2014 Fiscal Year Research-status Report
iPS細胞由来再生心筋組織と心臓をインターフェイスする電子デバイス
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25560197
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
八木 哲也 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50183976)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 再生医学 / 培養細胞 / 電流刺激 / 集積回路 / フィードバック刺激 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、培養神経組織を不全に落ちいった臓器に移植し、臓器の機能を部分的にも再建する再生医療への期待が大きくなっている。但し単純な培養方法のみでは、補綴に適した機能をもつ組織になるとは限らない。特に、iPS細胞を用いて移植組織を再生する場合、培養組織を制御する技術が極めて重要となる。本研究の目的は、筋細胞や神経細胞などの興奮性細胞を培養して再生された組織の活動を、電気的刺激等の刺激によって制御するための基礎実験と、それに用いられる電子デバイスの設計・製作を行うことであった。 今年度は、以下の成果を上げた。 ①昨年度に開発した集積型多チャネル電流パルス刺激システムを完成させた。さらにこのシステムを顕微鏡セットに組み込み、組織の活動をモニタしながら慢性的にパターン刺激を行えるように改良した。この装置を使って脳スライスの活動を電位感受性色素を用いてイメージングしながら、標本に対してパターン電気刺激を加える実験を行なった。その結果から、開発したシステムがほぼ設計どおり動作し、スライス組織をシステマチックに興奮させることができることを確認した。 ②培養組織の電気的活動を計測しながらフィードバック制御するための計測系を設計・製作した。この計測系は、市販の低雑音アンプ集積回路を用いて作成した。 ③以上により集積型の多点計測刺激システム、すなわちTissue-Computer-Tissue Interface (TCTI)回路のプロトタイプがほぼ完成した。このTCTI回路は、刺激パターンを生成する制御部モジュール、電流刺激ドライバーアンプ群モジュール、低ノイズ計測アンプモジュールおよび電力供給部から成る。制御モジュールはプログラマブルであり、計測アンプモジュールからの計測信号にもとづいて刺激パターンを生成することができる。本研究で開発したTCTI回路は、コンパクトであり、普及性が高い。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
この研究の中心課題は、再生された興奮性組織の活動を制御するために、長期間にわたってシステムチックな電気刺激を行うことができる電子回路(Tissue-Computer-Tissue Interface: TCTI)のプロトタイプを作成することであった。そのために当初の計画では、心筋細胞およびiPS由来の心筋細胞をシート状に培養し、組織化した試料に対する電気刺激効果を検証することもひとつの課題となっていた。しかしながら、組織化した試料を興奮させるためには、当初予測していたより大きな電流が必要となることが分かり、電子回路設計により多くの時間を費やすことになった。TCTI電子回路については、計画では市販の部品を組み合わせたプロトタイプ作成までがゴールであったが、同様の試みが海外でも始まっているという動向および国際的なインパクトを踏まえて、最初から集積回路化を目指しての実装にチャレンジした。開発したTCTI回路は、当初の計画を大きく上回る成果となった。 一方でもうひとつの研究課題である、培養細胞系への電気刺激効果を調べる実験は、心筋細胞シートに関する限り、デバイスの設計製作を重点的に進めたために、十分な時間が取れなかった。ただし培養心筋組織に代わって、従来より研究室で扱いなれたいた脳スライスを試料として、TCTI回路による電流パターン刺激実験を行い、作製した回路が正常に作動することを確認することができ、一応の成果を上げることができた。 以上、当初計画していた培養心筋細胞のパターン電気刺激効果の検証までにはいたらなかったが、計画になかった高性能TCTI回路を完成させることができ、この回路の有効性を示すことができたという状況から、研究はおおむね計画どおり順調に進展したと結論した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究で開発されたTCTI回路は、基本的に集積回路により構成されていることから、極めてコンパクトである。現状の市販の装置でシステムを組んだ場合、専用の多チャネルアンプ、多チャネル刺激装置とこれらを制御するためのコンピュータを組み合わせた大掛かりな構成となる。このためシステムを培養に頻繁に必要とされる実験環境、すなわちクリーンベンチ内やインキュベータ、顕微鏡などと共存させるのが困難であった。今回開発したTCTI回路は、これらの環境の中で活用することが可能であるので、広く普及することが期待できる。今のところ、モジュール間の配線や信号線などの実装が煩雑であり、接触不良などにより動作も不安定なので、今後はまずこの回路実装を修正し、共同研究を行う研究室でも容易に活用できるようにする。その後、この回路を使って特に培養過程における細胞活動制御の実験を行っていく。また現状では、細胞・組織の活動データや、培養過程での変化を記録するシステムがないので、今後は電気活動データや、顕微鏡で取得した画像を記録するために、TCTI回路とコンピュータを接続するためのソフトウェア開発も行う。まら今回開発したTCTI回路は、さらに単一チップ化、すなわちSystem on Chip(SoC)化することにより、in vivoでの応用の道が開ける。SoC化のための設計をすすめ、特にフィードバック制御型の脳深部刺激用デバイス(DBS用デバイス)や移植型のBrain-Computer Interfaceへの応用の可能性を探っていく。
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Causes of Carryover |
研究の最終目標は、集積型電子デバイス(TCTI)のプロトタイプを作成し、iPS細胞由来の培養心筋細胞シートを電気的に制御することであり、本萌芽研究期間中には、市販部品によって構成されたTCTI回路を用いて生理学実験を実施する予定であった。しかしながら回路設計が予想以上に進展したので、研究成果の国際的インパクトを考慮し、TCTIの集積回路化にチャレンジした。集積回路の製作は、設計、レイアウト、製作、実装、評価試験という工程が必要である。この理由から、TCTI回路開発の期間を延長せざる得なかった。尚、本年度までに実装までがほぼ終わっている。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
現時点で集積型TCTI回路のハードウエア自体は完成している。従って、延長期間においては、回路の試験と評価を行う。評価ではTCTI回路を用いた生理学実験を実行する。生理学実験は、研究室に既存の実験装置を使用するが、実験のための消耗品を購入する必要がある。消耗品は、実験動物、試料の電気的活動を計測するための多点基板電極、試料を刺激するために用いる電極および試料培養のための薬品類である。また必要に応じて、回路の特性評価時のために必要となる電子回路部品を購入する。また本研究の成果を発表するために、国外1件および国内1件の学会参加を予定しており、そのための旅費等として使用する予定である。
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Research Products
(9 results)