2014 Fiscal Year Research-status Report
政府・自治体が先回り災害対策を講じるための時系列災害情報作成と物語アーカイブ化
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25540157
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Research Institution | Takushoku University |
Principal Investigator |
竹下 正哲 拓殖大学, 国際学部, 准教授 (70625772)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 東日本大震災 / 台風30号 / 台風ハイヤン / ロジスティクス / 食料安全保障 |
Outline of Annual Research Achievements |
災害には、地震、津波、火山噴火、土石流、地滑り、洪水など多くの種類があるが、被災後に人々が直面する問題には共通項が多く、ある種のパターンが存在している。それら多くの災害に共通する問題点を抽出し、整理し、政府や自治体などが使える資料をつくることが、本研究の最終的な目標である。 そのために、25年度は東日本大震災で大きな被害を受けた石巻市を中心に定性データ(被災者による物語データ)の収集に努めた。物語データには、被災者が直面する多くの問題が含まれているにもかかわらず、数値として客観的に収集することが難しいため、これまで研究素材として活用されることが少なかった。本研究は、それら物語データを収集することにより、東日本大震災および阪神・淡路大震災などの後でどのような問題が起きたのか、その概要を把握することはできた。 26年度は、フィリピンの台風30号(台風ハイヤン)災害を中心に調査を行った。フィリピンでの調査には、日本では実行が難しいインタビューなどを行えるという利点がある。詳細な世帯調査もその一つであり、今回の調査では、現地の大学院生らをインタビューアーとして雇い、被災50世帯を対象に詳細な構造化インタビュー調査を行った。それにより、これまで把握されていなかった被災後の時系列推移を、被災直後から半年後まで系統立ててデータ化することができた。とくに食料と水のロジスティクスに焦点を当てており、その成果を英文にまとめ、現在投稿しているところである。 また夏には学生メンバーが中心となり、石巻での聞き取り調査を継続した。冬からは膨大な既存資料の整理にも着手しはじめ、logistics, preparedness, resilience, narrativeなど、今後重点的に取り組むべき焦点が定まってきたところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
萌芽的研究の特性上、試行的に調査をして、その結果を踏まえて次のステップを手探りでいくという手法を足らざるを得ない。そのため、事前にゴール地点が明確に決まっている研究のようには進捗していかないであろうことは、最初から予期していた。 25年度は現地フィールド調査や映像資料調査などによって基礎データを収集することに専念した。それらの調査を続ける中で、東日本大震災や阪神淡路大震災等の全体像を把握することができたと同時に、従来の客観的に科学では拾われにくい主観的データ(物語データ)を数多く得ることができた。 26年度はフィリピンの台風災害を中心に、被災直後の食料、水などの状況をロジスティクスの点から検証した。フィリピンを調査した大きな目的は、国際の視点から日本の災害対応を捉えることにあった。フィリピンは日本と違い自国の防災政策が乏しいことから、アメリカ、ヨーロッパ、国連などの組織が中心となって災害対応を発達させてきた。そのような国際社会の手法と比較することにより、日本の東日本大震災や阪神・淡路大震災への対応について、欠けている視点を探ろうと試みた。そこから見えてきた知見には大きなものがあり、国際社会にあって、日本には未だ存在しない防災視点やメソッドが数多く発見できた。 この種の研究で一番難しいのは、その表現の方法にある。新たに見いだされた知見をいかに世の中に発表し、還元していくべきか。それは従来のようにロジカルに検証・発表していくだけでは不十分で、災害の記憶と教訓を100年後の世界に朽ちない形で伝えていくためにどうしたらよいか、を探求してことが重要となってくる。それは世界でまだ誰も確立したことのない手法であり、ゼロから創造しなければならず、さらなる検討が必要となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
過去2年間の試みにより、目標達成のためにはどこに重点を置くべきか、その焦点が定まってきた。具体的には、logistics, preparedness, resilience, narrativeといった視点であり、それらは、その重要性から国際社会では大きく注目されつつあるが、日本では未だ目を向けている研究者は少ない。 最終年度である27年度は、これらの焦点の中から実現可能なテーマを選び、秋をめどに集中的な調査をしたいと考えている。調査フィールドとしては石巻を想定しているが、研究の進展具合によっては変更もあり得る。自身の専門の強みをいかしていくために、「発災直後の食料の迅速なロジスティクス」(本来の意味での食料安全保障)、そのために必要な事前準備、公的機関と民間企業の連携と棲み分け、平時からのシステム作りと維持管理、などの調査を展開したい。 あわせて、これまでに見いだされた知見を論文などの形で積極的に発表をしていく。その際、本研究では従来の論理や理性に重きをおいた成果発表だけではなく、一般の人々の感情や記憶に深く災害の記憶を刻み込むための「物語」的手法を確立することを目指している。ただそれは萌芽的研究の名が暗示しているとおり、前例がまったく存在していない状況での模索となっており、その開発は容易ではないのだが、物語の機能について研究してきたこれまでの知見を、うまく災害の伝承と結びつけていきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
理由は大きく二つある。一つは、本研究は被災者に直接インタビューすることに重きをおいており、そのためには現地に根付いて活動している支援団体(NPO,NGOなど)の協力が欠かせないのだが、その支援団体が震災から4年目を迎えるにあたり、加速度的に撤退(あるいは消滅)していったことが挙げられる。その撤退速度は当初の予想を上回るものであった。同時に被災者の中にも、自立できる者と自立が難しい者の差が広がってしまい、自立できない人たち(本当に問題を抱えた人たち)から声を聞くことがだんだんと難しくなってきたという事情がある。 そういったことが顕在化してくるのと合わせて、手探りで始めた萌芽的研究にも焦点を当てるべき方向性が徐々に明らかとなってきた。そのため、フィリピンで行ったように、より焦点を絞った調査を、集中的に行う方がよいと判断し、そのための予算を最終年度に回すことにした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
27年度の秋をめどに、大人数での集中的な調査を考えている。フィールドは、第一候補として石巻を想定しており、研究協力者らとともにインタビュー、あるいはアンケートなどを行う予定である。 また焦点が絞り込まれるのに合わせて、さらなる専門書等が必要になってくるため、資料の購入費にも充てることになる。
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Research Products
(2 results)