2013 Fiscal Year Research-status Report
褥瘡予防のためのセンシングとアクチュエーションに関する福祉工学的研究
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25560281
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Industrial Research Institute of Shizuoka Prefecture |
Principal Investigator |
細野 美奈子 静岡県工業技術研究所, 沼津工業技術支援センター機械電子科, 研究員 (70647974)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 水素吸蔵合金 / ソフトベローズ / アクチュエータ |
Research Abstract |
本研究の目的は,近年医療や介護の現場で課題となっている褥瘡を予防するため,身体表面に働く負荷の軽減や再分配を行うシステムを開発し,その有効性を評価することである.この褥瘡予防システムは力の再分配を行うアクチュエータ部(以下,力再分配ユニット)と,身体とシステムの接触面に働く力を計測するモニタリング部から成る.平成25年度は力再分配ユニットに用いるアクチュエータの設計および試作を行った. ユニットに用いるアクチュエータは,身体への安全性とともに,システム適用者を含めた周辺環境へのストレスを軽減するため静音性を考慮する必要があるため,本研究では水素吸蔵合金を駆動源とした水素吸蔵合金アクチュエータ(以下,MHアクチュエータ)を適用することとした.はじめに,MHアクチュエータに用いる水素吸蔵合金(以下,MH合金)の種類を,加熱冷却温度範囲と水素吸蔵量の観点から選定した.加えて,粉末状と紙状の異なる二つの形態を持つ同一組成のMH合金を用いたMHアクチュエータを試作し,それらの出力特性を計測,評価した.実験の結果,紙状のMH合金は粉末状と同等量の水素ガスが吸蔵でき,紙状のMH合金を用いたアクチュエータ開発の可能性を示した.また,粉末状のMH合金は紙状より出力体積比がすぐれ,コンパクトかつ軽量化が求められる場面で有効な動力源となることが分かった.以上の結果は,電子情報通信学会福祉情報工学研究部会にて発表した.続いて,アクチュエータの駆動部に用いるベローズの設計および試作を行った.アクチュエータの緩衝性を活かすため,ベローズ構成材料として厚さ0.1 mmのアルミラミネートフィルムを用い,フィルムを構成する高分子材料の融点差を利用することでソフトベローズ構造を実現した.また,先に評価を行った粉末状のMH合金を用いて,ソフトベローズ構造と組み合わせたソフトMHアクチュエータの試作を行った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度までに,褥瘡予防システム中の力再分配ユニットに用いるアクチュエータの設計および試作を行った.具体的には,アクチュエータとして採用したMHアクチュエータの駆動源に用いるMH合金の種類,形態といった詳細仕様について評価実験から検討および選定を行うとともに,アクチュエータ駆動部に用いるソフトベローズを厚さ0.1 mmのアルミラミネートフィルムから開発し,両者を組み合わせてソフトMHアクチュエータを構築した.MH合金は10℃から40℃の温度範囲で0.4 MPa程度平衡水素圧が変化する性質を持つものを利用した.このMH合金は0.3 gで直径50 mmのソフトベローズを内圧10 kPaで長さ40 mmまで伸長させることが可能である.また,製作したソフトベローズは,3日間内圧を保持できることを確認した.さらに,研究を進めていく中で,MH合金の粉末と紙繊維を組み合わせて,新たに紙状の形態を持つMH合金の開発を行った.この新しいMH合金の特性を評価した結果,粉末状のMH合金と変わらない水素吸蔵特性を持つことが分かった.紙状のMH合金は粉末状のMH合金と異なり流動性を持たず,また任意の形や大きさに切り取って使用可能であることから,この開発により,MHアクチュエータの設計の幅を大きく広げることができた.一方で,実施計画時点ではマイコンを用いた制御系の構築を挙げていたが,アクチュエータのPID制御を行う上でのプログラミングの簡便性や拡張性を考慮したうえで,LabVIEWを利用した制御系 を構築することとした.よって,実施計画内で挙げた達成手法や実験内容に関して変更が生じた点もあったが,以上の結果を総括して,研究はおおむね順調に進展している.
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は,身体表面にかかる力を計測する3軸力センサと,力再分配ユニットの制御系と組み合わせて褥瘡予防システムを構築する.さらに,構築した褥瘡予防システムの評価を行う. 3軸力センサは,身体表面と接触可能な生体親和性材料に覆われたものがすでに製品化されているため,購入したものを用いる予定である. 続いて,構築した褥瘡予防システムを下肢に適用し,複数の対象者を集めて褥瘡予防システム使用時の身体との接触面に働く力と周辺組織の血流量の計測実験を行う.システムの適用部位は,下肢の褥瘡好発部位である踵,外果といった骨突出部位を想定している.血流量計測には,レーザードップラー血流計を用いる.使用予定のレーザードップラー血流計は一点計測であるため,2次元赤外線サーモグラフィーを用いた適用部位の温度変化計測によって,血流量変化に対する考察を行うことも検討している.得られた結果を基に,褥瘡予防システムの有効性について定量的に評価する. 計測実験では,褥瘡予防システムを,(i)稼動させた時と(ii)稼動させなかった時の2種類の計測を行い,比較する.計測で得られたデータについて統計処理を行い,褥瘡予防システムの効果や力再分配ユニットの制御について,接触面に働く圧力,せん断力と血流量変化の観点から考察を行う.以上の得られた計測結果や構築した褥瘡予防システムを用いて得られた知見をとりまとめ,成果の発表を行う.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度は実験環境の構築のため,アクチュエータ開発に必要となる継手用品や電子部品,熱制御素子等の購入が多く,当初予定したよりも多くの物品費が使用された。一方で、情報収集や研究打ち合わせのための出張が当初の計画よりも少なくなり,結果として余剰分が生じた. 次年度では,積極的に成果の発表を行っていくため,本年度の余剰分は基本的には旅費の補助に使用する予定である.また,次年度では複数のアクチュエータを用いたシステムの構築を行うため,本年度の研究結果を踏まえて選定した各種用品や部品,またシステムに必要とされるセンサ類の購入を行う.
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