2014 Fiscal Year Research-status Report
18-19世紀花鳥画と美人画の境界的画題に関する研究
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25580035
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Research Institution | Gakushuin Women's College |
Principal Investigator |
今橋 理子 学習院女子大学, 国際文化交流学部, 教授 (70266352)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 日本・東洋美術史 / 江戸時代絵画 / 近代美術 / 画題 / 図像と言説 / 花鳥画 / 美人画 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は平成25年度より3年間にわたる予定であり、本年はその2年目にあたった。研究代表者は長年江戸時代花鳥画と博物学の関係性を問う研究に取り組み、とくに近年では、近世期以降に新たに生まれた「画題」の生成と消長の過程を明らかにする研究に重点を置いてきた。その研究途上で気づいたのが、根本的に「ことば」と切り離すことができない絵画ジャンルの存在である。暗喩として隠されたことばは、必ずしも現代語の意味や現代文化の事象とは直結しない場合が多く、すでに消失してしまった「出来事」など、歴史的および民俗的事象の反映である場合を想定すべきだということである。現代における「花鳥画」ジャンルに対しての議論は、モチーフの個別的同定やその組み合わせによる構図法など、比較的に表層的な分析にとどまっている場合が多い。しかし、花鳥画は伝統的に〈吉祥性〉を導く視覚言語としての機能をもっており、根本的に「ことば」と切り離すことは元来できない。このような視点の元に、26年度は以下2つの論文を発表した。 ①「1900年の楊貴妃――矢崎千代治《教鵡》と正岡子規、鏑木清方」(サントリー文化財団編『アステイオン』81号、2014年11月) ②「白鸚鵡と美少女(上)――鏑木清方《鸚鵡》と《嫁ぐ人》」(『学習院女子大学紀要』第17号、2015年3月) これら2つの論文ではいずれも、近世期までに成立した「美人と白鸚鵡」という花鳥画と美人画の両方に跨る伝統的「画題」が、明治以降の日本が画家たちには如何に理解され、またそれを転用して「新しい画題」として採用されたかについて考察を行った。本研究では、近代文学における短歌や小説創作の問題も絡んでいることが明らかとなったので、②に関してはさらにそれについて追究し、同論文の後編として執筆を継続する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
従来の日本および東洋美術史では、美人画を含む「人物画」と「花鳥画」が、同系列的に考察されることはまずなく、ジャンルとしては厳然と分けられて研究されてきた。しかし両者間において、例えば「見立て」の思考が両立することなどは考えられてはおらず、そのためには、新しく作品解釈を可能にするための新たな原理性を発見・確立することが重要である。研究代表者はこの点に留意して、とくに上記②「白鸚鵡と美少女(上)――鏑木清方《鸚鵡》と《嫁ぐ人》」(『学習院女子大学紀要』第17号、2015年3月)を執筆した。本論文により、江戸時代から引き継がれた〈伝統〉を、近代画家たちが如何に理解し、また新たな画題として「再創出」したかについては、ほぼその原理性を歴史的に説明することが出来たと考えている。ただし、当初予定していた作品調査の一部が所蔵先の都合により実施することができなかったため、それについては27年夏季に実施する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
前述したように、研究代表者は現在、明治時代以降のいわゆる近代美人画・花鳥画の「主題解釈」に関して引き続きの検討を行っている。とくに明治以降にも、一大流派として引き継がれた円山四条派については重要と考えており、平成26年度中に作品調査を終えることができなかった(所蔵先の都合により調査・出張を延期せざるを得なかった)分については、27年夏季に実施する予定である。そうした調査の成果も加えた上で、上記②の後編「白鸚鵡と美少女(下)」の論考を執筆予定であり、『学習院女子大学紀要』第18号(2016年3月発行予定)にて発表したいと考えている。さらにそれらを踏まえた上で、今年度中には最終的な著作の執筆にも取り掛かる予定である。
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Causes of Carryover |
当初予定していた作品調査の一部が所蔵先の都合により実施することができなかったため、これに伴う旅費等の支出分は平成27年度に繰り越すことになった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記作品調査については、平成27年度夏季に実施する予定であり、これに伴う旅費等の支出が発生する。
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