2014 Fiscal Year Annual Research Report
虚無僧尺八の音響学的・社会学的デザインに関する研究
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25560008
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
吉川 茂 九州大学, 芸術工学研究科(研究院), 教授 (80301828)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
志村 哲 大阪芸術大学, 芸術学部, 教授 (60226264)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 虚無僧 / 虚無僧寺 / 地無し尺八 / ピリオド楽器 / 竹の節 / 一音成仏 / 尺八楽の分裂と拡散 / 禅と音楽 |
Outline of Annual Research Achievements |
明治期の名人である俣野真龍が製管した有名な「露堂々」(2尺管)の CT画像から内径形状を求め、数値計算を行った結果を演奏音の分析結果などと比較して以下のような考察を得た。 (1)露堂々が示す極めて顕著な特性は低音域の運指(全閉のロ」、第1, 2孔開の「レ」、第1, 2, 3 孔開の「チ」)では高次モード周波数比が 2, 3, 4, …. よりも小さいのに対して高音域の運指(第 3, 4孔開の「ハ」、第 3, 4, 5孔開の「イ」)ではこの比が 2, 3, 4 よりも大きいことである。(2)このような特性は低音域ではやや暗く、落ち着いた音色とやや低めの甲音が出やすい傾向を生むのに対して、高音域ではやや明るく、華やかな音色とやや高めの甲音を生む傾向がある。(3) 4度、5度、オクターブの音程に注目し、指孔位置を比較すると、第 2, 3孔は高めに、第 5孔は低めに、第 4孔は妥当な位置に開けられていることが分かる。また、調律においてオクターブ・バランスは重視されていない。(4) 露堂々のように節を残した地無し尺八がもたらす「多彩な響きと音色」の主因は第3孔以下と第4孔以上での管内形状の相違および第2節(第4孔の少し上)の残し方にあると考えられる。 一方、今日の社会では「吹禅」「一音成仏」等、禅/仏教に倣った精神を拠りどころとして寺院での献奏を常とする集団は増加し、海外へも伝播している。江戸から明治にかけて製作された名器を用いた実践の場での反応より、音色への関与性が高いことが示唆された。古典本曲や地歌箏曲のように楽器構造に適した典型的フレーズから構成される楽曲においては、古管尺八の特徴が優位であった。例えば「チ」が平均律尺八より高めな利点は最低限のメリカリで上下への滑らかな音高変化/運指が可能となり、かつその際の音質は劣化するどころか、多彩な響きと音色を現出することである。
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