2013 Fiscal Year Research-status Report
日本におけるムラージュの系譜 近代皮膚科を支えた技師たち
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25560124
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
石原 あえか 東京大学, 総合文化研究科, 准教授 (80317289)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大西 成明 東京造形大学, 造形学部, 教授 (10585996)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 医学史 / 皮膚科学 / ムラージュ(蝋製標本) / 寄生虫 / 国際情報交換 / ドイツ / 写真撮影 |
Research Abstract |
初年度は近代皮膚科の教材として不可欠だった「ムラージュ」の日本における受容史と現状を調査し、あわせて画像データでの記録も計画的に行った。国立では北海道大学・九州大学・東京大学、私立では慶應義塾大学の医学部皮膚科教室のご協力を得るとともに、同様に資料管理を行っている北海道大学総合博物館・名古屋大学総合博物館などからもご理解・ご協力を得て、順調かつ予想以上に効率的に調査を進めることができた。名大博物館ではちょうどムラージュに関する企画展も開催されており、非常に有益であった。あわせて慶大医学部に縁が深い北里柴三郎記念室および寄生虫系の皮膚疾患の関係で、目黒寄生虫館からも多くの資料・情報をご提供いただき、順調にデータ整理・まとめの段階に入りつつある。 実際にムラージュを所蔵・保管している各大学・研究施設管理責任者および学芸員の方々と直接お話しすることにより、これまでの文献になかった人間関係やムラージュ製作者の経歴・人物背景なども明らかになってきた。と同時にやはり同じ疾患でも、製作者の個性や技術の発展により、標本の印象や出来栄えが異なることも、特にファインダーを通して様々な角度から観て、記録することにより、確認することができた。 また長期休暇を利用して、石原はデュッセルドルフおよびドレスデンでのプレ調査を行い、明治期の皮膚科・衛生学を中心とした日独医学交流について、ドイツ側の一次文献を確認するとともに、ドレスデン衛生博物館では担当者と本研究課題について詳細な打ち合わせを行った。 なお、上記ムラージュ関連の研究中間報告的内容を含むものとして、石原が紀要等に2本の日本語論文を発表、また口頭では東工大・東大で計2回発表を行うとともに、大西が秋に九州大学文学部で行った写真レクチャー講義の中で同様に本プロジェクトの中間成果について簡単に言及した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
文献資料調査および撮影という点では、「当初の計画以上に進展している」と言える部分の方が多いかもしれない。特に調査させていただいた研究機関では、部局を超えた連携協力や他の該当研究機関や研究者の紹介・仲介など、多くの便宜を図っていただいた。 しかし他方で、管理責任者のお名前を頂きながらも結局連絡がつかなかったり、本研究課題の趣旨を説明しても、当方が医療関係者・従事者でないことが障壁となり、賛同を得られず、歴史的ムラージュの調査・撮影に許可が下りなかった公的機関や大学が幾つかあった。ただし人権保護・倫理的観点や機関利用ルールから、そのような事態が起きることも当初から予想されており、研究趣旨を詳しくご説明してもどうしても先方の規定に反する、あるいは同意が得られない場合は、調査・撮影を断念した。 と同時にそうした交渉・説明の過程で、すでに入手・撮影した資料の扱いについてもさらなる検討と注意が必要と感じられ、毎回入念な検討を行ってはいるものの、まとめの段階に入る二年目は特に倫理に配慮した研究公表ルールを、医学者等専門家を含めて広く慎重に議論することが重要と思われる。その意味で本課題の難しさを感じている。
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Strategy for Future Research Activity |
2014年度前半は、前年度に石原がプレ調査を行った金沢大学医学部および同学資料館でのムラージュに関する本調査および本撮影の作業を行う。 また夏季休暇には同様に昨年中にプレ調査を行ったドレスデン・ドイツ衛生博物館で石原が1か月余の研究滞在を予定、同附属図書館所蔵史料を含めた本格的な資料調査を行う予定である(先方館長・責任者の許可済み)。この機会を活かし、当初の計画になかったが、大西もドイツ・ドレスデン衛生博物館に1週間弱の短期出張で合流し、石原が先行してピックアップしておいた資料を撮影・画像データとしても記録する予定である。 なお2014年度は2年計画で進めている本研究のまとめの年にあたり、研究成果公表方法を慎重かつ十分に練った上で、後半には執筆に着手するとともに、利用する画像資料等の具体的検討に入る。資料や画像データの使用については、専門家の意見も聞きながら、慎重に検討・議論を進める。研究成果については、具体的には書籍としてまとめ、公表することを計画している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初、写真撮影すなわち画像データ保存は日本国内に限る予定で、大西の海外渡航費については全く計画していなかった。しかし研究開始から半年ほど過ぎたあたりから、やはり日本に現存するムラージュと縁の深いドイツ、特にドレスデン衛生博物館の所蔵資料やまた同館で進行中の歴史的ムラージュ保存プロジェクトについても画像記録が必要ではないかという話が出てきたため、初年度の旅費をはじめとする諸研究経費をできる限り切りつめて、次年度に持ち越すことで、大西も短期間の海外調査同行を可能にするための経費を捻出した。 日本国内の主要ムラージュ所蔵機関については、当初の予定リストでは、あと金沢大学医学部を残すのみとなっている。こちら石原が前年度にプレ調査・打ち合わせ済みなので、2014年度前半に、同大学資料館を含めて、本調査・本撮影を行う準備を進めている。 同時に夏期休暇を利用して、石原は比較的長期間の研究調査をドレスデン・ドイツ衛生博物館を拠点として行う計画である(館長・責任者の了解済み)。またこれにあわせて大西が1週間弱の予定で同館における資料撮影を行うべく、ドイツ渡航費を科研費に計上する予定である。2014年度は概ねこの国内出張1回と海外出張1回の旅費での使用となる。
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Research Products
(5 results)