2014 Fiscal Year Research-status Report
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25511019
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Research Institution | Kurashiki University of Science and the Arts |
Principal Investigator |
松岡 智子 倉敷芸術科学大学, 芸術学部, 教授 (90279026)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ジャック・シラク / ショア記念館 / ホロコースト / ヴィシー期 / 正義の人 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度の研究では、フランスのジャック・シラク政権下の時代に設立された美術館・博物館に新たに、当初の予定にはなかったパリのショア(注:ホロコーストのこと)記念館を加えることにし、前年度にフランスで収集した文献資料と同記念館での調査、そして、その後、国会図書館で行った、フランスの新聞記事を中心とした資料収集に基づき、同記念館の概要や設立経緯およびシラクとの関係を中心に考察を行った。その契機となったのは、ショア記念館の礼拝堂の入り口に掲示した解説パネルに書かれた「1995年7月16日、50年間の沈黙と忘却ののち、ジャック・シラク大統領が演説のなかで、第二次世界大戦中、フランスに在住していたユダヤ人に対してドイツ占領軍が行った犯罪に、ヴィシー政権が加担したことを正式に認めた」との記述を発見したことによる。以上の調査結果の一部を、筆者は論文「記憶の場所―ショア記念館(パリ)を中心として」(『倉敷芸術科学大学紀要』第20号、平成27年3月)にまとめ、〔付録〕として同記念館開館式におけるシラクの演説の全文を邦訳し紹介した。 そして、平成27年1月31日(土)に京都文化博物館で開催された第4回明治美術学会例会で「近代美術と博物館」と題し、多文化主義へと移行してゆくシラク政権下の美術館・博物館と大正期に起工した明治神宮聖徳記念絵画館を事例に挙げ、国民国家成熟期のフランスと草創期の日本の博物館を比較検討する研究発表を行った。 今後は、ルーヴル美術館(パリ、ランス、アブダビ)、ケ・ブランリー美術館、国立移民史博物館、ユダヤ芸術歴史博物館にショア記念館を含めた事例についての継続的な研究とともに、シラク政権下の美術館・博物館構想の総合的な考察へと研究を進めてゆく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成26年度に新たに事例研究の対象に加えることになったショア記念館は、平成17年、パリのマレ地区に設立された。その構想は第二次世界大戦中にすでにユダヤ人達の間で考案されていたが、本格的に動き出すのは、1995年にシラク大統領が演説で、占領下のユダヤ人強制移送へのフランスの責任を認めてからのことであった。彼は常に「光であっても闇であっても国の歴史と向き合うことは、未来と向き合うことに等しい」という明確な論理を持ち合わせており、その価値観を具体化したショア記念館は、シラク政権下の博物館構想の重要な柱の1つであったことが、研究の過程で明らかとなった。 しかし、まずフランスのホロコーストの歴史を学ぶことからはじまり、次に強制移送における国家の役割を認め追悼することで、歴史と向き合ったシラクの言動の変遷を、パリ市長時代からたどり、さらにパリのショア記念館についての史料を収集する作業は、予想以上に時間を要するものであった。また、フランスで関係者に聞き取り調査を行う予定であったが、パリでは1月7日にシャルリ・エプド社が襲われ、その2日後に郊外のユダヤ系食材スーパーマーケットが狙われるという事件が相次いで起こったため、しばらくの間、渡仏を断念せざるを得ない事態となった。 今後も国際情勢を見据えつつ、国内外でより多くの文献資料の収集を継続して行い、専門家から情報を得、さらには、本年12月に開館予定の「ルーヴル・アブダビ」の現地での調査も今年度中に行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
筆者は新たな研究対象となったパリのショア記念館の調査を契機として、1986年、パリの市長時代から、2007年、パンテオンの式典までの13回に及ぶ、これまでのシラク研究では光をあてられることのなかった、彼のホロコーストに関する演説やメッセージ、書簡に注目した。今年度はその内容を分析し考察した論文を執筆したのち、フランス近現代史の専門家の協力を得て『ホロコーストとフランスーシラクの談話・メッセージ・書簡:1986-2007』(仮称)と題する訳書の出版を検討中である。 そして、平成27年度は前年度に引き続き、東京を中心とする図書館や大学、その他の研究機関で文献資料の収集を行い、専門家へ聞き取り調査を行う予定である。さらに平成27年9月上旬-10月上旬のうち約1週間、また、平成28年3月上旬に約2週間の予定で、ケ・ブランリー美術館、ルーヴル美術館、国立移民史博物館、ユダヤ芸術歴史博物館、ショア記念館で開催されている展覧会を見学し、展示や収蔵品、建築に関する調査を行う予定である。ただし上記の海外出張の期間・場所については、勤務先の大学内での業務の状況や、国際情勢、また、美術館・博物館関係者の都合に合わせて、変更する場合もある。以上をふまえ、グローバリゼーションが加速する21世紀において、「非西洋」「移民」「ユダヤ人」といった「他者」との関係をいかに再構築するかという、現代フランスの差し迫った課題に正面から向き合ったシラク政権下の文化政策について、美術館・博物館を中心として、総合的な考察を試みる予定である。
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Causes of Carryover |
当初の計画では平成27年3月に3週間程度、パリに出張し、ケ・ブランリー美術館、ルーヴル美術館、国立移民史博物館、ユダヤ芸術歴史博物館、ショア記念館で開催中の展覧会を見学し、美術館・博物館関係者へ聞き取り調査を行い、さらにミッテラン国立図書館で日本では入手困難な文献資料を収集する予定であった。 しかし、同年1月上旬、パリでイスラム過激派による連続襲撃事件が起こり、その後もしばらくフランスはテロを警戒し、特にパリは厳戒態勢下におかれていたため、海外出張を断念し次年度に延期せざるを得なかった。そのため、予定していた旅費68万6064円を次年度に繰り越すことになった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
前年度に引き続き、東京を中心とした国内の図書館や大学、その他の研究機関で文献資料を収集し、国内の関係者や専門家へ聞き取り調査を行う。また、前年度に予定していたフランスと、今年度に開館予定のルーヴル・アブダビを見学するためアラブ首長国連邦への出張も計画しているため、旅費として110万円ほど予定している。しかし、万が一、国際情勢により海外渡航が困難になった場合は、一部を今年度出版予定の訳書の製本代に変更する可能性もある。 さらに人件費と情報提供者に対する謝金15万円、また、翻訳校正のための経費20万円を予定している。その他(通信費・資料の複写代)の経費と合わせて平成27年度は148万6064円(直接経費の合計金額)を使用する予定である。
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Research Products
(2 results)