2013 Fiscal Year Research-status Report
上場企業の震災による損失開示行動とその評価に関する研究
Project/Area Number |
25516012
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Tokyo Keizai University |
Principal Investigator |
吉田 靖 東京経済大学, 経営学部, 教授 (10383192)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 震災 / イベントスタディー / ディスクロージャー / ファイナンス / リスクマネジメント / 株式市場 / 情報の非対称性 / 有価証券報告書 |
Research Abstract |
平成25年度においては、東日本大震災直後の株式市場の反応を、情報の非対称性下の伝染効果と捉え、震災発生と上場企業の立地状況の情報を持つ投資家が、詳細な被害情報がない中でどのように株式価値を評価したかを、イベントスタディーの手法により分析した。その結果は、5月12日に日本ディスクロージャー研究学会第7回研究大会、6月1日に日本ファイナンス学会第21回大会、7月31日にAsia-Pacific Risk and Insurance Association 17th Conference、10月29日にThe 14th Asian Academic Accounting Association Annual Conferenceにおいて発表し、有用なコメントを得ることができた。また、日本ディスクロージャー研究学会の特別研究プロジェクトの一環として開催された9月3日、1月10日、3月28日の研究会では密接に関連した研究の情報交換を行った。 本年度の研究では、金融を除く上場企業を対象に分析を行い、①3月決算企業の震災による損失の数値の開示は4月以降の決算発表と同時に行った例が多く、震災直後には損失の数値的なデータは乏しい中でも、震災後数日間の株式リターンには、後に企業が開示する損失の数値による差と関連のある差が現れていること、②投資家は、震災前の有価証券報告書などにより、企業の設備の立地状況の概要は把握でき、それらの情報を評価に使用した可能性があること、③3ファクターモデルによる調整後株式リターンでは、福島県に設備が多い企業が、3月末までも統計学的に有意に負になっており、原子力発電所の事故による影響を重く評価していた可能性が高いこと、などの結果が得られた。他の研究では、エネルギー関連業種の分析が多い中で、多くの業種にわたり、設備の立地状況をも反映した独自の成果となっている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要でも報告しているように、2つの国際学会を含む学会などで研究報告をした。他の震災の研究例では、本社の所在地や業種などの要因による株式リターンの分析が多い中で、研究実施計画にほぼ沿った状態で震災前年である2010年3月期の有価証券報告書の「設備の状況」による立地状況が要因として有効であることが通常のイベントスタディーの手法により確認できた。また、震災から3月末までの岩手県、宮城県、福島県、茨城県の4県の立地比率の有意性を検証したところ、福島県が一貫して有意に負の影響があった。 また、このような実証研究の先行例として、スリーマイル島事故、チェルノブイリ事故、アメリカにおけるハリケーンによる災害などがあり、イベントスタディーの手法としては、同時に発表する企業が多いときの影響を考慮した計測方法なども参考にする必要性があることを確認した。 さらに、上場企業の開示状況に関する分析も、ほぼ予定どおりに進捗している。本研究に関しては、奥村雅史教授(早稲田大学商学学術院)と協力して進め、東京証券取引所(当時)のTDNETによる震災当日の3月11日以降の開示を、その内容により、「被害状況(調査中、被害あり、被害なし)」、「被害内容(直接被害、間接被害)」、「再開」、「業績への影響」などに分類し、開示日時と共に記録し、2011年4月15日までの開示に対して分類をほぼ終えている。その結果、震災翌週の3月18日までに、「被害あり」という内容を含む開示は1476件であったが、そのほとんどは「設備への被害」であり、「業績への影響」は「調査中」とするものが多かった。他の研究例では、開示のタイトルにより震災との関連性を調査している場合もあるが、業績への数値的などの重要な内容を伴う開示は、決算短信により開示する場合が多いことから、開示内容に関しても精査する必要があることが確認された。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成26年度においては、5月10日の日本ディスクロージャー研究学会第9回研究大会(発表済)、6月6日の第2回金融ネットワーク研究会、6月7日の危機管理システム研究学会、6月17-20日に開催されるIFABS( International Finance and Banking Society )2014、11月28日の都市減災協議会(経済)において発表を行う予定である。 また、本年度の予定としては、株式の評価に与える要因として、企業によるディスクロージャーの内容も要因として追加する。これは、震災直後のディスクロージャーには、被害の有無に関してのみ簡潔に開示した例が多いが、これらに関しての投資家の評価の差を考慮する必要がある。その上で、イベントスタディーの手法をより精緻化し、同じ期間に発表する企業が多いときの影響、情報が修正されていく過程での影響などを考慮した計測方法も検討する。 さらに、上場企業の開示状況に関する分析も、奥村雅史教授との協力を進め、2011年6月末までを対象として分析する。現時点において、約6900件の開示を現在までの達成度で述べた方法により分類しており、開示の迅速性と正確性という観点から、決算短信や業績予想の修正の日程の中で、被害額の開示が行われている状況を企業の開示行動として捉えて、分析を行う予定である。 以上の成果は、研究論文として執筆を行い、投稿の準備および研究書としての出版を進める予定である。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
残金が少額であったために、次年度において支出した方が、研究計画上も問題なくかつ有効な使用ができると判断した。 研究発表を行う学会などへの旅費などに支出する計画である。
|
Research Products
(12 results)