2013 Fiscal Year Research-status Report
宇宙放射線組成線種・重粒子線によるDNA損傷とその修復機構
Project/Area Number |
25514007
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Nara Medical University |
Principal Investigator |
大西 武雄 奈良県立医科大学, 医学部, 研究員 (60094554)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 放射線感受性 / DNA修復 / DNA損傷 / 重粒子線 / 生存シグナル / ストレス |
Research Abstract |
ネズミ個体に低線量の重粒子線を被ばくさせた時の組織幹細胞に対する応答を調べた。【材料と方法】(1)ICRマウス(雄、5週齢)に、炭素線(135 MeV/u)を0.01~2.0 Gyで単回全身照射した。またc-PTIO(6.7 mg/kg)を照射6時間前から2時間間隔で3回腹腔内投与し、NOの寄与を解析した。(2)照射後36時間目にマウスから小腸および精巣を摘出し、正常組織反応の指標としてアポトーシスの誘導をTUNEL染色により検討した。【結果】(1)炭素線を全身に2.0 Gy照射し、36時間後に小腸および精巣を摘出し、アポトーシスの誘導をTUNEL染色により検討した。それらに顕著なTUNEL陽性細胞の誘導が認められた。これらはc-PTIOの照射前投与により抑制された。(2)炭素線を全身に0.01-0.1 Gy照射し、36時間後に小腸および精巣を摘出し、アポトーシスの誘導をTUNEL染色により検討した。それらにおいて、非照射の場合と比較して、有意にTUNEL陽性細胞の誘導が認められた。それらはc-PTIOの照射前投与により抑制された。さらに精巣小葉あるいは小腸腺窩当たりのTUNEL陽性細胞の個数に線量依存性が認められた。(3)炭素線により誘導されるTUNEL陽性細胞は精巣小葉の精原細胞あるいは精母細胞が分布する最外層および第2層目に局在し、精子幹細胞および前駆細胞に特異的にアポトーシスが誘導された。また、小腸腺窩のパネート細胞の近傍に陽性細胞が局在し、小腸幹細胞および前駆細胞に特異的にアポトーシスが誘導されていた。 以上の結果から、低線量炭素線被ばくによりDNA損傷が誘発された組織幹細胞は、DNA損傷の修復されるのではなく、アポトーシスにより細胞が排除されていると示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
宇宙環境の主環境は微小重力と宇宙放射線である。宇宙放射線はエネルギーの異なる多種の放射線を含んでいる。その中でも生物効果が高く出る放射線の生物影響が特に注目されている。そのためには、低エネルギーに当たる放射線をコントロールと比較した、比較研究が重要である。環境因子でDNAに損傷をもたらす放射線や温熱をヒト培養細胞やネズミ個体に施すことにより、生物影響の現れ方の実験を進めてきた。DNA損傷と修復に関する成果を論文にすることができ、学会でそれらに関する経過報告を発表できた。さらに、今後の研究の発展のための、放射線に感受性を示すDNA修復欠損変異株を準備した。これらを用いてさらに研究を進めていく。
|
Strategy for Future Research Activity |
(1)DNA損傷認識タンパク質蛍光抗体を用いた可視化によるDNA損傷の定性および定量:DNA二本鎖切断(dsb)を認識するγH2AX、リン酸化型Nbs1および53BP1を認識する抗体を用いた蛍光免疫染色によりdsbの可視化による定性・定量技術を開発する。ヒト正常培養細胞にX線あるいは粒子線(陽子線、炭素線、アルゴン線等)を照射し、蛍光免疫染色により dsbの生成構造を可視化し、放射線の種類の違いによるdsbの分布状態の違いを明らかにし(定性解析)、さらに蛍光強度を測光し(定量解析)、dsbの可視化による定性・定量を行う。 (2)蛍光標識DNA修復関連遺伝子導入細胞を用いたDNA損傷修復過程の解析:Rad51あるいはBRCA2遺伝子を欠損したヒト培養細胞に、これらの遺伝子と蛍光タンパク質(GFP)遺伝子を融合させた遺伝子を導入し、X線あるいは粒子線(陽子線、炭素線、アルゴン線等)照射後の蛍光標識されたこれらのタンパク質の核内移行、dsb部位への集積(フォーカス形成)、修復完了に伴う蛍光強度の衰退等を経時的に画像解析および測光し、dsb修復過程を可視化して解析する. (3)蛍光標識突然変異マーカー遺伝子導入細胞を用いた可視化による突然変異率の測定:hprt遺伝子突然変異体の可視化により突然変異率の測定技術の開発を目指す。テトラサイクリン・オペレーター依存性GFP遺伝子(TetO-EGFP)およびテトラサイクリン・レプレッサー(TetR)遺伝子をhprt遺伝子内に挿入した遺伝子を導入したヒト培養細胞を用いて、X線あるいは粒子線(陽子線、炭素線、アルゴン線等)照射後に誘発されるhprt遺伝子の突然変異体を可視化し、これらの放射線によって誘発される突然変異率を測定する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
配分総計額のうちの未使用額が少額であったことと、研究遂行上にそれに該当する額にあてはまるものがなかったので、次年度使用とした。 本研究分野の平成27年度開催の国際学会に出席してほしいとの要請が入り、次年度使用額をその目的の一部にあてる予定である。
|