2014 Fiscal Year Research-status Report
茶文化の総合的研究――茶論・絵画・女性を中軸として
Project/Area Number |
25511013
|
Research Institution | Daito Bunka University |
Principal Investigator |
滝口 明子 大東文化大学, 国際関係学部, 教授 (20179576)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 茶文化 / 茶論 / 女性とコミュニケーション / 絵画(日常画) / 国際情報交換(ヨーロッパ) / 国際研究者交流(アジア) |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度に実施した研究の主な成果として以下の3点を挙げることができる。 1. 平成26年4月(イギリス)、8~9月初旬(イギリス、オランダ、スイス)、平成27年3月(オランダ)と合計3回の海外調査を行い、ヨーロッパ茶文化史上重要な文献と絵画、茶道具に関わる資料を収集した。茶論では、オーヴィントン、スポン、ドュフール関連の貴重な資料を入手した。茶道具・絵画関連では、所蔵博物館の変更などで追跡困難だったデルフト絵皿(オランダ)の所在をつきとめることができた。、イギリスではNational Trust所管の貴族の館で17世紀のティーポットを見学・撮影できた。 2. 海外調査の過程で、現地の図書館・博物館関係者、歴史的建造物の学芸員、研究者との交流が新たに始まり、国際情報交換に向けての信頼関係を築くことができた。これは今後の研究推進の上で大きな力になると考えられる。ロンドンでは大英図書館(18世紀初期の書簡ほか)、Friends Library(クェーカーの茶商と医者に関する資料、書簡)、Welcome Library(医学史関連)等。オランダではライデン大学図書館貴重書室、ボーハーフェ博物館図書室(医学史)等。ジュネーブでは画家リオタール研究の第一人者と面談し、多くのご教示を得た。 3. 『お茶を愉しむ~絵画でたどるヨーロッパ茶文化』(2015.3月:大東文化大学東洋研究所 :ISBN978-4-904626-19-1)の出版。本書は学術書でありながら、一般の愛好者にもわかりやすく、絵画(図版100枚以上)をとおしてヨーロッパ喫茶文化の誕生とその展開をたどることをねらいとしている。科研費による研究成果の公表として、大きな意義を持つものと言える。平成27年度は、海外調査と資料収集を継続しつつ、茶論関連の論文執筆とJ. E.リオタール研究の基礎的作業を開始したいと考えている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画以上に順調に進展していると考える理由としては、a)3度の海外調査をとおして今後の研究の基礎となる重要資料を多く収集できたこと、b) 調査の成果を踏まえ、資料整理と執筆に力を注いで、まず喫茶画に関する研究をとりまとめたこと(『お茶を愉しむ~絵画でたどるヨーロッパ茶文化』)などが挙げられる。「研究目的」として交付申請書には1)欧米茶書の系統的研究 2)日常生活における茶の実態や茶の意味に関する研究(絵画と詩文学・思想書に見られる茶の表象と表現) 3)日本、中国、アジア諸地域の茶文化と欧米茶文化の比較研究(女性とコミュニケーションという視点を含む)を記載した。このうち1)の茶論に関しては、イギリス、オランダにおける調査(4月、8-9月、平成27年3月)により予想以上に多くの貴重な文献資料を入手することができている。これは科学研究費の交付を得たことにより複数回の渡航が可能となり、十分な海外調査日数を確保することができたこと、調査先の図書館等で文献資料の電子化が進んでおり、電子データによる資料の取得をスムーズに行えたことなどが関与している。2)に関しては図版を多く含む著書(単著)の形で研究成果を公表している。3)に関しては日本の茶と食の文化史について、茶の湯文化学会を中心に研究会に参加して知見を深め、今後の比較研究の基礎づくりに励んでいる。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては、現在のところ順調に進展しているので、今後もほぼ研究計画書通りに進めたいと考えている。今年度は最終年度に当たるため、これまでの2年間の成果を踏まえて、さらに発展させることを目指す。 1)茶論に関しては、オーヴィントン(イギリスとインド)、スポンとドュフール(フランス~スイス)を中心に調査を進め、論文を執筆して成果を公表する。スポンとドュフールに関してさらに資料を収集するため、今年度は是非フランスとスイスにおける調査を実施したいと考えている。(パリ、リヨン、ジュネーブ、ヴェヴェイ等)2)絵画に関しては、本年度はJ. E.リオタールに関する研究を中心に据える。この画家の初めての大規模な作品展がイギリス(エディンバラ、ロンドンほか)に於いて予定されているので、是非現地に赴き、これまで実見困難だった作品を見学し、研究者の会議に参加したい。さらに研究資料を整理してリオタールについての論文をまとめることを目標とする。3)ヨーロッパとアジアの茶文化比較、女性とコミュニケーションのテーマに関しては、コミュニケーションの場としての喫茶店(カフェ)文化に注目し、古今東西の茶やコーヒーを飲む場について研究し、考察を深める。トルコ、イタリア、ドイツのコーヒーハウスについてもシヴェルブシュやエリス、ハイゼなどの研究を参照する。アジアでは、イラン、ミャンマー、タイ、中国、日本等。 過去二年間の科研費研究をとおして多くの発見と進展があり、茶文化の総合的研究の重要性と意義をますます痛感している。課題は、研究対象が広範囲に渡り、研究時間は限られているということである。そのため今年度に何を優先して行うかをよく考え、最重要の課題から取り組むようにしたい。また今後研究を継続して行うために、新たな研究計画を練り、次年度以降も是非研究費申請を行いたいと考えている。
|
Causes of Carryover |
少額ながら次年度助成金が生じた理由は、物品購入額を抑えたためである。その理由は、計画書に記載した海外調査を遂行するための費用を十分確保したいと考えたこと、ならびに計画書作成時より謝金の増加が見込まれたため物品購入費で調整する方策をとったことによる。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度も海外調査旅費を確保するとともに、調査の資料整理・資料入力等のための謝金も相当額計上し、最終年度として成果公表に備えたいと考えている。またこれまで購入を予定していながら、選定等で慎重を期していたパソコン、電子辞書、図書資料などについても、研究成果とりまとめに必要なものを精査して購入し、効率的に研究を遂行する。またさらに余裕があれば、国際情報交換、国際研究者交流のために小規模な研究交流会の開催を企画したい。
|
-
-
[Book] 茶の事典2015
Author(s)
滝口明子(共著者、共編者)、代表編者 大森正司
Total Pages
印刷中
Publisher
朝倉書店