2013 Fiscal Year Research-status Report
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25580020
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | University of Shizuoka |
Principal Investigator |
平山 洋 静岡県立大学, 国際関係学部, 助教 (20244535)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 福沢諭吉 / 時事新報 / 真偽判定 / 井田進也 / 石河幹明 / 福沢全集 / 続福沢全集 / 安形輝 |
Research Abstract |
テキスト化された社説を素材として、語彙と文体による起筆者推定を行った。語彙についてはコンピュータの検索機能によって調べることができるものの、文体的特徴をデータ化して解析するのは難しい。図書館情報学の研究者である上田修一と安形輝が文体の特徴を数値化する方法を模索中であるが、実用化にはいたっていないとのことである。文体の特徴をも加味した推定は後の課題とすることにして、今回は主に使用語彙を検討することで起草者を探った。 前石河社説群中テキスト化済み338日分は、(1)福沢語彙のみが検出できる社説146日分、(2)福沢語彙と非福沢語彙の両方が検出できる社説93日分、(3)非福沢語彙のみ検出できる社説37日分、(4)いずれの語彙も検出できない社説62日分に区分できる。 前石河社説群全930日分のうち明治版所収60日分、大正版所収140日分、昭和版所収235日分、福沢直筆草稿発見済21日分に加えてさらに福沢が全部書いた社説が338日分中146日分もあるというのは、いかにも多すぎる。こうなってしまったのは、中上川や高橋など平易な語彙を使う起草者との合作社説が福沢語彙のみが検出できる社説群に混入しているためと推測できる。福沢直筆を抽出するにはもう一工夫が必要なわけである。 これら福沢語彙のみが検出できる146日分の社説1編に含まれる福沢語彙は、1語から6語まであった。そのうち52日分については1語を含むのみで、そこに福沢直筆がないとは断言できないものの、別人の下書きへの加筆に福沢語彙が含まれていた可能性が高いであろう。逆に3語以上含まれている社説が41日分、うち本人以外には書けない福沢の経験が語られている社説が「数學を以て和歌を製造す可し」(18840111)の1日分ある。このようにふるいにかけることで146日分を42日分にまで絞ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
「福沢健全期『時事新報』社説起草者判定」(以下本研究)の一部として、明治31年(1898)以降に『時事新報』主筆となる石河幹明が入社するまでに掲載された同紙社説の起草者を推定する試みである。本研究の全体構想は、福沢諭吉が主宰していた新聞『時事新報』の社説の起草者を新たな方法を用いて判別したうえ、その中から福沢直筆の社説を選び出すことでジャーナリストとしての福沢の全体像を再構成することである。加えて判別の方法論の確立のために、まず福沢の署名著作の本文をデータベース化し、それらを基礎資料としつつ、無署名社説と語彙・文体の比較を行う。 そのうち初年度が扱うのは明治15年(1882)3月1日の創刊から明治18年(1885)3月31日までの930号分で、石河はこの期間の社説を担当していないのが明らかであるのみならず、『福沢全集』(大正14、15年〔1925、26〕刊行・以下大正版)および『続福沢全集』(昭和8、9年〔1933、34〕刊行・以下昭和版)に収録する社説を選別するにあたって、石河自身の記憶や記録に依拠していないことが確実な社説群でもある。以下この期間に掲載された社説をまとめて前石河社説群と呼ぶことにする。 ネット上で情報処理の専門職を募集できる「日本校正者クラブ」に登録することで人員を確保し、順次それらをテキストファイル化している。このテキスト化作業の目的はコンピューターの検索機能を利用するためである。また、慶応義塾のホームページ中のエントリ「デジタルで読む福沢諭吉」では、福沢の署名著作のほぼすべてがテキスト化されていて、語彙検索も可能となっている。この企画により署名著作での語彙や言い回しを即座に調べられるようになった。 以上により初年度に判定を実施できた分が338日分にのぼり、さらに次年度以降に判定予定の社説がさらに645日分テキスト化することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究で経費が発生するのは、テキスト化作業に伴う報酬のみである。当初の計画では初年度に350日分程度の社説のテキスト化を行う予定だったが、実施者による作業ペースが思いのほか速く、8月には初年度分のテキスト化が完成して、起筆者推定の作業にとりかかることができた。それはよいのだが、テキスト化作業は常時進める必要があって、そのために次年度以降の経費の前倒し使用を行うことになった。 達成度の評価欄にも書いたように、2年度以降に実施予定だったテキスト化が、すでに645日分も進んでいて、3年計画だったテキスト化作業は2年度でほぼ終了する見込みとなった。そのため、起筆者推定の方法論の構築により時間を割り当てることができるようになったのである。 この速いペースでのテキスト化の進行により、期待できる卓越した成果として、石河幹明によって作られた日清戦争期以降の福沢像(現在は侵略的絶対主義者として批判されている)を完全に覆すアジア独立論者としての福沢像が描き出されることがある。本来こうした結論は、客観的な判定作業の末、結果として導かれなければならないのであるが、本格的な判定作業に入る前である現段階でも、その結論にいたることには相当な蓋然性を有している。 というのは、福沢関与がはっきりしている論説・社説に、アジア侵略を後押しする内容のものが発見されず、かえって独立を支援するものばかりである、という事実があるのである。『福沢諭吉の真実』にも書いたように、侵略的絶対主義者としての福沢像は、石河によって書かれた社説と、その解説本ともいうべき『福沢諭吉伝』第3巻に依拠して形作られている。それらが無根拠となり、さらに多くのアジア独立支援者としての福沢を証する社説が発掘されることになれば、従来までの福沢像は根底から覆されて、まったく新たな福沢諭吉の姿が立ち現れることになるのは、疑うことができないであろう。
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Research Products
(2 results)