2014 Fiscal Year Research-status Report
西欧文化の日本での受容・変容・再発信の過程―文学における幻想性・怪奇性を中心に
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25511017
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
下楠 昌哉 同志社大学, 文学部, 教授 (90329532)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 幻想文学 / 国際情報交換 / イギリス / アイルランド / アメリカ |
Outline of Annual Research Achievements |
東雅夫との共同責任編集で『幻想と怪奇の英文学』(春風社)を刊行した。日本人研究者の英文学作品における幻想性・怪奇性を扱った論考を集めることで、21世紀において日本の研究者たちが西洋由来の「幻想性」「怪奇性」に対してどのような概念を持っているのか、実例として論集の形で示すことに成功した。この論集には「美しき吸血鬼-須永朝彦による西洋由来の吸血鬼の美的要素の結晶化」を寄稿した。この論考は、西洋由来の怪奇性を有する文学的形象、吸血鬼がどのように日本文学の作品の中で変容し、後の世代に影響を与えたかが明らかにされている。 戦後の日本における西洋の怪奇・幻想文学の受容に関しては、翻訳家平井呈一の果たした役割は大きい。2014年度に国際キリスト教大学Beveley Curran教授他編集によるトランスレーション・スタディーズの論集に、平井に関する論考を寄稿する機会に恵まれた。論考の"Hirai Teiichi, the Japanese Translator of Dracula and Literary Shapeshifter"は、"Multiple Translation Communities in Contemporary Japan"(Routledge)に収録され、2015年5月に刊行予定である。平井呈一に関しては、9月29日および30日に新潟県小千谷市の県立小千谷高等学校と市立図書館を訪れて資料収集を行った。さらに3月24日京都大原三千院門主、堀澤祖門氏を東雅夫氏とともに訪れ、平井呈一氏について聞き取り調査を行った。大原三千院への訪問は私費で行った。これらの研究成果はさらに調査を継続し、書籍収録の論考の形で発表予定である。 そのほか、日本のアニメーションに登場したアイルランドの妖精に関する英語論文の寄稿を2015年8月を締め切りとして求められており、研究を継続している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度に研究計画以上の成果が見込まれる論文集に対する寄稿の機会を二つ得て、そのうちの一つは今年度、もう一つは次年度に出版が見込まれる。また、日本への英語圏の幻想・怪奇文学移入の草分け、平井呈一氏の研究に関して予想以上の進展が見られた。さらに、本研究に関わる第二論文集編纂の計画が出版社の協力を得て実際に動き出した。 反面、今年度4月より計画していた在外研究は、所属内の諸状況により、2016年度9月からの実施となり、そのうちアメリカの研究機関への滞在は、2017年1月から8月までとなる予定である。アメリカの研究機関滞在時には、現地での文化受容の状態の調査を計画していたが、在外研究受け入れ先のハワイ大学マノア校の受入担当教員が文学研究の専門家のKen K. Ito教授と決定したため、直接的なアンケートなどを含む人間を対象とした研究は実施が難しい公算となった。そのため、現地の日本文化受容の研究に関しては、大学における日本文学の教授のされ方までにとどまる見通しである。受入担当教員に文学研究の専門家をお願いできたことによる利点ももちろんある。Ito教授からは、こちらから提出した研究計画に対してすでに具体的な研究の発展の可能性を指摘していただいた。Ito教授からの示唆を念頭に、日本と西洋の文学的想像力をつなぐキーワードとして、「幻想」もしくは "fantastic"という言葉の包含する概念により思索を深めてから、在外研究に赴きたい。
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Strategy for Future Research Activity |
日本への英語圏の幻想・怪奇文学移入の草分け、平井呈一の新潟県小千谷での活動をさらに明らかにするために、小千谷を訪れて、関係者からの聞き取り調査を行う。調査の成果は、2014年度の小千谷および大原三千院での成果と合わせて、2016年度出版予定の日本語論集への発表を目指す。 平井呈一の論考を収める予定の論集は、2014年度に世に問うた『幻想と怪奇の英文学』の第二弾となる予定である。執筆者の数は前回の12人から21人に増え、英文学だけでなく、アメリカ文学や国文学の研究者の論考も収録する。日本における西洋文学における幻想性・怪奇性に関する研究の実情を、包括的に世に問う所存である。 現代日本の大衆文化の代表格であるライトノベルで、アイルランドに起源を持つ妖精デュラハンを作品に取り込んだ成田良悟『デュラララ!』は、2010年にアニメ化されることにより、カルト的な人気を得ることとなった。2014年は『デュラララ!』第一巻刊行から10年目にあたり、2015年は一年を通して、『デュラララ!』の第二期のアニメがTV地上波で放送されている。このタイミングでこの作品を取り上げた英語論考を寄稿できる機会を得ていることは、本研究を海外にアピールするためにも意義が大きい。2015年度はこの論考に関する研究の発展と論文の完成に注力する。 2016年度以降は、2016年9月から2ヵ月半のアイルランド国立University College DublinのJames Joyce Research Centreでの資料収集、2017年1月から8ヶ月のハワイ大学マノア校での研究を念頭に、準備を進める。これらの成果は、複数回の海外での学会での研究発表につなげてゆく予定である。
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Research Products
(2 results)