2014 Fiscal Year Research-status Report
和船を活かした遊覧・船祭りの観光学―「日本の流域遺産」化をめざして
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25501027
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Research Institution | Konan University |
Principal Investigator |
出口 晶子 甲南大学, 文学部, 教授 (00268385)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 和船 / 船祭り / 遊覧 / 伝統文化継承 / 観光 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年に引き続き和船を活かした遊覧と船祭りのデータベース作成を推進し、東北から九州にかけておもに次のような現地調査を実施した。①青森県の遊覧と木造和船の利活用に関する調査、②福島県奥只見、桧原湖等の遊覧事業の現況調査、③茨城県鹿島神宮の御船祭りの調査、④世界遺産・富士五湖周辺の遊覧事業調査、⑤世界農業遺産・能登地方のマルキブネ、加賀地方の遊覧船調査、⑥世界遺産・姫路城堀めぐりの和船技術養成に関する実地調査、⑦厳島神社管弦祭の御座船の献納地と漕ぎ手の提供地、ならびに音戸渡船の実地調査、⑧熊本江津湖、宮崎の高千穂峡の遊覧事業、芦北の木造帆引き船観光の調査 和船を活かした遊覧事業と船祭りの伝統継承は、相互の連携や地元民と観光客双方の複合的ニーズをひきだし、戦略的に組み立てることが継続の鍵をにぎる。そのことは、今年度の現地調査からも実証された。2012年高瀬船による遊覧が開始された姫路城の堀めぐりでは、建造と遊覧事業双方に責任ある立場で若手が参画し、次世代の技術育成が図られている。この取組みは木造船の建造修復で課題を抱えていた坂越の船祭り(国の重要民俗文化財)の運営にも新たな光明をあたえている。和船の遊覧事業が伝統ある船祭りの造船・修復・操船技術を支えていく事例はすでに厳島神社の先行例があるが、本件もその好例となろう。 また瀬戸内には、音戸渡船のように65年前の木造渡船が現役で活躍する場所がある。瀬戸には2本の大橋がかけられながらも、渡船はなくなることなく、レトロな町並みと調和し、観光客と地元民の暮らし双方から高い支持をうける。12年に1度の鹿島神宮の御船祭では、現代的な漁船群による壮大な船渡御と伝統和船による祭り遊覧とがいりまじり特色ある景色を生み出していた。 成果は、講演会、現場での意見交換、対策提言等で発信した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
日本の船祭りは、だんじりの屋台などに船の意匠を表現したものが数多くあり、研究計画当時の予想をはるかにこえた層の厚さがある。そのため船祭りのデータベース作成には時間と労力を要している。本研究では、水上をこぎわたる船祭りを中心にしながらも、船大工が製作に関与する船形だんじり、さらには幕や木枠で船体をあらわす船だんじり、もはや船の呈をなさないが、だんじりを船にみたて、浜に集結させたり競わせたり、川や池に落とたりする祭りの運行等にも留意し、祭りにみる船の象徴性について比較可能なデータベース整備に努めている。日本の船祭りが過去どういう経緯で今にいたったか、今後どういう方向にむかうのかを大局的に理解する基本資料となる。 限られた日に集中する船祭りの実地調査は、当初予定よりやや遅れているが、地道なデータベース作業の推進により50年、100年単位の時間軸、列島全体を俯瞰する空間軸による相対化がより明確になった。これにより地域の独自性をきわだたせ、かつ個別事例にとどまらない共通の課題群発見を容易にしている点で新たな研究展望が拓けている。
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Strategy for Future Research Activity |
今日、川・湖・運河や堀割など内水面で実施されている遊覧事業は全国で約200箇所ある。そのうち伝統的な木造船を用いた遊覧は40箇所あまりにのぼる。海で実施される数例を加えても木造和船を利用する遊覧事業数は50箇所程度であろう。生活現場で木造和船を必要とする機会は減少する一方であるため、船大工の減少は今後も進み、木造和船は、若手技術者養成の戦略的な取組みなくして技術継承は困難な段階にある。伝統的な船祭りにおける木造船技術の継承の難しさはどことも深刻な状況なのである。そのなかにあって沖縄では、サバニやマーラン船など独自の木造船文化継承の取り組みがみられる。船祭りの伝統の豊かさ、船漕ぎ競争のスポーツ文化への展開、行事運営と博物館・資料館の有機的な結びつきが効を奏し、圧倒的に力強い文化継承が見いだせる。そのため、次年度は沖縄本島等の船祭り・スポーツ文化にかかわる現地調査を含めて実施したい。その他、瀬戸内、和歌山等の船祭りと北海道東部域の遊覧事業調査を計画している。 和船を活かした河川・堀などの遊覧事業のデータベースについては、2015年版を完成させ、研究論文として公開する。船祭りのデータベースも整備し、日本の祭りにみる船の象徴性を多角的に検討するとともに、日本の山河海をつなぐ「日本の流域遺産」化にむけた視角を提示する。 日本各地から要請される和船の技術継承についての対策提言も実施する。
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Causes of Carryover |
当初計画時より、現地調査は複数地点を対象候補とし、緊急性や祭りの時期などに配慮して3年間で臨機応変に入れ替え、対応する方針で進めてきた。沖縄の海神祭り、厳島神社の管弦祭、和歌山県古座川の河内祭りなど、木造和船を利用した伝統の祭りは、旧暦のまま、あるいは曜日にかかわりなく固定で行われるものが多い。本年度、校務や台風等と重なり現地調査ができなかった船祭りについては、計画を次年度に回したため、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
和船を活かした遊覧事業については順調に現地調査が実施できている。船祭りのデータベースも整理が進んでいるため、本年度は時期の限られる船祭りの実地調査を最優先課題とし、伝統の祭り、新生の祭り双方をまじえて年間の現地調査計画を綿密に練りあげている。現地調査は、研究協力者と連携して実施し、次年度に回した費用は旅費と謝金にあてる。これにより、北海道から沖縄まで列島を縦断・俯瞰した最終年度にふさわしい成果がえられる。
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Research Products
(2 results)