2013 Fiscal Year Research-status Report
イタリア南西部の民俗的ポリフォニック・コーラスに関する音響身体論的研究
Project/Area Number |
25580027
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Kyoto City University of Arts |
Principal Investigator |
山田 陽一 京都市立芸術大学, 音楽学部, 教授 (80166743)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 多声部合唱 / 民族音楽学 / 音響人類学 / 音響的身体 / 音響空間 / 国際研究者交流(イタリア) |
Research Abstract |
平成25年8月20日から9月4日の16日間にわたり、イタリア共和国サルデーニャ島西部・中部・東部の10の村落(サント・ルッスルジュ、ボザ、ボルティガリ、オリターノ、ヌオロ、イルゴリ、スカノ・モンティフェッリ、トロペ、ビッティ、クリエリ)において、男性4人によるポリフォニック・コーラス(多声部合唱)に関する現地調査をおこなった。調査の実施に際しては、イタリア南西部(特にサルデーニャ島とシチリア島)のポリフォニック・コーラスに関する豊富な調査経験と広範な人的ネットワークをもつイグナツィオ・マキアレッラ博士(カリアリ大学文学哲学部助教授)の全面的協力を得て、多くの村落での調査に同行してもらうことができた。またサント・ルッスルジュ生まれで、自身も多声部合唱の優れた歌い手でもあるディエゴ・パニ氏の通訳・ガイド・運転手としてのアシストも、今回の調査への多大な貢献となった。 調査内容としては具体的には、デジタルビデオカメラによる約40時間の映像記録、PCMレコーダーによる約30時間の録音記録、およびデジタルカメラによる約400枚の写真記録をおこなうとともに、コーラスの歌い手たちとの集中的かつ多角的なインタビューを積み重ね、ポリフォニック・コーラスの歴史や展開のプロセス、合唱様式の分類、声の響きあいに関する歌い手の認識や感覚、歌う身体に関する人びとの意識などについて、コーラスの担い手たちの豊かな知見を得ることができた。調査終了後、ただちに映像記録等の整理と分析を開始し、実際のパフォーマンスにおける歌う身体の動きの細部と、人びとの意識や感覚を結びつける作業を続けている。その作業プロセスからは、異なる声を響かせあうことの原初性や、声を響かせあうことにおける身体の根源性が次第に浮き彫りにされつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究が当初の計画以上に進展している理由として挙げられるのは、まず第一に、イグナツィオ・マキアレッラ博士とディエゴ・パニ氏が、今回の調査に先立って、多くの村落のポリフォニック・コーラスの歌い手たちと密に連絡を取りあい、彼らとの面会の約束を取りつけて、おおよその調査日程を確定してくれていたことである。そのため、現地に到着した当日から調査を開始することができ、その後もほとんど休みなくサルデーニャ島を車で走りまわり、結果的には10カ所もの村落を訪れることができた。これによりポリフォニック・コーラスの実演に数多く立ち会って、それをドキュメントする機会が得られ、研究の土台となる音響映像資料を予想以上に蓄積することができた。 第二の理由は、コーラスの歌い手となる人びとの稀に見るホスピタリティと開放的性格である。私の訪れたすべての村落において、人びとは私を歓待してくれ、遠い日本から来た私がポリフォニック・コーラスに興味をもっていることを素直に喜び、どのような質問にたいしても熱心に、そして辛抱強く答えてくれた。それによって、比較的短時間のうちにかなりの分量の音楽民族誌的データを集めることができ、それが現在の研究の進展につながっていることは疑いない。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は、8月下旬から9月中旬にかけて、サルデーニャ島西部・中部・東部においてポリフォニック・コーラスに関する約20日間の現地調査をおこなう。平成25年度の調査で得られた情報として、9月6日にボザで、また9月7日にボルティガリで大規模な宗教的祭礼がおこなわれることがわかっている。そのいずれにおいても、多くの人びとが行列をなして行進するなか、いくつもの男性4人のグループも行進に加わり、ラテン語の歌詞を用いたポリフォニック・コーラスをおこなうという。こうした宗教的コンテクストのなかで歌われるコーラスのスタイルは、1人の主唱者がまず歌詞を歌いはじめ、それに残りの3人が加わり、同じ歌詞で唱和するというもので、ボザでは「ア・トラッジゥ A Traggiu」、ボルティガリでは「ア・クンコルドゥA Cuncordu」と呼ばれている。平成25年度の調査では、実際の祭礼におけるコーラスを聴くことができなかったため、これらは貴重な音響データとなるであろう。また、両日の前後数日間はボザとボルティガリに滞在して、祭礼に関する背景調査や、歌い手との集中的インタビューもおこなう予定である。 その他の村落に関しては、平成25年度に訪れた村々のうち、サント・ルッスルジュ、トロペ、ビッティは、コーラス・グループの数が多く、演奏水準や熟練度も非常に高いため、再訪する予定である。その際、それぞれの滞在日数を延長して、より深いレベルでの調査を試みる。さらに、イグナツィオ・マキアレッラ博士の協力を得て、これまで訪れたことのない地域(たとえばサルデーニャ島北部)へも足を伸ばし、より多様で新奇な歌唱スタイルや発声スタイルの探求も積極的におこなう予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
残額が820円と少額のため、平成25年度内に使い切ることができなかった。 平成26年度に、旅費の一部として使用する。
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