2013 Fiscal Year Research-status Report
成熟社会の政策形成へむけた確定的社会構造の制御手法の研究
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25560151
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | National Graduate Institute for Policy Studies |
Principal Investigator |
藤正 巖 政策研究大学院大学, 政策研究科, 名誉教授 (30010028)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 確定制御 / 政策科学 / 社会構造学 / 社会変動 / 4次元空間 / 経済政策 / バックワードキャスト / クラウドワークショップ |
Research Abstract |
本年度はまず、社会構造で確定的システムとして取扱う部分を、過去の統計と将来の社会構造推計から探索した。経済政策の分野で確定論から政策立案を試みた例は存在しないため、まずその理論的背景を構築することから始めた。社会構造と機能の変動が、確率的ではなく確定的である部分がどこにあるかを検討し、先進諸国の大多数を占める25歳以上の人たちの未来はほぼ確定的であることを、八王子市町部を事例として確認した。確定的制御論により設定された未来の社会構造及び経済機能と、現在未確定と考えられる社会経済状態の未来をこの市で比較し、その間に存在する構造と機能の変動を制御する政策を採り上げた。さらに、過去の社会構造分析の結果から、それがどれだけ時間の次元と関与しているかを、現在の社会構造と機能の比較により分析した。 ついで、時間の次元を持つ政策により、経済システムの確定的制御が可能な部分を探索した。その結果次のような研究課題が出現すると思われた。経済学は時間の軛から逃れることは出来ないが、社会の中では、政策の導入により、目標とする各種の社会変量や経済変量を達成する時間を変えることができる。将来の社会を運営する方法論としては、政策により時間次元の制御を行うのが一つの目標となる。人の生存の3次元空間に、時間の1次元を加えた4次元空間で成り立つ社会経済政策の理論をこの立場で構築することとした。 具体的な研究の方法論としては、確定的に一定時間後にある条件下の社会構造の未来像をまず定め、現在考えられている各種の政策による計画達成の未来像との両者から、バックワードキャスティングをして政策分析をする手法の論理を開発した。その手法は、人口構造の人間生物学的特性から確定的に人口構造を確定し、現実の人口構造の変動は、人の経済社会を変化させる政策の社会移動率への影響を分析し確定論モデルに投入した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
この研究の学術的な特色は、高齢・人口減少社会が先進国および中進国の特徴的な社会構造を重視する点にある。人口の社会移動だけが社会構造を変えうる要素だが、これを無視すれば、労働力の中心をなす25歳以上の人口が不確定になるには、25年の遅れがある。高齢人口の将来の政策を考える基礎には、65年以上の確定期間が存在する。先進諸国は、その社会構造の大部分が確定的である。日本では、いまから30年前の1980年にすでに現在の社会構造は確定的に判っていた。それにも拘らず、年金制度の改革や医療費の高騰に対する対策や、労働力不足に対する定年の延長などの政策立案は、何故できなかったのであろうか。この研究の主要な目標はまさにここにある。そのきっかけを作ることがこの研究の特色であり、独創的な部分である。 ここで開発された確定制御モデルは、具体的には、平成25年度で八王子市からの委託を受け、確定制御論による八王子市とその各町部の社会構造の変動の研究を行い、政策提案を含む「人口構造の変動とまちづくり」の報告を行ったことにある。さらに平成25年度に三菱総研と経済産業省のヒアリングをこの確定制御論について求められ、報告書を提出した。 なお、本研究の平成25年の成果は「人口構造の変動とまちづくり-地域社会構造推計と政策立案、例題:八王子市社会構造の未来像」としてネットワーク・ワークショップのホームページifuji122に掲載されている。
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Strategy for Future Research Activity |
確定的に定まっている社会構造を、一定期間後確率的に決定される社会経済機能と、組み合わせ、各種の推計手法を応用して、バックワードキャスティングにより政策の分析と事前評価を行う手法を開発する。この方法は、社会構造とその機能の分析と設計を4次元空間で行うことに帰結する。政策は時間次元の空間を変えうる能力を持つ。民主主義国家においては、行政機関が政策の立案と実施に責任を持つが、その提案する社会構造と機能の設計は、どれだけ正確に社会の要求時間に適応できるかで評価が定まると言ってよい。現在可能な方法は、確定的な将来の社会をより良い社会とする設計手法が、政策と時間次元の関連を表記する手法の開発に関与していると考え、その時点から時間を遡った中間の時点で、できるだけ状態の誤差の少ない推計を行い、政策でできるだけ早目に不確定部分に補正を行う、すなわち一種の4次元データ同化法を開発することにあると考えている。その手法については既に原案が考えられている。 この手法をマクロ経済学的推計が行える部分に適用し、その問題点を探索し改良する。多くの経済学者や長期経済計画に携わる行政官達が、グローバルに拡大した経済により、未だに世界経済は成長するものと誤解しているのに、一つの反論を試みるためである。日本が2005年に世界で最初に人口減少が起こるような社会構造となり成熟社会に到達した。その結果起こった社会経済の状況を、失われた10年と揶揄するような言動があるが、これは確定論の世界では当然起こるべくして起こった結果であった。世界の経済成長が2007年頃から停止している現況を後年に振り返れば、労働力人口が減少したのがその原因であったと理解できるはずである。これは、私の確定による推論の結果であり、今の世界諸国の社会経済政策の理論的根拠を改変させる重要な根拠となっている。この研究を行う理由はまさにこの点にある。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成26年度に本研究計画の大半を実施するために、高額のソフトウエアの購入、データベースの使用料、図書購入費が発生することが見込まれている。さらに、これらの導入のために、専門技術者に作業依頼をする必要があり、それらの費用を賄うために、平成25年度予算の一部を26年度にまわす必要があった。 確定的システムの論理をどのように経済政策にフィードバックさせれば効果的なのかを分析するのが今後の問題であるが、確定的に定まっている社会構造を、一定期間後確率的に決定される社会経済機能と組み合わせ、各種の推計手法を応用して、バックワードキャスティングにより政策の分析と事前評価を行う手法を開発する。この方法は、社会構造とその機能の分析と設計を4次元空間で行うことに帰結する。政策は時間次元の空間を変えうる能力を持つ。民主主義国家においては、行政機関が提案する社会構造と機能の設計は、どれだけ正確に社会の要求時間に適応できるかで評価が定まると言ってよい。われわれは、確定論から推計される封鎖人口の推計と、社会経済状態に影響されて社会移動を起こした結果から起こる未来を推計する開放推計の結果から、ある地域の人口吸引力を分析する手法を開発してきたが、これを本格的に数理化するのが平成26年の主な研究である。
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