2013 Fiscal Year Research-status Report
開発政策・事業が生む環境リスクの政治経済学的研究:資源の動員と利益配分の構造から
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25550107
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
安部 竜一郎 立教大学, 経済学部, 特任准教授 (10412412)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
郭 洋春 立教大学, 経済学部, 教授 (00233669)
森元 晶文 立教大学, 経済学部, 助教 (10559834)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 環境リスク / 持続可能な開発 / 世界システム / リスク社会 / 従属的近代化 / 開発政策 / 原子力開発 / エントロピー |
Research Abstract |
本年度は、開発の環境リスクに関する理論研究を中心とし、現地調査に関しては次年度以降本格的に実施するための適切な事例を選択し調査計画を練るためのプレリミナリィ・リサーチを行った。 理論研究においては、主として、安部が環境物理学およびシステム論の視点から開発の環境リスクに関する質的定義を行うと同時に、ベックのリスク社会論における近代化概念と開発経済学における近代化概念との比較研究を行った。郭は、世界資本主義の政治経済学及び従属理論の視点から①社会的公正、②コモンズ、③成熟社会、④マルクス経済学から見た危機の構図として環境リスクを定義した。また、森元は、フィリピンにおける天然資源開発の動員と利益配分のメカニズムに注目し、同国の鉱業開発の歴史構造の解析に関する先行研究の読み込みを行なった。 事例研究においては、主として、安部がインドネシアおよび日本の事例を、森元がフィリピンの事例を選択してプレリミナリィ・リサーチを行った。安部は、インドネシアの中カリマンタン州における大規模農園開発とバンカ・ブリトゥン州での原子力開発について現地を訪問し、関係者からの聞き取りおよび公表されている文献の収集を行った。また、日本では、福島県と福井県を訪問し、日本の原子力開発の政治経済的リスクに関する聞き取り調査を行った。森元は、フィリピン東ネグロス州を訪問し、同州の鉱業開発に関する現地調査と環境天然資源省への聞き取りを行うとともに、先行研究文献と基礎的データの収集を行った。 各人の研究は2013年4月、同年7月、同年11月、2014年1月の計4回開かれた研究会における討論を経て共有され、その成果は文眞堂より「開発リスクの政治経済学」として公刊された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究目標は、理論面においては開発の環境リスクに関する主要概念の定義と本研究の視座の確定と事例研究の対象となる途上国における従属的近代化の政治経済的プロセスの研究であり、事例研究においては、対象事例の確定とプレリミナリィ・リサーチの実施であった。 理論研究ついては、従属的近代化論の検討の部分で課題を抽出することができたことに加え、安部が環境リスクの質的な定義について、郭がTPP問題について論文を発表するなど研究が進んでおり、概ね達成できたと評価できる。事例研究についても、安部と森元が、それぞれ日本、インドネシア、フィリピンでプレリミナリィ・リサーチを実施し、インドネシアの原子力開発の事例を除いてほぼ調査対象を固めることができた。2014年度での事例研究の対象及び方法が明確となったという点で、概ね順調に進展していると評価できる。 また、当初の研究計画の通り、夏休みおよび春休み期間中を除いて2カ月ごと計4回の研究会を開催して各人の理論・事例研究の検討を行うことができた。こちらも計画通りであった。
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Strategy for Future Research Activity |
2014年度も理論研究と事例研究の両側面から進める計画である。 理論研究においては、安部と森元が、事例研究から開発に動員される資源(資本、天然資源、専門知識、ノウハウ、労働力、コミュニケーション、ネットワーク資源等)を特定し、動員を支える諸制度(政策、法、慣習、宗教等)を抽出する。同時に、開発の利益配分の実態とその分布を明らかにすると同時に、そこから開発の軌道力となる資源動員と利益配分のメカニズムをモデル化する。また、郭は、従属的近代化論をインドネシア、フィリピンの具体的な近代化プロセスに適用し、その妥当性について検討を行う。さらに、世界システムの外部性として途上国の環境を位置づけ、両者の相互作用について研究する。 事例研究については、安部がインドネシアと日本、森元がフィリピンの開発事例において開発に批判的な言説(専門家、反対派住民等)を収集し、開発主体(政府・企業等)の主張と比較対置して問題の抽出を行うと同時に環境リスクが不可視化されるプロセスを把握する。具体的には、インドネシアにおける大規模農園開発や原子力開発および日本の原子力開発について、現地の住民や反対運動を対象に聞き取り調査を進める。フィリピンでは、鉱業開発における中央政府と地方政府との対抗関係に注目し、1991年の地方自治法改正による地方分権化が地方政府への財源の確保を促すようになったことが開発資源の動員と利益配分のメカニズムにどのような影響を与えたのかを行政当局や住民への聞き取りを実施して明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度の予算消費に関しては、次年度以降の現地調査予算が嵩むことと申請額からの減額分を確保するため、極力節約して次年度以降に予算を持ち越す方針で研究を進めた。 第1の理由は、安部および森元の2013年8・9月の海外調査(安部はインドネシア、森元はフィリピン)と安部の国内原発現地調査の予算計約70万円について、安部および森元の個人研究費で賄うことができ、今年度の支出を見送ったためである。第2の理由は、2014年3月の安部および森元の海外調査(安部はインドネシア、森元はフィリピン)の経費計約40万円が事務手続き上、次年度予算による精算に回されることとなったためである。第3の理由は、今年度物品費予算から約28万円で購入予定であった現地調査用パソコンについては、安部が現在使用している旧型のパソコンで代用できたため、今年度の購入支出を見送ったためである。 今年度予算の次年度繰り越し分約115万円のうち約45万円は、実際には2013年3月に安部および森元の現地調査のための旅費としてすでに支出済みである。 実際に次年度使用されるのは約70万円となる。そのうち、物品費として約28万円は本年度購入予定であった現地調査用パソコンの購入に充てられる。また、安部が次年度に現地調査において実施するアンケート調査の人件費・謝金として約30万円が使用される予定である。残額約12万円のうち、2万円は安部が日本国内で行う原発現地調査の旅費として使用され、10万円は森元がフィリピンのネグロス島およびミンダナオで行う現地調査の旅費として使用される予定である。
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Research Products
(5 results)