2013 Fiscal Year Research-status Report
iPS細胞由来再生心筋組織と心臓をインターフェイスする電子デバイス
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25560197
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
八木 哲也 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50183976)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | iPS細胞 / 培養組織 / 心筋細胞 / ペースメーカー / 医用電子デバイス / 電気刺激 |
Research Abstract |
iPS細胞から誘導された心筋細胞組織の活動を電気的な刺激によりコントロールできれば、再生医療が大きく発展する。このための研究のひとつの課題は、培養細胞組織に対し任意のパターンで電気刺激を与えることができる電子デバイス・システムの開発である.まず予備実験として、市販の単チャネル刺激装置を用いて、ラット心筋培養組織に対して急性に電気刺激を行った。しかしながら培養心筋、特に組織化された段階ではその効果はほとんどなかった.そこで培養の初期ステージから慢性的にパターン刺激を行うことが必要と結論し、刺激装置の開発に着手した.まず高インピーダンスの刺激電極に対応可能な多チャンネル電流パルス刺激集積回路のテストチップを設計・制作した.テストチップの性能を評価するために、高インピーダンス電極を用いて脳スライス標本に電気刺激を行う生理学実験を行い、十分な実用性能を有する事を実証した。またこのテストチップの評価結果を確認した上で、現在多チャネルで任意の刺激パターンをプログラプログラマブルに生成できる信号生成チップの設計までを完了した.刺激チップは,電流振幅を比較的高い分解能で設定することができ,また刺激パターンを自由度高く設定できることから、生理学実験において非常に有用であり、今後の実験を大きく加速することができる。また刺激システムが集積化されていることから,システムを顕微鏡にセットし、数10 チャネルオーダーの多点刺激に対する培養中の組織の反応を、連続的にモニターすることができる。これらの成果については、一件の国際会議および3件の国内会議において発表を行なった。また現在国内の学術雑誌にフルペーパーを投稿中である。以上に加え当初の計画に沿って、培養心筋細胞の活動をコンピュータシミュレーションにより解析するための簡略化された数理モデルを作成中した。現在、モデルのパラメータの調整中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の当初計画は、iPS由来心筋組織に電気刺激を与えてその効果を計測することであった.予備実験としてラット心筋培養組織に対して、短期的な刺激を行ったが、その効果は明確ではなく、培養細胞系に対しては長期的なパターン刺激が必要であるとの結論に達した.そこで今年度は、培養のプロセスにおいて組織に慢性的に任意のパターンで電気刺激を与える刺激電子デバイス・システムの開発と計測系を確立することに研究の軸足を移した.長期的に刺激を与え、かつ持続的な計測を行うためには、刺激装置は顕微鏡にセットできるコンパクトなものでなければならない.このような刺激システムは市販では得られず、自ら設計、開発する必要があった.テストチップを経て、今年度設計した電流刺激システムは、集積回路化され非常にコンパクトなものであり、電子回路は多点同時刺激を行うために20極の出力チャンネルを持つ.また生体組織へ化学的影響を抑えるため、刺激の正負電荷が平衡するように刺激量を微調整できるようになっている.このデザインにより、培養細胞系に対し長期間にわたって連続的かつプログラマブルに刺激を与えることが可能であり、システムを顕微鏡等に装着し、培養系の変化を長期にわたって観測することを可能にする.実際の集積システムが納入されるのは次年度早々になるが、このシステムにより、当初予定していたiPS由来組織を用いた実験が大いに加速することは間違いない。iPS細胞由来の心筋細胞組織に対する実験はまだ実施できていないが、同組織は連携研究者の研究室ではすでに作成済みであり、システムが納入され次第、実験を開始することができる。以上により現時点においては、実験そのものの遅れと刺激システムの予想外の進展の両方を考慮し「概ね順調」と自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度に実施できなかったiPS由来の培養心筋細胞に対する電気刺激実験とその効果の解析を進める.多チャネル電気刺激システムを顕微鏡システムに装着し、iPS細胞由来の心筋細胞の初期培養段階から、各培養ステージにおいて長時間電気刺激を与える実験を行う.この実験では、電流の刺激頻度、電流強度、刺激パターン(特にバースト状の繰り返し刺激)を変化させながらその効果を見る.開発した刺激システムを顕微鏡に装着し、電気刺激を行いながら長期にわたるビデオ観察を行う.また組織の応答を見るためにカルシウム感受性色素による計測も併用する.培養細胞がシート状になった場合、細胞間ギャップ結合によって細胞の見かけ上の入力インピーダンスが下がって、電気刺激効果が弱まることが考えられる.この場合に連続刺激、バースト状の刺激などを試み、組織の応答を見る。こうしてまず培養心筋細胞の電気的な特性を同定した上で、培養細胞の活動(拍動ペース等)を制御することを試みる.ここでは、多点記録電極を用いて心筋細胞の電気的活動を細胞外記録により計測し、この信号により刺激電流パターンを生成し、組織にフィードバックする.具体的には、拍動周波数、位相などを電流パターン刺激によってフィードバック制御することを試みる.得られた結果を計算機シミュレーションにより解析し、培養心筋細胞にどのような電気化学的な変化が起こったのかを考察する.さらにこうした慢性的な電気刺激が、長期的にみて培養組織の形態や機能の発現にどのような影響があるかを観察する.また計画の進捗状況によっては、iPS細胞から心筋細胞へと分化するときに電気刺激を与え、こうした外部刺激が細胞の分化誘導にどのような影響があるかも観測する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度の当初計画は、iPS由来心筋組織に電気刺激を与えてその効果を計測することであったが、予備実験の結果を受けて、当初の予定を変更して、培養のプロセスにおいて組織に慢性的に任意のパターンで電気刺激を与える集積化刺激電子デバイス・システムの開発および計測系の確立に研究の軸足を移した。ただしこれらの当初予定していなかった開発は、本研究室で以前より開発を進めていた生体内埋植用電子デバイスの一部を修正することで実施されたので、本課題の全体予算に影響することはなかった。しかしながら26年度には、刺激チップをシステム化し顕微鏡へ組み込み評価実験するための諸費用を確保しておく必要がある。また平成25年度は、このシステム開発を優先したために、培養細胞を用いた実験については予備実験のみにとどまり、当初の実験は平成26年度に延期して実施することになった.以上の理由から平成25年度予算を次年度に繰り越した。 繰り越された予算は以下のとおり仕様される。①26年度に納入される刺激生成チップを刺激回路に組み込むため、および完成した刺激システムを顕微鏡、培養装置に組み込むための電子回路・機械部品(消耗品)の購入する。またこの実装作業にかかわるアルバイトを雇用する。②上記の実装および培養細胞を用いて、平成25年度に実施できなかったiPS細胞由来の培養心筋細胞の刺激実験を行うために必要な実験消耗品(動物、薬品類)。またこの実験を実施するときの実験補助にかかわるアルバイトの雇用のための費用。③作成した刺激システムとその性能評価実験の学会発表旅費および論文発表のための諸経費(英文校閲等)。
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Research Products
(4 results)