2014 Fiscal Year Research-status Report
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25580007
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
鈴木 真 南山大学, 人文学部, 講師 (30536488)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 幸福 / Well-being / 倫理学 / 道徳心理学 / 測定 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、幸福とその測定に関する哲学研究を経験諸科学における研究と接続すること、特に、誰かにとっての善としての幸福とは何かという問や、幸福は測定できるかという問を、哲学的議論だけでなく、経済学や心理学などの問題意識と先行研究を踏まえながら考察することであった。本年度は、経験諸科学を参照しつつ幸福とは何かという哲学的問題を扱った論稿を公刊した。この論文は、幸福の日常概念の分析というより、誰かの目的としての善としての幸福の専門的概念を規定するという課題に取り組むという、倫理学における幸福研究の方法論を提起している。客観的リスト説 、(自己)完成説、快楽説、生満足説、欲求充足説といった、幸福に関する倫理学理論を、上記の課題に対する回答としてみなした場合にどの説が適当なのかを、経験科学の知見を参照しながら検討した。本稿における暫定的な結論は、(事前の)渇望と区別される、(事後の)好みが幸福の尺度であるという趣旨の「好み依存説」がもっともらしいというものである。 また本年度は、幸福の測定に関する問題を扱った発表もした。経済学や倫理学で有力な規範学説によれば、価値は規範の根拠(の一部)である。この帰結主義には様々な形態があるが、各形態の成否は、価値がいかなる仕方で測定できるかということにかかるところがある。たとえば総量功利主義は、全関係者の幸福(という価値)の総量を最大化する行為をなすべきだとするが、この主張には幸福が比率尺度で測れ、個人間で比較できるという前提がある。生涯における幸福の平等配分に価値をおく説には、個人間で幸福水準が比較できるという前提がある。こうした前提が満たされる見込みがあるのかということを、幸福測定の理論と実践の考察に基づいて検討した。次年度には、この発表を改定したものを論文として公表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績を鑑みると、目的に照らして本年度まで研究はおおむね順調に進展していると言える。本年度は、幸福の経験的研究を「幸福とは何か」という哲学的問に結びつける段階に至ることを短期的な目標としていたが、この目標は達成されている。というのも、経験諸科学の研究に基づいて、哲学における幸福理論のどれがもっともらしいかを検討し、研究代表者が有望視する幸福理論(好み依存説)を擁護する論稿を公刊したからである。また、幸福の測定と比較の可能性を検討するための準備として学術発表をした。とりわけ、ある物事を別の物事よりも(事後に)好むという関係は、基数的で個人間比較を許すような尺度を提供できるのか否かについて、哲学のみならず経験科学の理論と方法も考慮に入れながら検討をはじめた。これらの点は本年度の目標として挙げていた事柄であり、これが達成されたことは研究が順調に進んでいることを示している。 ただし、好み依存説で重要な、事前の渇望と事後の好みの区別を、現在の心理学や脳科学の知見と整合するような形で成すことができるかどうかということについての検討はまだ不十分である。幸福は基数的には測れない(序数的にしか測れない)、個人間比較はできない、という主張がなされてきた理由を網羅して類型化する、という点もまだ道半ばである。こうした点については来年度以降に取り組む必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、幸福の測定と比較について検討し、幸福研究の概念枠組を考案することを目標としている。このためには、事前の渇望と事後の好みの区別を、現在の心理学や脳科学の知見と整合するような形で成すことができるかどうかということについての検討をさらに進め、幸福は基数的には測れない(序数的にしか測れない)、個人間比較はできない、という主張がなされてきた理由を類型化して各々検討することが不可欠である。 なお、次年度はこの研究課題の最終年度であるため、三年間の研究成果を纏めて公表し、研究者共同体や一般社会に成果を還元することも行いたい。
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Causes of Carryover |
次年度から大学を移ることが確定した。そのため、研究に使用する予定ではあったが、それほど緊急ではない書籍や消耗品などは、次年度に研究室を移動してから購入したほうが良いと判断した。また、年度末に海外へ研究出張をしようと計画していたが、大学を移る準備の時間を確保するために次年度に先送りした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度大学の移動のために先送りしていた書籍や消耗品の購入を行う。また、本年度末に行く予定であった海外出張をして、自分の研究を世界に発信するとともに有益なコメントを得て論文掲載につながるようにしたい。
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