2013 Fiscal Year Research-status Report
全原子量子化学計算によるマルチチャネルオプトジェネティクス用光受容体の分子設計
Project/Area Number |
25540132
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
櫻井 実 東京工業大学, バイオ研究基盤支援総合センター, 教授 (50162342)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | チャネルロドプシン / オプトジェネティクス / オプシンシフト |
Research Abstract |
チャネルロドプシン(ChR)は、走光性に関する光センサーとして機能する光駆動型陽イオンチャネルであり、オプトジェネティクスに利用されている。ChRの吸収波長はChR1では465 nm、ChR2では510 nmである。本研究ではChRの吸収波長制御機構を原子レベルで解明し、マルチチャネルオプトジェネティクスの実現へ向けた分子デザインを行う。そのために、本研究では従来研究で開発したタンパク質全原子を考慮可能な量子化学計算(INDO/S-CIS法)を行う。 ChRの構造は、ChR1とChR2のキメラ体であるC1C2のX線結晶構造(PDB ID: 3UG9)を初期構造とし、3D-RISM理論を用いて水分子を配置した後、QM/MM法を用いて最適化した。その構造に対してINDO/S-CIS法を用いて、吸収波長計算を実行した。加えて、各アミノ酸の吸収波長への寄与を解析するためにGlyスキャニングを行った。 C1C2の吸収波長計算の結果は482 nmとなり、実験値470 nmに近い値が得られた。次に、Glyスキャニング計算によって各アミノ酸の吸収波長への寄与を網羅的に評価した。その結果、発色団近傍に位置し、カウンターイオンとして知られているGlu162とAsp292のブルーシフトへの寄与が最も大きく、それらと水素結合を形成しているLys132と水分子はレッドシフトへ大きな寄与をしている1ことがわかった。さらに発色団から20Å以上離れた荷電性アミノ酸も静電的な長距離相互作用によって吸収波長に影響していた。また荷電性アミノ酸だけでなく、シッフ塩基付近の極性アミノ酸もブルーシフトへ寄与しており、ChRのレッドシフト変異体の設計には、この極性を弱める変異を導入することが有効であることが判明した。実際、これらの情報に基づいて、レッドシフト変異体(たとえば600nm付近に吸収を持つ変異体)のデザインを試みた。しかしながら、まだ目標とした変異体は得られていない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、C1C2のX線結晶構造に基づいて、全原子量子化学計算により吸収波長を計算することに成功した。また、Glyスキャニングを通して各残基の吸収波長制御への寄与も明らかにした。さらに、バクテリオロドプシンの場合(研究代表者の従来研究の成果)と比較したとき、ChRにはどのような特徴があるのかもわかってきており、1年目の成果としては十分であると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
H25年度では、Glyスキャニングの結果に基づいて、レッドシフト変異体のデザインも試みたが、まだ十分長波長にシフトした変異体は見つかっていない。一つの原因は、変異体の構造を決める際、変異部分のみをMMレベルで最適化したに過ぎず、本来変異によって活性中心に生じるべき構造変化が十分に再現できていなかったことが考えられる。それゆえ、H26年度ではQM/MM計算による精度の高い構造最適を行うとともに、ChR1ChR2をリン脂質二重膜に埋め込んだ系のMDシミュレーションから構造サンプリングする手法も試みる。 このようなChRに的を絞った研究のみでは、袋小路に陥る恐れがある。そこで、他のロドプシンファミリータンパク質に関する研究結果も考慮に入れた展開を図る。具体的にはプロテオロドプシン(PrR)に着目する。このタンパク質では発色団から20Å以上離れた位置にあるアミノ酸(A178)の変異(A→R)が吸収波長に20 nmものレッドシフトを起こすことが知られている。この遠達相互作用のメカニズムが解ければ、ChRの吸収波長制御にも応用できると考えられる。 このPrRのA178R変異体の吸収波長シフトの原因を探るため、まずはこの分子をリン脂質二重膜に埋め込んだ系のMDシミュレーションを実行する。その結果より、発色団付近の構造やカウンターイオンのpKa等がどのように影響されるかを調べ、アロステリック効果の起源と経路を探る。このようにしてサンプリングされた構造に対し、さらにQM/MM法による構造最適化を行う。得られた構造に対し、全原子量子力学計算により吸収波長の計算を行う。以上を総合して、PrRにおけるアロステリック的吸収波長変化の原因を明らかにし、ChRのデザインへの応用を考察する。
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Research Products
(4 results)