2013 Fiscal Year Research-status Report
マウス脳で人間のニオイ感覚を予測する:生物模倣型自動官能検査法の提案
Project/Area Number |
25540125
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
辻 敏夫 広島大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90179995)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
滝口 昇 金沢大学, 自然システム学系, 准教授 (20304462)
栗田 雄一 広島大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80403591)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 嗅覚 / 官能検査 / マウス / 神経活動 / ニューラルネット |
Research Abstract |
匂いの評価法は,人間の主観的な感覚指標を統計的に分析する官能検査が主流であるが,個人の主観や体調による評価のばらつきといった問題を最小限に抑えるためには非常によく訓練された専門家が多人数必要になる.本研究では,嗅覚系に関する知見が豊富に蓄えられているマウスの嗅覚構造や内部状態を用いて嗅覚系に内在する情報処理機構をモデル化し,人間の匂い感覚を予測するという生物模倣型自動官能検査法を提案する. 当初の研究計画では,マウスを用いた匂い識別実験を初年度に行う予定であったが,対象とする匂いや実験プロトコルを明確にするために研究計画の順序を入れ替え,二年度目に予定していた人間に対する官能検査実験を実施した.なお,本実験は疫学研究倫理審査委員会の許可を受けており(第 疫-725号),実験に際してはヘルシンキ宣言に則り,被験者に実験の目的と安全性について口頭及び書面により説明を行い,書面による同意書を得ている. 官能検査実験では,匂い成分間の相互作用による感覚への複雑な影響を除外するために単種類の分子で構成された匂いを用いた.また,匂い強度による感覚への影響を除外するために,事前に匂いの受容閾値を計測する官能検査実験を行い,全種類の匂い強度がほぼ一定となるようにミネラルオイルを用いて希釈した.上記に述べた実験条件の下,予め定めた基準臭と他の匂いとの類似度を一般的な官能検査方法である1対2点識別法により評価した.得られた匂いの間の類似度とラット糸球体の活動パターンの類似度を比較した結果,一定の相関があることを見出した.以上の結果は,マウスの嗅覚神経の内部状態から人間の匂い感覚を予測できる可能性を示している.そこで,次のステップとして,嗅覚系における神経活動の正規化・先鋭化機能や能動的な順応機能などを考慮した統計構造内包型ニューラルネットに基づく感覚予測モデルの構築を開始した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,人間の匂い感覚予測が可能な生物模倣型自動官能検査法の提案を目的として,(1)マウスと人間それぞれの匂い感覚特性データベースの構築,(2)嗅覚系の構造とその内部状態に基づいた感覚予測モデルの構築,および,(3)嗅覚系の感覚予測モデルのパラメータ最適化アルゴリズムの構築を行う予定である. 課題(1)について,本年度は一般的な官能検査方法である1対2点識別法により,人間が感じる匂いの間の類似度評価を行い,感覚特性データベースのプロトタイプを構築した. 課題(2)については,ラットの神経活動パターンから人間の感覚へ変換し得る手法を実生物の匂い情報処理機構に基づいて考察し,感覚予測モデルの構築のために必要な基礎検討を行い,ラット糸球体の活動パターンの類似度が人間の感じる匂いの間の類似度と一定の相関関係にあることを見出した. 以上のように本年度は,人間の感覚特性データの取得と,人間の匂い感覚特性の予測にある程度成功しており,当初の計画通り課題とする3項目中2項目において進展が認められたため「おおむね順調に進展している」と判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は,ラット嗅球の神経活動パターンから人間が感じる匂いの類似度をある程度予測できることを確認したが,感覚予測のための最適な特徴量の抽出法は確立できていない. そこで,来年度は,(2)嗅覚系の構造とその内部状態に基づいた感覚予測モデルの構築,および,(3)嗅覚系の感覚予測モデルのパラメータ最適化アルゴリズムの構築を行う予定である. 嗅覚系内部では非常に複雑な特徴抽出処理や学習が行われており,その全容はまだ解明されていないが,側抑制による神経活動の先鋭化機能や,能動的抑制機能の存在従来研究より示唆されている.本研究では,これらの従来知見基づき嗅覚系の情報処理に則った神経活動の特徴抽出を行い,研究代表者が独自に構築した統計構造を内包するニューラルネットに入力することで,人間の匂い感覚予測を試みる. また,ニューラルネットモデルのパラメータを適切に調整するための教師信号データとして,引き続き(1)マウスと人間それぞれの匂い感覚特性データベースの構築に取り組み,データベースの拡充を目指す.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初の計画では,感覚特性を定量化するために,匂い識別実験装置一式を初年度に購入する予定であった.しかしながら,実験をより効率的に行うために研究計画の順序を入れ替え,まず人間の感覚とマウスの神経活動パターンの関係性について検討を行い,匂い識別実験装置一式の購入は翌年度に持ち越したため. 本年度は,当初の研究計画では初年度に購入を予定していた匂い識別実験装置一式を購入する予定である.
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