2013 Fiscal Year Research-status Report
濃縮・還元機能を備えた刺激応答性ポリマーによる貴金属イオンの高選択的分離法の開発
Project/Area Number |
25550073
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
馬場 由成 宮崎大学, 工学部, 教授 (20039291)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大榮 薫 宮崎大学, 工学部, 助教 (00315350)
岩熊 美奈子 都城工業高等専門学校, 物質化学系, 准教授 (00342593)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 貴金属ナノ粒子 / 濃縮・還元機能 / 刺激応答性ポリマー / pH応答性キトサン誘導体 / 廃電子機器 / 貴金属回収技術 / 次世代分離技術 / 省エネ・環境保全 |
Research Abstract |
本研究の目的は、廃電子機器やメッキ廃液中の貴金属に関する新しい次世代型の分離・回収システムを考案し、国家的弱点を克服する革新的リサイクル技術を創出することにある。本研究では分離メディアとして刺激応答性ポリマー(pH or 温度)に焦点を絞り、そこに新しい「濃縮・還元機能」をハイブリッド化することによって、今までにない反応分離場を創出し、省エネで環境に配慮した高効率・高選択的な貴金属資源のリサイクルシステムを構築する。 初年度はpH応答性ポリマーとして水溶性のグリシン型のキトサン誘導体(GAC)を新たに合成した。金ナノ粒子の生成は①金イオンを含む溶液にGACを溶解させ、そこに熱を加えることによって約2時間で直径5-20 nmの金ナノ粒子を得た。このときの最適温度は60℃であった。この方法では金が還元される過程でGACの一部が酸化され、GACの水溶性が減少し、pHが低い領域では固体として沈殿した。次いで②GACと金イオンの混合溶液に30℃で還元剤であるクエン酸、アスコルビン酸、水素化ホウ素ナトリウムを加えた。クエン酸の場合は30℃では金は還元されなかった。これはGACと金イオンの相互作用が強く、クエン酸による金イオンの還元反応が進まなかったと考えられる。反応温度を70℃に上昇させると約7時間後より金ナノ粒子が確認され、48時間後には室温で赤から青紫(30 nm)へと色が変化した。アスコルビン酸の場合もほぼ同様な結果であった。水素化ホウ素ナトリウムでは瞬間的に金が還元され、金の濃度と共にGAC溶液中で金ナノ粒子が大きく成長した(50 nm)。またクエン酸はアスコルビン酸よりも強い酸であり、低pH領域で反応活性の高いAuCl4-イオンが大半を占め、核成長より核生成が優先して進み、より小さいナノ粒子が生成し、回収率の増加につながったと考えられる。このような結果は、今後の貴金属の革新的なリサイクル技術の発展につながる結果が得られたものと判断している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では、貴金属が還元されやすいことを積極的に利用して、「水中に溶存している金属イオン」を「固体のナノ粒子」として、しかも貴金属のみを高選択的に取り出すことはできれば、省エネで環境保全型の貴金属の実用的な回収技術として期待される。 本研究では「濃縮・還元機能」をもつ刺激応答型のポリマーを創出し、「水溶液中に溶解している貴金属イオンをナノ粒子」として分離・回収する革新的技術の創出を目的に検討した。さらに本技術を廃棄電子機器・メッキ廃液に応用し、貴金属の分離・回収システムの実用化を目指す。 初年度は「研究実績の概要」で述べているように、pH応答性のグリシン型の水溶性キトサン誘導体を新規に合成し、このポリマーによるナノ粒子の形成反応について詳細に検討した。その結果、金のナノ粒子の生成は金イオンとポリマー濃度、pHおよび酸の種類によって大きく影響され、特にpH応答性のポリマーを使用すれば水溶液中のpHを操作するだけでナノ粒子の生成速度、生成効率および粒径を制御できることが明らかとなった。このことは、従来法である水中の「金属イオン」を静電相互作用・キレート形成などを利用して“イオン”を“イオン”として分離・回収する方法ではなく、「水中に溶存している金属イオン」を「固体の金属ナノ粒子」として、しかも貴金属だけを高選択的に取り出すことができることを意味している。本研究で提案している貴金属イオンの分離・回収する方法は、省エネで環境保全型の貴金属の実用的な回収技術として期待される。以上のような結果が得られたことは、循環型社会の構築を目指す我が国にとって「大きな第一歩」となったと判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
溶液中から金ナノ粒子を生成するための刺激応答性ポリマーとして偶然にも塩基性天然多糖類ポリマー「キトサン」が「よい安定剤であり、還元作用を示す」ことを見出した。しかもワンステップでカルボン酸やリン酸を導入でき、pH応答性を示すキトサン誘導体が創出できることを見出した。そこで初年度は「水溶性のグリシン型キトサン誘導体」を合成し、金イオンとの共存により(金イオン)→(核生成)→(核成長)→(金ナノ粒子生成)→(分離・回収)のプロセスをpHを操作するだけで、水溶液から「単一分散した金ナノ粒子」として回収することに成功した。これは水溶性のグリシン型キトサンポリマー上で金イオンが濃縮・還元され、さらにpH応答性によるポリマーの相分離現象(液体⇔固体」)を利用したものである。今後もキトサンをベースにした「pH応答性水溶性キトサン誘導体」を創出し、金イオンだけではなく他の貴金属やレアメタルについても応用・展開する予定である。 1.濃縮・還元機能を有するpH応答性キトサンの分子設計・合成および貴金属の回収 昨年度に引き続き、pH応答性ポリマーとして新たなキトサン誘導体を創出し、金属イオンとして金、パラジウム、白金を対象に、これらのナノ粒子の生成に大きく影響する「溶解した酸の種類やpH」の影響を調べ、貴金属の回収技術の開発を目指す。さらにキトサンに「クエン酸」、「アスコルビン酸」、あるいは「チオール基」の官能基を導入し、これらの水溶性ポリマー上での濃縮・還元機能、およびポリマーの溶解性に関するpHおよび温度依存性を明らかにし、pH応答性キトサン誘導体の分子設計の最適化を行う。 2.濃縮・還元機能を有する熱応答性ポリマーの分子設計・合成および貴金属の回収 熱応答性モノマーと濃縮・還元機能を有する「チオール基」をもつモノマーとの共重合体を創出し、熱刺激によるナノ粒子生成条件を詳細に検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初の計画では、初年度は感温性を示す高価なN-イソプロピルアクリルアミドモノマーと濃縮・還元機能を有するチオールモノマーとの共重合体を合成する予定であったが、この熱応答性ポリマーを検討している際に、偶然にも海老や蟹の殻から得られる「キトサン」を原料としたキトサン誘導体が金ナノ粒子を生成する際の「良好な安定剤であり、濃縮・還元作用」を示すことを見出した。しかも溶液中で容易に操作できるpH応答性のキトサン誘導体はワンステップで容易に合成でき、初年度はグリシン型のキトサン誘導体による金イオンのナノ粒子化を重点的に検討した。キトサンは生体起源ということもあり、生体高分子の特長である「規則正しく配列された大量のアミノ基、水酸基および末端のアルデヒド基」の総合的な機能性によって、単一分散金ナノ粒子をpHを制御するだけで容易に生成できることを明らかにした。そのため、次年度以降に本予算を使用する予定である。 初年度の検討は高価な感温性モノマーの共重合体を合成し、溶液の温度を制御してナノ粒子を生成するよりも安価で省エネであり、しかも環境にも優しい分離方法として期待される。感温性モノマーや精密な合成装置を必要としなかったことから、当初の予定額よりも安価に収めることができた。今年度は感温性ポリマーについても検討する予定であり、そこで精密合成装置とモノマーの費用(合計60万程度)として使用する予定である。
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