2013 Fiscal Year Research-status Report
地球温暖化精密予測に向けた高分解能X線顕微鏡によるエアロゾル中の吸湿性化学種同定
Project/Area Number |
25550013
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
高橋 嘉夫 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (10304396)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
仁谷 浩明 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 助教 (20554603)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | STXM / エアロゾル / カルシウム / ナトリウム |
Research Abstract |
走査型透過X線顕微鏡(Scanning Transmission X-ray Microscopy: STXM)は、主に軟X線領域において、フレネルゾーンプレートで集光した50 nm程度のサイズのX線を用い、透過配置で試料を走査あるいはエネルギーをスキャンして、元素あるいは化学種の分布や吸収スペクトルを測定する手法で、高分子化学、磁性材料、環境科学、微生物学、地球惑星科学などの広い応用範囲を持つ。我々は、独自の設計により市販品よりも大幅に小型で設置・運搬が可能な装置を開発し、複数のビームラインでの利用を開始し、その性能テストを行うと共に、エアロゾルに対する様々な応用研究を進めた。これまでに得られた成果の概要を示す。 ・主にPhoton FactoryのBL-13Aを使用し、ビーム径50 nm程度を実現し、透過配置で元素マッピング像を得た。試料雰囲気は、真空以外に、ヘリウム0.1 気圧の条件でも測定可能であることを確かめた。 ・炭素K吸収端の測定による炭素の官能基別マッピングが測定可能であることを示した。これは特に炭素のバックグランドが低いBL-13Aで可能なこと(他のビームラインでは測定困難)であることが分かった。 ・エアロゾル中のナトリウムK端を対象にしたSTXM測定により、大気中でナトリウムが受ける化学反応の解明を行った。その結果、ナトリウムの局所スペシエーションがSTXMにより可能であることが分かった。 ・エアロゾル中のカルシウムが大気中で受ける化学反応の解明を行った。その結果、炭酸カルシウムを含む粒子中に石膏や硝酸カルシウムが生成していることが分かった。これは、黄砂が長距離輸送される途上での大気中での化学反応を反映していることが推定された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
走査型透過X線顕微鏡(Scanning Transmission X-ray Microscopy: STXM)が当初計画通り立ち上がったことは特筆すべき成果である(Takeichi et al., 2013)。また、炭素の汚染に注意深く対応しているPhoton FactoryのBL-13Aにおいては、STXMを用いた炭素K端の官能基マッピングが可能であることが分かり、エアロゾル試料中の炭素のキャラクタリゼーションに今後広く応用していく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、STXMを用いたエアロゾルの個別粒子の局所スペシエーションにより、エアロゾル化学の以下の点が明らかになると期待される。 - 炭酸カルシウムの大気中での中和過程のうち、硝酸カルシウムは粒子表面に広く存在しているのに対して、硫酸カルシウムは粒子表面近傍での生成に留まっている。これは黄砂時に、粒径が大きな成分で硝酸イオンの濃縮がみられることと関連する。 - 炭素や窒素のSTXM測定、特に官能基マッピングを行うことで、前項の硝酸塩や硫酸塩の分布が分かる可能性がある。特に窒素については、上記の硝酸カルシウムの分布と整合するかを調べる。 - 炭素K端の官能基マッピングにより、幅広い粒径の範囲で、元素上炭素、カルボン酸、ベンゼン環、脂肪族炭素、などの局所分布を明らかにすることができる。これらの化学種の粒径依存性はまだ分かっておらず、本研究は有機エアロゾルの生成過程の解明に貢献すると期待される。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
この予算は分担者である仁谷氏(Photon Factory)が平成25年度分を使い切らなかったために発生しています。その理由は、本研究と関係しているビームラインBL15の立ち上げが、業者のミスのために送れている影響で、予定した機器の購入をしなかったためです。 平成26年度にBL15は立ち上がる見込みであり、当初予定していた計測機器のケーブル類の購入に充てる計画です。
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Research Products
(77 results)