 |
Research Abstract |
熱ショックタンパク質誘導剤を用いた新規の生物学的覆髄法を確立することを目的に、本年度は熱ショックタンパク質(HSP)の発現誘導における歯髄細胞の熱耐性能向上を、in vitro研究により明らかにした。また並行して新規薬剤の基剤として利用可能な無機材料の開発を進めた。 1)HSP発現誘導と歯髄細胞の耐熱性の向上 ラット歯髄由来象牙芽細胞様株細胞に41℃の軽度熱刺激を加えると、各種のHSPs(HSP25, HSP70およびHSP90)の細胞内蓄積量が12時間後まで増加した。この時点で致死的な49℃、10分間の熱刺激を細胞に加えたところ、細胞数は一過性に減少したものの再び増殖能を示した。これらの生存細胞では象牙芽細胞の分化マーカーである象牙質シアロタンパクと象牙質基質タンパク-1の発現が認められ、機能的にも象牙芽細胞様細胞の特徴を保持し続けていることが確認された。以上の結果より、HSPの発現誘導により歯髄由来細胞の熱耐性能を向上させることが可能なことを明らかにし、報告した。 2)ストロンチウム置換生体活性ガラスの象牙質誘導能 熱ショックタンパク質は歯髄細胞の保護に加え細胞増殖や血管誘導への関与が報告されているが、直接的な象牙質形成誘導能については報告がない。熱ショックタンパク質誘導剤とともに象牙質形成誘導能を有する材料を基剤として適用することで、象牙質―歯髄複合体の修復・再生が有利になるため、骨補填剤として臨床応用されている生体活性ガラスの象牙質形成誘導能を確認した。in vitro研究の結果、生体活性ガラスは有意に象牙芽細胞分化を誘導する一方、細胞毒性は示さなかった。さらに、生体活性ガラスに含まれる成分のうち酸化カルシウムを酸化ストロンチウムに置換したストロンチウム置換生体活性ガラスでは、ストロンチウム含有量が増加するにつれて象牙芽細胞分化誘導能が高まることを確認し報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度中に研究機関の異動(福岡歯科大学→九州歯科大学)があり、研究の中断とその後の立ち上げのための期間を要した。そのため、効果的なHSP70誘導剤の投与量の検討については、現在も引き続き実験を遂行中である。 しかしその一方で、平成26年度に予定していた象牙芽細胞への分化を積極的に誘導する生理活性因子の検討については先行して研究を行った結果、取扱方法や費用の面から臨床応用上有利である無機材料のストロンチウム置換生体活性ガラスは高い象牙芽細胞分化誘導能を有し、細胞毒性は持たないことが確認された。そのため、HSP-70の直接的な象牙芽細胞分化誘導が確認されなかった際には、当初の計画にあった線維芽細胞増殖因子(FGF)-2に変えてこの無機材料を基剤などとして応用可能であることが示唆された。 以上より研究計画は一部遅延を見るものの、他方では予定に先行して進行しているため、おおむね順調であると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、以下の項目について検討を行う。 1)至適HSP70誘導剤投与量および投与方法の検討:前年度に引き続き、速やかな十分量のHSP70発現誘導が可能なHSP70誘導剤の濃度をin vitro研究により検討する。このときHSP70タンパクの産生量に加え、各種の刺激に対する耐性獲得状況も同時に確認する。in vitro研究による検討に続き、ラットを用いた動物実験により飲水や腹腔内注射による全身的投与による効果発現を確認する。HSP70誘導剤投与後一定時間経過後に歯を摘出・固定し、免疫組織化学的手法を用いてHSP70の歯髄内発現状況を確認する。 2)効果的なHSP70誘導剤投与のためのドラッグデリバリーシステムの検討:歯髄への効果的なHSP70誘導剤投与を可能とするためのドラッグデリバリーシステムについて検討する。過去の研究で用いたゼラチンハイドロゲル粒子による徐放システムではゲルの粒子径や小孔の径により徐放量や持続性が変化するため、最適な条件について詳細に検討する。これらの研究はin vitroで実施し、至適条件が確認されればラットを用いたin vivo研究を行う。動物実験では過去に用いた手法と同様に、ラット上顎第一臼歯を断髄し適切な濃度のHSP70誘導剤を含浸させたゼラチンハイドロゲル粒子を埋入する。 3)HSP70誘導剤の象牙芽細胞分化誘導能の検討:HSP70は各種細胞の分化に重要な働きをすることが報告されているが、象牙質をはじめとした硬組織の分化誘導能については報告はなされていない。そのため、HSP70が直接的な象牙質形成誘導能を有するか検討する。象牙芽細胞分化誘導能が不十分であれば、前年度検討したストロンチウム置換生体活性ガラスを基剤として用いて、第三象牙質の積極的な形成誘導を図る。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当該年度途中に前所属研究機関である福岡歯科大学より現所属研究機関の九州歯科大学へと異動した。実験機器の移設や新たな研究体制の立ち上げに数ヶ月を要した。そのため、予定していた研究の遂行が一部滞ることとなった。これらの研究は、次年度に遂行することとなる。また、参加予定であった学術大会への出席が日程上困難となったためやむなく参加を見合わせた。以上の理由から次年度使用額が生じた。 次年度の研究計画のうち、至適HSP70誘導剤の濃度や投与量を決定するための研究や、効果的なHSP70誘導剤の投与方法に関する研究は、本来前年度に予定していたものである。よって、これらのin vitroおよびin vivo研究を次年度に遂行するためには、従来予定していた次年度の予算計画の額では研究が困難であり、研究自体が滞る恐れが高い。よって、前年度に予定していた実験を次年度に実施し研究を滞りなく遂行するため、繰り越した予算を使用する計画である。
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