2014 Fiscal Year Research-status Report
イタリア南西部の民俗的ポリフォニック・コーラスに関する音響身体論的研究
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25580027
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Research Institution | Kyoto City University of Arts |
Principal Investigator |
山田 陽一 京都市立芸術大学, 音楽学部, 教授 (80166743)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 多声部合唱 / 音響的身体 / 音響空間 / 音響人類学 / 音楽人類学 / 民族音楽学 / 国際情報交換(イタリア) |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年8月29日から9月8日の11日間にわたり、イタリア共和国サルデーニャ島西部・中部・東部に位置する6村落(サント・ルッスルジュ、スカノ・モンティフェッリ、ビッティ、ヌオロ、ボザ、ボルティガリ)において、男性4人によるポリフォニック・コーラス(多声部合唱)に関する現地調査をおこなった。サント・ルッスルジュでは、宗教的多声部合唱のエキスパートであるス・ロザリオのメンバーたちと集中的なインタビューをおこない、彼らの合唱にたいする熱意の源泉や美意識のありかたについて詳しく探ることができた。またスカノ・モンティフェッリでは、若者を中心とした数グループの屋外でのパフォーマンスに立ち会い、ビッティでは、ベテランによる高度に熟達した合唱を経験するとともに、声の響きあいに関するメンバーたちの認識や感覚を追究した。さらにヌオロとボザでは、多声部合唱の伝承と発展を目的として設立された協会のメンバーたちと交流し、研究代表者自身も多声部合唱に参加し、4パートそれぞれの歌いかたを学ぶという貴重な経験を積むことができた。最後にボルティガリでは、「サンブーコSambuco」とよばれる聖マリア祝祭の調査をおこなった。この祝祭は、毎年9月の第1日曜日にはじまり、10日間のあいだ、ボルティガリのほとんどの住民(約1500人)が、約15km離れた丘にあるキャンプサイトに寝泊まりしながら連日儀式を執りおこない、その他の時間はひたすら多声部合唱に興じるというものである。 以上の調査において、デジタルビデオカメラによる約25時間の映像記録、PCMレコーダーによる約10時間の録音記録、およびデジタルカメラによる約350枚の写真記録をおこなった。調査終了後、ただちに映像記録等の整理と分析を開始し、パフォーマンスにおいて響きあう声と歌う身体のありかたについて考察を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度に調査をおこなった6村落はすべて、平成25年度の調査で訪れたことのある場所であるため、すでに知己となった人びとが数多く存在し、研究代表者の受け入れについて何の問題もなく、調査は全体として非常にスムーズに遂行された。また平成25年度と同様に、調査スケジュールの策定や歌い手たちとの連絡・調整、ガイド、通訳、移動のための車の運転を一手に引き受けてくれた、サントゥ・ルッスルジュ出身のディエゴ・パニ氏(現在はミラノ大学大学院生)のはたした役割はきわめて大きく、本調査にたいして多大な貢献となった。 ただ一点、計画どおりに実施できなかったのは、ボザの宗教的祭礼の日程が間際になって変更されたため、本来の宗教的儀式における多声部合唱の事例に立ち会うことができなかったことである。しかし、これはいわば不可抗力的なアクシデントであり、平成27年度には確実に調査できるものと考えられる。他方、ボルティガリにおいては宗教的コンテクストのなかの多声部合唱を調査することができたため、ボザの件は、平成26年度の研究計画全体にたいしては大きな支障とはなっていないといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は、8月下旬から9月中旬にかけて、ボザとボルティガリの宗教的儀式における多声部歌唱に焦点を絞りこんだ現地調査をそれぞれ約10日間、計約20日間にわたっておこなう予定である。これまで得られた情報によると、ボザでは多くの人びとが行列をなして行進するなか、男性4人からなるいくつものコーラス・グループが行進に加わり、時おり立ち止まってはラテン語の歌詞を用いた多声部合唱をおこなうという。この合唱は、ボザでは「ア・トラッジゥA Traggiu」とよばれる。現地調査では、儀式と多声部歌唱の映像記録を中心に、儀式に関する背景調査や、声の響きあいに関する歌い手たちの意識について集中的インタビューをおこなう計画である。 これにたいし、ボルティガリの多声部歌唱は、宗教的儀式そのもののなかで歌われるのではなく、儀式のあとで、いたるところに人びとが集まって、自然発生的にさまざまなコーラス「ア・クンコルドゥA Cuncordu」がおこなわれる。そのコーラスは、宗教的な歌詞をもつものもあれば、サルデーニャ出身の詩人による歌詞や世俗的な歌詞を歌うものもある。小高い丘の中腹のあちらこちらで、多くの人びとが自由気ままに歌い、ワインを飲み、10日間という長い期間をリラックスしながら心底楽しんでいるなかに身をおき、彼らと同じ時間と音楽を共有することは、じつに稀有で有意義な経験といえる。ボルティガリでは、そうした多声部合唱の多様性と人びとの意識、そしてたがいに響きあい、歌に憑依される身体について考察を深めたい。
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Causes of Carryover |
各地の訪問日程を調整した結果、サルデーニャ島での全体の滞在日数が数日分短くなったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度に、旅費の一部として使用する。
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