2013 Fiscal Year Research-status Report
幼児用簡易プールを例とした生活環境メタゲノミクスへの挑戦
Project/Area Number |
25560031
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Hakodate Junior College |
Principal Investigator |
澤辺 桃子 函館短期大学, その他部局等, 准教授 (10531121)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 保育所 / メタゲノミクス / 簡易プール / 集団感染 / リスク評価 |
Research Abstract |
本研究では,保育所等の簡易用ミニプールで頻発している病原大腸菌による集団感染に対し,塩素等の薬液処理に頼らない水質管理にてプール水の安全を保つ方法を検討している。平成25年度は,簡易ミニプール水の衛生リスクアセスメントおよび37℃で一晩静置した水試料のメタゲノム解析を行った。衛生リスクアセスメントではハザードの特定およびハザードが引き起こすリスクを見積もり,重篤度,可能性,頻度の評価点数を加算して,4段階の暫定リスクレベルを設定した。これを基に簡易ミニプールでの水遊びが行われた各日の衛生リスク評価を行い,レベルII(多少問題がある)もしくはレベルIII(重大な問題がある)と判定した。メタゲノム解析では,37℃で一晩培養した水試料100mLをフィルターろ過して集菌し,細菌ゲノムを抽出した後,メタゲノム解析を行った。5種類の試料をそれぞれ細菌の各系統群(門)に分類したところ,プロテオバクテリア門が最も多く(68~93%),次いでデイノコッカス・サーマス門(3~21%)もしくはファーミキューテス門(3~11%),続いてバクテロイデス門(0.2~8%),アクチノバクテリア門(0.3~0.9%)となり,これ以外の系統群はほとんどみられなかった。プロテオバクテリア門では,土壌由来で様々な化合物を分解できる能力をもつ細菌が含まれる系統のβプロテオバクテリアと腸内細菌科や多くの病原微生物を含む系統のγプロテオバクテリアを合わせた割合が81~98%と多かった。デイノコッカス・サーマス門に分類される細菌は,土壌等に含まれる放射線に対して耐性を有する細菌であり,その他はヒトの皮膚で高頻度にみられる系統群であることから,使用者の体表および土壌から多くの細菌が入り込んだことを示している。これらの結果から簡易プールという生活環境における細菌叢を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究計画の衛生リスクアセスメントでは,水遊び後の簡易ミニプールの水を採取し,種々の項目の測定を行うことでハザードを特定する予定であった。しかし,簡易ミニプールは,水道水を使用するため,過マンガン酸カリウム消費量の変化を捉えることは不可能であった。そのため,全有機炭素(TOC)測定に変更し,一般細菌数,大腸菌群数,大腸菌数,気温および使用人数と合わせて記録した。水道水TOCは,0.3 mg/Lであり,水質基準値は,3 mg/Lである。水遊び後は,TOCが,2.2~6.1 mg/Lとなり,すべての採水日で上昇したが,使用人数とTOC値の間に相関関係は見られなかった。また,その他の検査項目おいても,それぞれの数値間で相関関係を示す結果は得られず,測定した項目の中から,ハザードおよびリスク評価の確実な指標を選抜することはできなかった。これは,環境条件に関わらず使用者がいることで衛生リスクが生じ,使用人数の多少に関わらず,2人以上が使用することでヒト-ヒト感染のリスクが生じることを示唆している。そこで,「遊泳用プールの衛生基準」の中で,定められている(1) 大腸菌は検出されないこと,および(2) 一般細菌は200 CFU/mL以下であること,の2項目をハザードの指標とし,ハザードが引き起こすリスクを見積もり(リスク分析),リスクが許容可能であるかどうかを評価する(リスク評価),一連の流れにて衛生リスクアセスメントを行い,暫定リスクレベルを設定することで,当初計画を達成した。メタゲノム解析では,使用後の簡易プール水試料500mL程度では細菌ゲノムを抽出するには不十分であったため,37℃で一晩静置した水試料のみのメタゲノム解析を行った。平成26年度には5~10Lをろ過し,細菌ゲノム抽出を行うシステムを構築する予定である。以上より,本研究はおおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年7月頃までに、設定した暫定リスクレベルをより多くの簡易ミニプールにて検証するために,評価基準内容と衛生対策を協力施設に説明する。7~8月の簡易ミニプールによる水遊びが実施された日に、昨年度と同じ要領で採水をお願いし,各種検査項目も同様に検査する。一般細菌数および大腸菌・大腸菌群数については,暫定基準とその衛生対策により適切な数値を維持できているのか,現場での対応は煩雑になっていないかなどの検証を進め,リスクの評価基準とリスクの優先度を確定させる。 メタゲノム解析については,使用後の水試料5~10Lをろ過し,細菌ゲノム抽出を行うシステムを構築する予定である。具体的には、加圧ろ過容器を準備し、高圧窒素ガスにて短時間でフィルターろ過した後、フィルターから細菌ゲノムDNAを抽出する。抽出したDNAを鋳型に16s rRNA遺伝子のユニバーサルプライマーを用いたPCRを行い、十分な増幅産物が得られた試料をメタゲノム解析の試料とする。メタゲノム解析は、平成25年度と同様に次世代シーケンサーを用いた配列解析を依頼して行う。作業委託から得られた配列情報を解析し,細菌叢の変化,使用者の年齢による差異などを明らかにする。細菌学的リスクアセスメントおよびメタゲノム解析の結果を論文として取りまとめるとともに,わかりやすい資料の作成と説明等により,簡易プールの管理者および保護者への啓蒙活動を行う。さらに,リスク優先度などの情報をインターネット上に公開し,簡易プール使用者に広く役立てていただけるように工夫する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究成果を発表するための旅費を確保していたが、日程を調整することができず、物品(研究試薬)の購入費に変更した。しかし、各社メーカーの年度末のキャンペーン等より、当初予定よりも安価で購入できたため、次年度使用額が生じた。 次年度助成金額と合わせて、物品(研究試薬)の購入費とする予定である。主に、核酸抽出・精製試薬を購入する予定である。
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