2014 Fiscal Year Research-status Report
質量分析法とキャビティオミクス解析を用いた蛋白質の「揺らぎの震源地」 の解析
Project/Area Number |
25513005
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
泉 俊輔 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (90203116)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
平岡 裕章 九州大学, マス・フォア・インダストリ研究所, 准教授 (10432709)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | オミクス計測科学 / 幾何モデル導出 / ホモロジー群 / 蛋白質内のキャビティ網羅的解析 / 位相幾何学的定量化 |
Outline of Annual Research Achievements |
アルツハイマー病の原因物質であるアミロイドβをソフトなイオン化法であるMALDI 質量分析で測定すると, 分子イオンの他にいくつかのフラグメントイオンが観測される。本研究ではこのフラグメント化の原因を調べるとともに, フラグメント領域から有用な情報を得るため効率的にフラグメント化を生じるマトリックスを検討した。 いくつかのマトリックスにおいてフラグメントイオンの強度を比較するとイオン化エネルギーの小さなものほどc-イオンの強度は大きくなり, 最もイオン化エネルギーの小さな1,5-Diaminonaphthalene (1,5-DAN,イオン化エネルギー 6.7 eV) のとき最大強度のフラグメントイオンが得られ,この質量差から容易にアミロイドβの配列情報が得られた。またイオン化エネルギーの大きなマトリックスではa-イオンが観測され, イオン化エネルギーが大きなものほどフラグメント強度の増大が見られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
幾何モデル上で2次ホモロジー群の最小生成元を求め,キャビティの生成元を解明。また各キャビティを形成するペプチドフラグメントのH/D 交換速度を観測し,H/D 交換速度から得られた揺らぎの空間的伝播情報から「揺らぎの震源地」を明らかにする。前年度の研究を継続・発展させ,蛋白質の事例数を増やしたと共に,幾何モデルの修正を行い,より精度高いFIHの定量化をめざした。 (1) ホモロジー群を用いたT-キャビティの生成元の解析 課題は「代表元を種にして真のキャビティに対応する最小生成元を見いだす」ことである。しかし一般にComputational Topologyの問題として代数的厳密解を求めることは困難であることが知られている為,代数的に解を厳密に求めるのではなく,高精度な近似解を高速に求めることをめざす立場をとる。蛋白質の幾何モデル上で最小生成元を双曲安定定常解に持つような偏微分方程式モデルを導入し,ホモロジー群計算で定まる代表元を初期値にして解の時間発展を追うことで最小生成元を近似的に求める。そのメリットは,数学的には時間無限大の極限で到達可能な最小生成元ではあるが,双曲性を積極的に利用することで解の収束を早め,有限時間で良い近似解を得ることを可能とした。 (2) 揺らぎの空間的伝播とT-キャビティの生成元との相関 蛋白質のH/D 交換位置を決定するために,我々が開発したペプシンとMALDIイオン化を組み合わせた手法を用いて,ペプシンフラグメントのH/D 交換速度とその位置を観測。得られた揺らぎの空間的伝播情報から「揺らぎの震源」を明らかにする。この震源地が求めた位相幾何学的な生成元とどのように相関するのかを調べる。特に,ある特徴的な大きさのT・キャビティがあることが,揺らぎを伝播させる要因かどうかを,求めたキャビティ・スペクトルと関連させながら解析した。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度までの研究を深化・発展させながら,以下の研究を推進する。 (1)蛋白質の揺らぎの速度は,T-キャビティとどのように相関しているか? 蛋白質のT-キャビティを位相幾何学的に定義する。次に,蛋白質内のすべての原子のファンデルワールス半径を一定割合で大きくし,その際のT-キャビティ数をプロットする。蛋白質の構造情報が同じであれば,キャビティ ・スペクトルは各蛋白質によって固有の形を与える。一方で各蛋白質におけるH/D 交換速度を質量分析によって求め,これらの速度定数と強い相関を持つキャビティ・スペクトル上の新たな指標を見いだし,蛋白質の揺らぎの速度との相関を調べる。 (2)「揺らぎの震源地」はT-キャビティの生成元とどのように相関しているか? 蛋白質の揺らぎは一様ではなく,1つの分子の中にも揺らぎやすい部分と揺らぎにくい部分がある。これらの部分はペプシンフラグメントのH/D 交換率を観測することによって決定することができ,この時間発展を調べることで「揺らぎの震源地」を特定することができる。一方,T-キャビティの生成元はホモロジー群計算で定まる代表元を初期値として,解の時間発展として求めることができる。この「揺らぎの震源地」とT-キャビティの生成元との相関を調べることによって,蛋白質が揺らぐための共通のT-キャビティの構造を提示する。
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