2014 Fiscal Year Research-status Report
カキ殻バイオフィルム利用によるリン回収型浄化処理システムの開発
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25550095
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Research Institution | Prefectural University of Hiroshima |
Principal Investigator |
増山 悦子 県立広島大学, 人間文化学部, 講師 (10084162)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | リン回収 / バイオフィルム / 排水浄化処理 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,畜産排水に含まれる高濃度のリン回収を主目的とした,バイオフィルム形成カキ殻砕片を濾材にした排水浄化処理システムを構築することである。小規模畜産農家において低コストで設置できる排水処理法を考案するだけでなく,問題となっている臭気,色度の低減を図っていく計画である。下記に,本年度実施した研究項目を示す。 昨年度に引き続き,畜産現場において効果的にカキ殻担体を排水溝へ設置する場所および方法を,水質検査に基づき検討した。三種類のカキ殻バイオフィルム菌は,混合するよりも,し尿排水の浄化処理段階に応じて,三種のバイオフィルム菌の特性を生かして設置するほうが,より効果的な浄化を実施できることが判明した。し尿排水は,全殻のカキ殻を濾材にして濾過させたのち,曝気条件下で粉砕カキ殻担体に活性汚泥用種菌(BP菌)のバイオフィルムを入れた槽で浄化し,次に湖沼用浄化菌(FM菌)のカキ殻バイオフィルム槽で浄化ならびにリン酸の吸着を行い,最後にポリリン酸分解菌を添加したカキ殻バイオフィルム槽の浄化処理過程で,無機リン酸態として回収可能であることを明らかにした。最終年度は浄化処理効率だけではなく,高濃度のリン回収ができるように,濃縮法や回収法の改良を試みる計画である。気温上昇に伴い発生する臭気は,二段階目の活性汚泥用種菌に悪臭防止菌を加えバイオフィルム形成することで,ある程度抑えられることが判明した。昨年度,カキ殻バイオフィルム菌の解析に確立したPCR-DGGE(微生物群集解析システム)法を用い,し尿浄化段階で繁殖するカキ殻バイオフィルム菌の16S rRNA遺伝子のバンドを分離し精製を行った。 さらに,バイオフィルム菌から分泌される酵素の生化学的解析の結果,プロテアーゼ活性値とアルカリフォスファターゼ活性値は浄化能とほぼ相関関係にあり,浄化指標として最適であることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
畜産農家の現場において,小規模であるが段階的に浄化することによって,効率の良い浄化処理システムを構築できることを今年度明らかにした。すなわち,最初の浄化槽に全カキ殻を濾材として使用することにより,過剰の有機物を吸着除去でき,常に安定した排水を次のカキ殻バイオフィルムを入れた浄化槽へ送ることができる。また,このカキ殻は土壌改良剤としてリユース可能である。次浄化槽には粉砕したカキ殻に活性汚泥種菌(BP菌)の成熟バイオフィルムを形成させたものを設置し,曝気条件の下でCOD値が優位に減少するという有機物浄化処理能に優れていた。バイオフィルム層のみは嫌気性環境にあるので,窒素化合物の脱窒が期待できる。この浄化槽ではカキ殻バイオフィルムは長期間効果を発揮できるため,交換する手間が省け維持コスト削減できると思われる。次に排水を送る浄化槽には,活性汚泥種菌にポリリン酸分解菌を添加させた粉砕カキ殻バイオフィルムを設置している。バイオフィルム内に取り込んだリンを無機リン酸態として取り出す方法について,実験室へ持ち帰って検討している。外分泌の収量が少ないため,増量条件や濃縮方法,菌破壊後に吸着カラムによるリン回収方法についての検討を行い,効率の良い方法を最終年度で提言できる予定である。浄化処理システム構築後に改めてPCR-DGGEによる微生物解析を行い,微生物同定委託するまでの精製段階まで進めることができ,各浄化槽での微生物群集の解析の見通しがついている。 成熟バイオフィルム形成の伴う高次機能発現の解析は,分泌タンパク質のうちの代謝酵素(プロテアーゼ,アルカリフォスファタ-ゼ)のザイモグラフィ-の解析を行っている。それらの酵素活性と有機物浄化能,リン蓄積量との関係についても新たな知見を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
畜産農家の排水施設現場の排水路において,濾材用と浄化用に,カキ殻の大きさやバイオフィルム菌種の特性を活かした選別をすることにより,低コストで効果的な排水浄化処理システムが立案できており,昨年度は小規模での運用を確かめている。今年度は,効率の良いリン回収が行えるように実験室レベルで検討を続けていき,最終的には現場において,リン回収可能な排水浄化処理システムの実用化にむけた検証を行う計画である。 最終的に,排水施設において環境への安全性の検討を6項目(急性毒性試験,病原性試験,ヒメダカによる急性毒性試験,ミジンコによる急性遊泳阻害試験,生分解性試験,大腸菌検出試験)と臭気計測,色調測定を行う。それらの安全性試験に加えて,水質検査結果から有機物分解能,リン取込能,窒素除去率を明らかにし,さらに菌種同定結果などに基づいて,菌種の動態を明らかにする計画である。平成26年度末にはPCR-DGGE解析のDNAバンドを精製しているので,微生物種同定を委託する予定である。以上の総合考察から,家畜排水浄化システムの有用性を評価していき,小規模畜産農家が簡単に設置できる安全でかつ低コスト,資源循環型のリン回収可能な排水浄化処理システムとして公表する予定である。 さらに,成熟バイオフィルムの形成に伴う高次機能の獲得を,分泌代謝酵素(プロテアーゼ,アルカリフォスファターゼ)の機能解析から実証しているので,最終年度は分泌多糖類の分析を加えて,これらの成果を学術論文,学会発表で公表する予定である。
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Causes of Carryover |
平成26年度に微生物同定委託を計画していたが,浄化処理システム構築やPCR-DGGEゲルバンドの精製に手間取り,年度末で委託業者の選択に時間がとれなかったため,委託のための経費を次年度使用額に回さざるを得なかった。次年度では速やかに委託業者の選択を行い,研究を推進していく予定である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記の微生物同定を委託するための経費,ならびに公表に伴う経費の不足分を補う計画である。
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