2015 Fiscal Year Research-status Report
西欧文化の日本での受容・変容・再発信の過程―文学における幻想性・怪奇性を中心に
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25511017
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
下楠 昌哉 同志社大学, 文学部, 教授 (90329532)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 英文学 / 文化交流 / 大衆文化 / 幻想文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は海外出版社の論文集2冊に寄稿した。それらは西洋の幻想怪奇文学の日本語翻訳の草分けである平井呈一に関する論文、"Hirai Teiichi, the Japanese Translator of Dracula and Literary Shape-shifter," Multiple Translation Communities in Contemporary Japan, ed. Beverley Curran, Nana Sato-Rossberg, and Kikuko Tanabe, New York: Routledge, 2015, 169-85およびアイルランドの妖精デュラハンが、いかにして日本のライトノベルやアニメで採用されるにいたったかを調査した論文、"An Anime Dullahan: The Irish Death Messenger Adapted in Japanese Popular Culture," The Supernatural Revamped: From Timeworn Legends to Twenty-First-Century Chic, ed. Barbara Brodman and James E. Doan, Madison: Fairleigh Diskinsion UP, 2016, 133-44である。本研究は、西洋由来の想像力がいかにして日本で受容され海外に再発信されてゆくかの過程を扱うものであるので、入口と出口に関する研究成果を同時期に、英語により海外に向けて発信できたことは意義深い。 また、新潟県小千谷を訪問調査した際、戦時に彼の地で教鞭を取った平井の教え子である故佐藤順一氏の元に残された、平井の手による書を偶然発見した。これらの書は平井の文人としての活動を示す証拠であるとともに、後世に残されるべき貴重な文化的資料である。そのうち四点が文化的価値を鑑み、神奈川近代文芸館に収蔵されることとなった。収蔵にあたってご助力をいただいた佐藤久子氏、堀澤祖門氏、紀田順一郎氏、東雅夫氏、立恵子氏に心より感謝申し上げる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
おおむね順調に進展しているが、予想より進展している部分と、予定の変更を余儀なくされている部分がある。予想より進展している部分は、平成25年度の海外での研究発表が海外の出版社Fairleigh Dickinson University Press出版の論文集収録の論文へと進展したこと、および、研究開始時には予期しなかったことであるが、本研究の研究成果がトランスレーション・スタディーズの論文として、海外出版社Routledgeから刊行された論文集への寄稿がゆるされ出版されたことである。 反面、予定の変更を余儀なくされた部分は、平成27年度に予定していた一年間の在外研究が所属の仕事との関係で平成28年度後期および平成29年度前期となったため、海外の学会での研究発表のタイミングが当初の予定通り行うのは難しくなったことと、在外研究の受け入れ機関ハワイ大学マノア校での指導教員が文学研究者のKen Ito教授となったため、人間を対象としたアンケート調査などは現地では行えなくなったことである。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の成果の一つ「美しき吸血鬼―須永朝彦による西洋由来の吸血鬼の美的要素の結晶化」を、共同責任編集した『幻想と怪奇の英文学』(平成26年刊行)に発表したが、その第二弾の論文集の刊行が間近である。前回の『幻想と怪奇の英文学』ははからずも、現代の日本で英文学研究に携わる人々が「幻想」もしくは「怪奇」というタームからイメージする作品のショーケースとなっていた。第二弾の論集では最初から、論文集が全体として現代日本における西洋由来の想像力の受容の様態を端的に示せるように、意識的に編集作業を行っている。 7月24日より29日までUniversity College Cork(コーク、アイルランド)で開催される国際アイルランド協会(IASIL)の大会に参加し、平井呈一のDraculaの翻訳について研究発表を行い、研究成果を海外に発信する。 9月1日より11月15日までUniversity College Dublin(ダブリン、アイルランド)で研究活動を行い、日本に移入された西洋由来の幻想と怪奇の諸モチーフの源泉についての研究を深化させる。 平成29年1月5日より8月31日まで、ハワイ大学マノア校のCenter for Japanese Studiesで客員研究員として、Ken Ito教授の指導の下、研究活動を行う。ハワイ大学において日本の文学・文化はどのように教えられているのか、カリキュラムの中に幻想性・怪奇性を扱ったマテリアルはあるのか、実地に検証する。また、Ito教授の専門である谷崎潤一郎を中心としたに日本の文学作品に、英語圏における文学研究で幻想性を扱うときに使われる"the fantastic"という概念はどう適用できるのかについて、研究を行う。
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Research Products
(2 results)