2013 Fiscal Year Research-status Report
質量分析法とキャビティオミクス解析を用いた蛋白質の「揺らぎの震源地」 の解析
Project/Area Number |
25513005
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
泉 俊輔 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (90203116)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
平岡 裕章 九州大学, マス・フォア・インダストリ研究所, 准教授 (10432709)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | オミクス計測科学 / 幾何モデル導出 / ホモロジー群 / 蛋白質内のキャビティの網羅的解析 / 位相幾何学的定量化 |
Research Abstract |
キャビテイを位相幾何学的な手法で網羅的に数え上げる方法論はこれまでになく,キャビティオミクス解析と呼ぶべき新しい切り口である。これと蛋白質分子の揺らぎとを組み合わせることによって,蛋白質の揺らぎの根源(=揺らぎの震源地)の構造の特定をめざす。この「揺らぎの震源地」が特定できると,構造生物学の他,酵素工学や生合性工学など蛋白質の機能改変にも波及する概念が確立する。 球状蛋白質を用いて,適切な幾何モデルの導出とそれに対するホモロジー群を用いた蛋白質内のキャビティの位相幾何学的定量化を行う。次に水溶液中での蛋白質全体のH/D交換反応速度をESIイオン化法により測定する。これらの速度定数とキャビティ・スペクトルなどホモロジー群から得られる指標との相関を探索的因子分析法により分析し,蛋白質の揺らぎの位相幾何学的主因子(FIH)を明らかにする。 また,幾何モデル上で2次ホモロジー群の最小生成元を求め,キャビティの生成元を解明する。実験的には,各キャビティを形成するペプチドフラグメントのH/D交換速度を観測し,H/D交換速度から得られた揺らぎの空間的伝播情報から「揺らぎの震源地」を明らかにする。蛋白質の事例数を増やすと共に,必要であれば幾何モデルの修正を行い,より精度高いFIHの定量化をめざした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)球状蛋白質を用いて,適切な幾何モデルの導出とそれに対するホモロジー群を用いた蛋白質内のキャビティの位相幾何学的定量化を行う。ここでは基本データとして蛋白質のX線結晶解析像を用い,幾何モデルとしてCech複体,Rips複体それぞれのモデルに対応するPersistence Diagramを作成する。ファンデルワールス半径などのパラメータを含んでいるので,そのパラメータを実数倍することによってT-キャビティがホモロジー群として生成・消滅する。このT-キャビティ群の生成・消滅のふるまいをPersistence Diagramと呼ぶ。すなわち蛋白質は構成原子のファンデルワールス半径を実数倍変化させることによって,その蛋白質に固有のPersistence Diagramを記述する。このキャビティ・スペクトルを連携研究者の平岡氏と共に,(2)でH/D交換を行うすべての蛋白質について作成している。 (2)交換反応を用いる蛋白質のゆらぎの解析。水溶液中での蛋白質全体のH/D交換反応速度をESIイオン化法により測定する。このときH/D交換量の経時的変化は蛋白質のX線結晶解析が行われた条件を考慮しつつ,そのpHや濃度においては生理的条件に近い条件で行う。ESIイオン化は温度制御が可能で,出来るだけサンプル量を少なく出来るようにNanoスプレーイオン化を採用した。 実験によりH/D交換速度が測定可能な蛋白質に対して,これらの速度定数とキャビティ・スペクトルなどホモロジ-群から得られる指標との相関を探索的因子分析法により分析し,蛋白質の揺らぎの位相幾何学的主因子(FIH)を提案した。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)ホモロジー群を用いたT-キャビティの生成元の解析 課題は「代表元を種にして真のキャビティに対応する最小生成元を見出す」事である。しかしながら,一般にComputational Topologyの問題として代数的厳密解を求めることはNP困難であることが知られている。そこで代数的に解を厳密に求めるのではなく,高精度な近似解を高速に求めることをめざす立場をとる。つまり,蛋白質の幾何モデル上で最小生成元を双曲安定定常解に持つような偏微分方程式モデルを導入し,ホモロジー群計算で定まる代表元を初期値にして解の時間発展を追うことで最小生成元を近似的に求めようというものである。そのメリットは,数学的には時間無限大の極限で到達可能な最小生成元ではあるが,双曲性を積極的に利用することで解の収束を早め,有限時間で良い近似解を得ることを可能とする。この計画を実行する為には,数理解析及び変分法における業績を持つ平岡氏の連携研究者としての参加が不可欠である。 (2)揺らぎの空間的伝播とT-キャビティの生成元との相関 蛋白質のH/D交換位置を決定するために,我々が開発したペプシンとMALDIイオン化を組み合わせた手法を用いて,ペプシンフラグメントのH/D交換速度とその位置を観測する。得られた揺らぎの空間的伝播情報から「揺らぎの震源地」を明らかにする。この震源地が求めた位相幾何学的な生成元とどのように相関するのかを調べる。特に,ある特徴的な大きさのT-キャビティがあることが,揺らぎを伝播させる要因になっているのかどうかを求めたキャビティ・スペクトルと関連させながら解析する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
計画していた実験に少し遅れが生じた為。 当初の計画予定であった実験の為の器材、試薬の購入。
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