2013 Fiscal Year Research-status Report
南アジアの紅玉髄製工芸品の流通と価値観-「伝統」を支える社会システムの考察
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25570013
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Kobe Shukugawa Gakuin University |
Principal Investigator |
小磯 学 神戸夙川学院大学, 観光学部, 教授 (40454780)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ナガランド / 装身具 / 紅玉髄製ビーズ / 交易 / 文化変容 / 伝統 / 民族考古学 / 自然地理 |
Research Abstract |
2013年11月26日~12月10日〔小磯(学)・村山〕、2014年2月27日~3月7日〔遠藤・渡邊〕、同~3月14日〔小磯(学)・小茄子川〕の2次にわたる調査で、ナガランド州ディマプル、コヒマ及びコノマ村等村落、及びコルカタやデリーのナガランド州立物産店などを訪れ、紅玉髄製ビーズを中心に装身具に関する聞き込みを実施。加えて、紅玉髄製ビーズが出土した現在発掘中のインダス文明の遺跡ラーキー・ガリー(ハリヤーナー州)を訪れ、この準貴石と人との関わりを考古学的な視点から考察する端緒とした。 小磯千尋は渡印せず、古代インドの文献『Ratnapariksha』に基づきながらインド社会で用いられてきた装身具や素材についての情報収集を行った。 ナガランドでは、今日なお多くの人々が(男女ともに)日常的に紅玉髄製ビーズを着用する伝統が残る。過去半世紀ほどの間には、代替品として同色・同形で安価なプラスチックやガラス製ビーズが急増している。ただしその事実は、この色と形のビーズへの文化的志向の強さを表してもいる。 19世紀以降のイギリス・アメリカの宣教師の活動の結果、今日のナガランドの人口の9割がキリスト教徒となっており日曜礼拝などに参加する敬虔な信者が多い。そして同時にまた、キリスト教浸透以前に遡る、祖父母や親から孫・子へと受け継がれる紅玉髄製ビーズを身に着ける伝統も今なお健在である。それは、キリスト教徒である前に「ナガ」の人間であることの証にほかならない。人々のアイデンティティの拠り所として、紅玉髄製ビーズを初めとする装身具が重要な機能を果たしている現状が明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
夏季休暇中の時期はナガランドは雨季(世界トップの降雨量)で調査には向かず、その他の時期はメンバーの都合が合わず長期にわたる調査期間が取れなかった。これが残念ながら「おおむね順調」とした理由である。ただし現地ではナガランド大学歴史・考古学部の教員2名やその知人の1名からの協力が得られるなど、効率よく複数の村を回り、聞き込み調査を実施して情報収集することができた。 メンバー各自の専門性を生かしつつ、以下の主だったテーマについての基礎的な情報が得られている。①紅玉髄製ビーズの相続・贈与と使用、②各民族集団のビーズの実測図作詞及び形態の比較分析、③伝統文化とキリスト教文化との共存とアイデンティティ、④ナガランド地方のイスラーム教徒と装身具、⑤集落立地の自然地理学的環境、⑥インド古代文献に記述された装身具(日本国内で情報収集)。 この他、ナガランド大学の教員2名からは、両名がこれまでに発掘調査を行った遺跡からの出土品や民族調査を行った村落における紅玉髄製ビーズの実情についての情報を寄せて頂くことができた。本科学研究費の2014年度に作成する最終報告書では、両名にも論考の執筆の快諾を得ている。短期間の調査であったとはいえ、紅玉髄製ビーズないし装身具を、歴史、考古、民族、宗教や信仰、祭り、工芸、地理など多様な視点から分析する基礎作りが整ったのは、やはり現地を直接訪れることができたからにほかならない。 ナガランドは19世紀のイギリスの進出以降、主に欧米の人類学者らによって多数の調査が行われてきた。しかし装身具(とくに紅玉髄製ビーズ)に重点を置いた具体的な調査は無いに等しい。21世紀に入りようやく研究対象になりつつあるといっても過言ではなく、南アジア全域や東南アジアとの交易活動や各々の民族集団における使用例や意識調査の比較など、今後も広い視野の中に位置づけながら研究を深める必要性が改めて認識できた。
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Strategy for Future Research Activity |
2013年度の調査期間がきわめて短期で限定的であったため、当初の計画を変更し2014年度もナガランドで再度調査を実施する。 初年度の調査では、紅玉髄製ビーズを着けている頻度の高さから老年の男女への聞き取りが多くなった。このため次年度はビーズを身に着けている・いないに関わらず、各々の世代ごとの装身具全般に対する心情を明らかにしたい。また2月下旬に実施されるスクレニ祭りを訪れ、豪華な首飾りで「正装する」場を調査する。今日キリスト教徒である人々にとって、この祭りはキリスト教浸透以前から伝わる「ナガ文化」の伝統を再確認する場でもある。人々が、自らのアイデンティティをどのように捉え祭りを実施しているのかを探る。 こうした個別のテーマに関して各村落=点ごとに情報の蓄積を図るだけでなく、地域=面的広がりに視点を置いた調査も試みる。具体的には、コヒマから南に向かうインパール街道沿に位置する複数の集落を順に巡り、紅玉髄製ビーズを日常的に身につけるか否か、祭り用の豪華な首飾りを所有しているか否かなど特定の短い質問アンケートに基づき、これらの事象がどのような空間分布を示すのかを探る。異なる民族集団の分布やコヒマのような拠点集落からの距離との関連性など、ナガランド全土に浸透する装身具文化の現状の一端を明らかにすることが目的である。 ナガランド大学の協力者2名は、ナガランドにおける装身具の考古学的・民族学的な出土・使用の集成を行い、広い視野に立ったナガランドにおける装身具文化の総括を行う。 さらには、ナガランド地方は歴史的にもイスラーム教が陸路で辿り着いた東端の土地でもあることに着目する。紅玉髄製ビーズに対して独自の文化的な志向をもつイスラーム教徒が、土着の文化と出会いどのような文化変容を受けたのか明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
①遠藤仁(連携研究者)が別件でインドに滞在しており、旅費がインド国内のみとなった。②小磯千尋(連携研究者)が日本にとどまったため、外国への旅費を使用しなかった。 ③国際線の航空運賃が予定より安く入手できた。これらの理由により、インドへの旅費が予定よりも大幅に少なくなった。 科研応募時に計画されていたメンバー全員での会合を設ける目的で、日本国内の旅費に使用する。またさらにインド国内調査における旅費(とくに調査時に使用する車代)やガイドへの謝礼等に使い、調査をより充実させる。
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Research Products
(5 results)