2013 Fiscal Year Research-status Report
胎生種子の形状に着目したマングローブ群落の動態に関する研究
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25550007
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
古里 栄一 埼玉大学, 理工学研究科, 助教 (30610901)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田中 規夫 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (80323377)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | マングローブ / 塩分成層 / 潟口 |
Research Abstract |
平成25年度は,当初計画に基づいたトピックを実施するとともに,3ヵ年の研究全体を見通して対象とするフィールドやマングローブ種および観測事実の取得と仮説構築も念頭におき,以下の研究を行った. (対象潟湖およびマングローブの選定)本研究においては,塩分環境の変化に対する広域的な空間分布の変化が顕著な種を選定することが重要である.スリランカのコッガラ潟湖とレカワ潟湖のマングローブ植物の現状および過去の群落分布について情報収集および解析を行った.その結果,胎生種子形状の異なるRhizophora mucronataとSonneratia caseolarisは,コッガラ潟湖における近年の潟口開口前後で分布域が大きく変化していることが明らかとなった. (浮遊輸送仮説モデルの構築)現地における予備的実験によって,塩分濃度に応じて胎生種子の浮遊形態が異なることも確認された.これらの事から本研究においては,「コッガラ潟湖における潟口開口前後における上記2種の分布変化と,胎生種子の浮遊形態が塩分濃度に応じて変化することによる輸送速度の変化との関係」に関する新しい仮説を構築した.これらの関係を明らかにすることにより,本研究の目的を達する事とした. (種子浮遊特性の室内実験)次に,スリランカにおいて上記2種の胎生種子を約50個採取し当初計画どおりの種子浮遊に関する物性を評価した. (潟湖塩分環境の数値モデル)現地調査および既存データより,潟口形状の異なるレカワ潟湖とコッガラ潟湖をスリランカにおける代表的な潟湖として選定した.次に,これら潟湖で実施した現地調査結果に基づいて鉛直方向の塩分成層を解析できるバルクモデルを開発した.既存のリチャードソンエスチャーリー数を用いたモデルでは,見込まれていない水面風による混合効果考慮したモデルを開発した.その結果実際の塩分成層をより精度高く表現できることがわかった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画においては,平成25年度は,①室内実験による種子浮遊に関する物性の評価,②室内,現地実験による輸送速度評価に加え,③潟湖塩分成層数値モデルの開発を行うこととなっていた.このように異なった手法による研究を同時に進行しつつ,それぞれの関連性を考慮して最終的な研究成果の達成を図るため,各項目について以下のような達成度となっている. ①胎生種子の物性に関する室内実験についてはマングローブ群落の動態変化や種子形状特性に応じて対象種を選定した上で,計画通りの実験を実施した.更に,これらの過程において計画では平成26年度実施予定の「胎生種子の浮遊輸送モデル」の基礎の構築を既に開始できた.また,②の輸送速度に関する実験については,現地での予備実験等を繰り返し,上述の「胎生種子の浮遊輸送モデル」の基礎を構築するに至った.なお,これらの過程で,現地での大規模種子移動実験は流れの不均一性等現地での様々な要因が影響するために,本研究で対象とする「塩分-胎生種子形状-輸送特性-分布」の過程を理解するためには適性が必ずしも高くない可能性があることがわかった.したがって,本研究の目的を達成するために輸送実験については計画を再検討している.③の流れ場の水温塩分濃度モデルについては,潟湖における現地観測から塩分濃度の空間分布は流れ方向よりも水深方向の変化が卓越すること,この塩分濃度実態に応じて胎生種子の浮遊特性が定まる可能性が強いことから,鉛直一次元的なモデルを上述の通り開発した.上述した輸送実験同様に,本研究目的を達成する上で適切なモデルのあり方の一つとして,③についても達成度は十分である. 本研究は新しいアイディアに基づく萌芽的研究の試みであるために,以上のように,それぞれの項目別に仮説立案と修正をしたことにより達成度は様々であるが,最終研究目的の達成に関しては問題なく進行している.
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Strategy for Future Research Activity |
以上の成果および達成度に加え,研究目的を達成するための最適な手法の選定という観点から,今後は以下の方策で研究を実施する予定である. まず,胎生種子の浮遊および輸送現象については,平成25年度の室内実験と現地予備輸送観察から,単なる水塊の移動速度ではなく,波高と浮遊深度との関係に応じて,輸送速度が全く異なることが推定された.一方,現地潟湖での輸送実験は現地における潟湖流動の複雑性等から必ずしも目的達成においては適切でない可能性があると考えている.このため,埼玉大学近傍の湖(荒川第一調節池)において,胎生種子模型を作成し,浮遊深度を変化させ,上記仮説(胎生種子浮遊形態・深度-波高関係モデル)を確認するための現地実験を行う予定である.この実験においては,浮遊物体としての胎生種子のパラメーターとして種子形状,浮遊角度から波による流水営力の作用面積を算定し,かつ波高や波速度を波に関する理論から導出し,上記仮説のモデル化を行う予定である. こうした推進方策によって現在構築した鉛直一次元的なモデルによって潟湖塩分成層や濃度を推測した上で,潟口形状の変化に応じた塩分濃度環境が,胎生種子の浮遊形態に与える影響を通じ,胎生種子輸送速度の塩分環境変化に伴う違いと現地でのマングローブ群落との変化を関係付ける予定である.その上で,過去の人為的塩分環境変化によるマングローブ群落の広域変化の解析と今後の適切な潟湖管理のための潟口開口条件とマングローブ群落との関係評価に繋げる予定である.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
スリランカで実施予定であった現地調査が延期されたこと、種子輸送実験が予備実験に留まった事から、次年度使用額が生じた。 平成26年度は、輸送実験の実施および関連する学会発表等により使用する予定である。
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Research Products
(2 results)