2013 Fiscal Year Research-status Report
vWF分子機構における血小板粘着力生成のナノバイオメカニクス
Project/Area Number |
25560209
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
谷下 一夫 早稲田大学, ナノ理工学研究機構, 教授 (10101776)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
須藤 亮 慶應義塾大学, 理工学部, 准教授 (20407141)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 生物・生体工学 / ナノバイオ / 循環器・高血圧 / 生体分子 |
Research Abstract |
血小板の凝集、粘着は、血小板表面に存在している多くの糖タンパクレセプターによって統御されている。損傷された血管壁では、血小板表面の糖タンパクGPIb が高いせん断速度の基で、血漿中のvWF (von Willebrand Factor)と呼ばれるタンパクと結合して、粘着力を発生し、凝集・血栓形成となる。高いせん断応力が、GPIbとvWFの立体構造変化を誘起すると考えられており、その結果として両者の結合を促進している。そこで、本研究では、vWFの分子レベルでの立体構造変化と粘着力のせん断速度依存性を明らかにするために、粘着力を原子間力顕微鏡によって直接測定して、粘着力発生に関して検討を行った。AFMによって得られたフォースカーブの内、単一ピークによって得られた粘着力は、せん断速度には依存していない。さらに、粘着力のヒストグラムから、ガウスフィットにより、そのピーク値を求めた。Arya et al.(2005)による光ピンセットを用いた粘着力測定の結果(50pN)に近い事が分かった。さらに、ガウスフィットによる得られた極大値を50pNの整数倍と考えて、本研究で求められた単分子結合力は、52.0pNと求められた。複数ピークに関しても粘着力を算出した結果、全ての条件において濃度依存性が見られた。複数ピークのフォースカーブで、最初のピークと2番目のピークを識別して、粘着力を求めたところ、最初のピークでは、51.8pN, 二番目のピークでは、52.0pNであった。これらの値は、単一ピークの場合の粘着力に一致しており、単分子あたりの粘着力は一定であることが示唆された。そこで、複数ピークの粘着力に有意差が生じたのは、粘着箇所の数が増えたのであって、単分子当たりの粘着力が増加したわけではないと考えた。これらの結果は、粘着力にせん断依存性があるという従来の見解と異なる結果で、分子の立体構造の変化の面から妥当性のある結果と思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
血小板の粘着や凝集のメカニズムに関しては、生物医学分野で長年の研究の蓄積がある。さらに、従来の見解として、血小板の粘着や凝集は、血流のせん断依存性があると言われており、生物医学分野では定説とされて来た。ところが、最近の観測技術の進歩により、AFMや光ピンセットにより、一分子同士の粘着力の計測が可能になって来て、極めて工夫が凝らされた実験が行われるようになった。特に光ピンセットによる粘着力の計測では、正に1分子同士の計測が厳密に行われている。ところが、血流のせん断による影響を直接取り込む事が出来ない。そこで、本研究で採用したAFMによる計測では、厳密で1分子同士の粘着力が計測されているかは、不明な点が残るが、血流のせん断による影響を担保した形での計測が可能になった。その結果得られた事は、一分子同士の粘着力は、必ずしもせん断に依存しない。ただ、せん断によって粘着力に貢献する1分子同志の結合部位の個数が増える事によって、見かけ上せん断依存性が生じるという見解が得られた。この結果は、独自性の高い結果で、現在投稿論文を準備中である。このような独自性の高い結果が得られたという点では、本研究の達成度は高いと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
25年度に得られた独自性の高い結果の妥当性を十分に検証する事が必要と考えている。血小板の粘着の論文が多く掲載される一流のジャーナルに投稿する場合には、相当の査読者の批判が出て来る事が予想される。それらの批判に対して説得性のある説明をするためには、十分な根拠と検証が必要である。最大の問題は、1分子同士での結合力を計測しているかである。光ピンセットによる計測の場合には、計測の性質上1分子同士での結合が前提になり、顕微鏡下の観測である程度の確認が可能となる。しかしながら、AFMの場合には、直接1分子同士であるかを確認する方法は困難で、実験環境の全ての要因を踏まえて、1分子同士である状況を間接的に検証しなくてはならない。この点が最大の山で、検証するための種々の計測を試みる事が必要である。AFMは、タッピングモードで、分子構造を反映する画像を得る事が可能であるので、粘着力のみならず、分子構造を反映する画像をどこまで取れるかが今後の大きな課題となる。最終的に、粘着発生の分子機構のナノバイオメカニクスが明らかになる事が最終目標となる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究で使用した中心的な装置は、原子間力顕微鏡であるが、これは慶應大学理工学部中央試験所における共同利用の装置を使用したため、支出は消耗品が中心となった。本研究で得られた結果をジャーナルに投稿を準備しているが、査読者に批判に耐えられるようにデータを完備させる必要がある。そのために、2年目に経費を繰り越しておく方が賢明と考えた。 2年目(26年度)では、フォースカーブや分子構造を計測するためのタッピングモードのためのカンチレバー(AFMのプローブ)を十分に用意して、計測データをさらに揃えるために支出する。さらに計算機シミュレーションも検討しており、そのためのパッケージソフトの購入を検討している。
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