2014 Fiscal Year Research-status Report
農林漁業地域における「地域の壁」形成に関する探索的研究
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25570017
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
藤井 和佐 岡山大学, 社会文化科学研究科, 教授 (90324954)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 共同性 / 世代間継承 / 農地 / 集落 / 戦後開拓 / 農業用水 / 女性リーダー / 新旧住民 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度の調査研究成果をふまえ、方法論の展開を企図しながら、さらにインテンシヴな調査を実行した。その結果、以下のような知見を得ることができた。 1、20年が経過したダム生活再建地では、小学校の閉校に注目した結果、50歳代後半以上の住民には地域アイデンティティの強さがみられ、若い世代ではそれが弱まっていることが確認できた。また、戦後開拓集落と、それに隣接する既存集落とのあいだにおける農業および農地の展開を比較した結果、「開拓の困難を経験したことから土地への執着が強いのではないか」という仮説とは異なり、戦後開拓集落では、土地(それに付随した家)の継承ではなく、農業経営の継承に重きが置かれていた。継承したいものの違いが、両地域間に異相をもたらしている。 2、「顔見知りの人間関係」によって成り立っていた人口移動の乏しい農山村が、移住者や福島原発避難者の転入により、その地域性を変質させつつある。そのことは、高齢者にとって共同体的な関係が世代を超えて受け継がれていかないことを意味し、地域継承のあり方に課題を投げかけている。 3、新旧住民間に日常的な接点があるか、ないかによって、地域共同管理作業に対する意味づけが異なることが明らかとなった。新旧住民間の壁の有無と、両者の連携の有無に連続性がないことになる。移住者の多い石垣市では、新住民が内地からの移住者と沖縄県内移住者との二層に分かれており、旧住民との壁のあり方も両者で異なることが明らかとなった。 4、開拓された地域では、時の経過により周辺地域との間の境界性が薄まることを意味すると同時に、そこに重なるのは世代継承の問題である。地域性が継承されないことは、地域の壁がなくなることにもつながるが、他方で地域の解体に作用する地域アイデンティティの希薄化にもつながる。地域の壁を考えるにあたって、壁のもつ意味の多義性をさらに分析・考察する必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度に、女性の政治的意思決定の場への参画を阻む「地域の壁」形成のあり方について明らかにするための方法論(農村社会における地域性・共同性への注目。その基層にある土地(農地)・米作と、それの維持・存続への責務意識)の妥当性を検証できたため、本年度はさらにインテンシヴな調査を行なった。具体的には、女性グループの活動指向、旧住民層・高齢層の意識・地域アイデンティティ、移住者の二層性などを明らかにすることができた。 その成果の一部が関連学会で発表され、その場における専門的見地からの意見にもとづいた議論を研究会において行なうことによって、知見のエラボレーションにつなげることができた。さらに、兵庫県および兵庫県内の混住地域において男女共同参画関係の講演の機会を得ることができ、そこで一般市民に知見を問うことを試みることができた。現象的側面、それにたいする解釈については、男女を問わず、来場者の共感を得られ、そこに知見普遍化の可能性をみることができた。 ただし、3月に予定していた共同聞きとり調査の日程調整が遅れたため学内の出張申請期限に間に合わず、4月実施となった。結果的には調査内容に支障が出なかったとはいえ、本年度計画を翌年度に持ち越したかっこうになった。 また、研究メンバーの1名が産休・育休に入り、現地調査が困難となった。しかしながら、昨年度の計画どおり、文献・資料のレビューやこれまでの調査結果の整理・考察、論文化を進めることができ、次年度復帰後には当初の計画どおりの成果を出せる予定となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度においては、本研究課題において確定した主要調査地域・比較対照地域(戦後開拓地都市化地域、ダム生活再建地、伝統文化残存島嶼地域、新旧住民混住化文化変容地域、合併自治体自治振興区農業地域、都市近郊農業用水管理地域、男女共同参画先進状況変容地域)における調査結果をまとめ、調査研究成果の総合化を目指す。そのために、下記の4点を実施したい。 (1)必要に応じて補足調査を行ないながら、これまでに得られた知見を検証する。(2) 方法論の精緻化及び概念の確定のために、研究成果を日本社会学会において共同報告することをとおして研究者と意見交換する。(3)一般市民にたいしても講演・市民講座等をとおして知見を問い、研究成果の社会的有益性の向上をはかる。(4)理論化の方向性をさだめる。 また調査研究上の具体的な課題としては、(1)「土地の共同」を構築するにあたって壁となるものは何か、(2)地域の壁を乗り越える契機となる政治の場への日常的な接点とは何か、(3)世代差・世代間継承の実態とその要因となるものは何か、の3点があげられる。 最終的に、この研究プロジェクトにおいて得られた知見の(海外をふくむ)普遍性を検証し、村落社会学の蓄積にもとづいたジェンダー論の総合理論化および政策提言を可能とするような、次なる発展的研究プロジェクトの構想につなげていく。
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Causes of Carryover |
3月下旬に沖縄県石垣市及び竹富町において連携研究者との共同聞きとり調査を計画していたが、複数のインフォーマントとの日程調整が遅れ、所属部局内における出張内申提出期限に間に合わず執行できなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
所属部局内において次年度4月1日からの出張内申は受け付けるとのことであったので、4月1日~6日の期間をもって共同聞きとり調査を実施計画済みである。
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Research Products
(5 results)