2014 Fiscal Year Research-status Report
チュニジア音楽のトゥブー(旋法)とイスティフバル(即興)の分析
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25580028
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Research Institution | Tama Art University |
Principal Investigator |
松田 嘉子 多摩美術大学, 美術学部, 教授 (80407832)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | アラブ音楽 / チュニジア音楽 / ラシディーヤ / トゥブー / イスティフバル |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度もチュニジア伝統音楽の歴史と現状を見据えながら、その楽理の体系化のための資料を収集し、またジャスミン革命後のチュニジア古典音楽界の状況について調査を行って、研究を進めた。 平成26年7~8月にチュニジアにおいて現地調査を行い、シディ・ブサイドにある「エンナジュマ・エッザッハラ」地中海アラブ音楽研究センターにおいて、図書資料、音源資料を収集し、チュニジア音楽の歴史、楽器、代表的音楽家の生涯や作品について調査した。 またチュニスにある「ラシディーヤ」伝統音楽研究所において、チュニジア古典音楽界の変化や現状について調査した。ジャスミン革命後、「ラシディーヤ」では、ズィアド・ガルサ、ムラッド・サクリ、ヘディ・モホリと、めまぐるしく研究所長が交代した。ヘディ・モホリ新研究所長にインタビューを行い、研究員たちとの意見交換を通じて、研究所の活動方針についての詳細な情報を得た。また2014年ラマダン時期に発足したラシディーヤ研究所主催第1回「タルニメット音楽祭」には自らのグルーブを率いて演奏家として出演し、ラシディーヤ地方支部(ケルアン、カリビア等)の楽団員たちと交流しながら、古典楽曲の演奏における派生形やよく使用されるトゥブーについて、有意義な議論を行った。 さらに現地において、スラーフ・エッディン・マナー(ナイ奏者)、ハリッド・ベッサ(ウード奏者)をはじめとするチュニス国立高等音楽院ならびにチュニス国立コンセルヴァトワールの教授陣の演奏を録音・録画した。伝統的なトゥブー(旋法)にもとづくイスティフバル(即興演奏)の録音・録画資料を豊富にすることができた。 以上の成果の一つとして、研究論文を執筆。多摩美術大学紀要に『チュニジア伝統音楽研究所「ラシディーヤ」』を発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当研究の目的は、チュニジア古典音楽におけるトゥブー(旋法)と、その実践形態の重要な一つであるイスティフバル(即興演奏)の分類整理と体系化である。 ジャスミン革命後2年余りは、政治体制の混乱やデモ多発等の状況を考慮し、チュニジア渡航を控えざるを得なかったが、平成26年7月、チュニジアにて現地調査を行い、着実に研究を進めることができた。現地の音楽家たちと交流し、地中海アラブ音楽研究センターやラシディーヤ・チュニジア伝統音楽研究所の図書資料、歴史的写真資料、音源資料等を収集した。また代表的音楽家たちに様々なトゥブーおけるイスティフバルの演奏を依頼し、それを録画した。現在、そうした資料の分析と整理を進めている。 とくに、録音の場に立ち会い、演奏家の話を直接聞くことで、アンダルス由来の13の伝統的なトゥブーのうち、現在でも好んで演奏されるものは何か、またそれらが実際にどのように作曲や即興演奏に用いられ、相互に関連しあっているか、こうした実践上の詳細に、より踏み込んだ理解を深めることができたのは貴重であり、順調な進展である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究において、現地調査の意義は非常に大きく、平成27年度もチュニジアやエジプトでの現地調査を行う方針である。変化しつつあるチュニジア古典音楽界の動向は、特に現地に行かないと分かりにくいものである。 しかしながら、昨今の「イスラム国」とそれに連動・共鳴する過激派組織の動向、ジハード主義者のグローバル化は、中東および北アフリカ全般の政情不安を呼び起こし、先の見えない状況を生んでいる。チュニジアも長い間アラブ文化圏ではもっとも近代化が進み、安全に渡航できる国の一つであったが、残念ながら政府や外国人を標的とした不穏なテロ活動と無縁でなくなってきた。エジプトもさらに深刻な状況が続いている。 もしセキュリティの問題から平成27年度にこれらのアラブ諸国への渡航が不可能である場合は、これまでに収集した資料の分析・整理に注力し、現地の音楽家や研究者たちとは、インターネットを中心とする通信を通じて交流・情報交換し、研究を進める。 チュニジア音楽の研究には、アンダルスを源流とする他の国の音楽~モロッコ・アルジェリア等~との比較も欠かせない。これらの音楽の諸相も視野に入れ、チュニジア音楽の特質を浮かび上がらせる。 楽曲分析やトゥブー、イスティフバルの研究成果は論文として発表する。
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Causes of Carryover |
次年度に使用する研究費が生じた理由は、平成27年年3月にエジプトにてトゥブーやマカーム体系について現地調査をする予定であったが、緊迫する中東情勢と無差別テロなど調査地域の治安悪化を鑑み、止むを得ず調査時期を変更したためである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
現地調査を次年度に行うこととし、未使用額は渡航費用、音楽家への謝金、資料購入等に使用する予定である。調査時期は平成27年夏を予定しているが、情勢によっては、調査時期や調査地域を変更する。
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